<発表のポイント>
◆トリケラトプスに代表される植物食恐竜の角竜類の鼻において、神経血管系などの化石に残らない器官の配置や発達の程度について推定を行いました。
◆角竜類の鼻は極端に特殊化しているため他の恐竜類と比べて解剖学的な知見が不足していましたが、本研究によって鼻の器官についての包括的な復元仮説が初めて提唱されました。
◆この研究によって得られた基礎的な知見をもとに、角竜類が持つ特徴的な頭部の機能や進化についての研究が進むことが今後期待されます。

本研究で推定されたトリケラトプスの鼻の軟組織
2月16日配信のプレスリリースをWEB用に修正(2026/2/16)
<概要>
東京大学総合研究博物館の多田誠之郎特任助教と、国立科学博物館生命史研究部の對比地孝亘研究主幹、薩摩川内市甑ミュージアムの石川弘樹学芸員、我孫子市鳥の博物館の脇水徳之学芸員、福井県立大学恐竜学部の河部壮一郎教授、同大学大学院生物資源学研究科生物資源学専攻の坂根広大博士課程学生らによる研究グループは、トリケラトプスに代表される植物食恐竜のグループ「角竜類」(注1)において、化石には直接残らない鼻の軟組織の配置や発達の程度を初めて包括的に推定しました。角竜類の化石の形態をCTスキャンデータも用いて詳細に他の爬虫類と比較することで、特にトリケラトプスなどの派生的な角竜類において固有の解剖学的な特徴が見られることを初めて明らかにしました(図1)。謎が多い角竜類の頭部形態に関する基礎的な知見を提供する本研究の成果は、極端に特殊な頭部が角竜類で進化した過程やその理由の解明に繋がることが期待されます。
図1:鼻の神経系パターンの推定
(左)CTスキャン撮影を行ったトリケラトプスの左上顎骨と、三次元構築した内部の管や空洞。(右)化石に残るそれらの特徴を、今生きている爬虫類に見られるパターンと比較して、派生的な角竜類で鼻の神経パターンを推定したもの。
<発表内容>
トリケラトプスに代表される角竜類は、特徴的な大きな頭骨を持ちます。これまでの研究では、そのうち特に後頭部から伸びたフリル(襟飾り)や角などに着目した研究が頻繁に行われてきました。しかし、顕著な特徴の一つである巨大な骨鼻孔を含む鼻の領域については、極端に特殊化が進んでいるために他の系統との比較が難しく、これまで解剖学的な理解が進んでいませんでした。
そこで本研究チームは、網羅的な角竜類の化石標本の観察を行い、他の爬虫類との詳細な比較から、化石には直接残らない鼻の器官について包括的に推定を行いました。特に、トリケラトプスの頭骨の一部についてはCTスキャン撮影を行い、内部の構造から神経血管系のパターンを復元しました(図1)。
その結果、これまで有無が明らかでなかった鼻腺や鼻涙管など、鼻にある一通りの器官についてその存在や配置が推定されました(図2)。神経血管系については、派生的な角竜類において頭骨の各部が変形することでパターンが変化し、眼神経血管束が鼻孔周辺や吻端に優位に分布するなどこれらのグループにしか見られない固有なパターンを持っていたことが明らかになりました。また、今生きている動物の中で鳥類と哺乳類だけが持つ呼吸鼻甲介(注2)と呼ばれる構造を鼻腔内に持つことが初めて明らかとなり、陸上の脊椎動物で最も大きい角竜類の頭部の温度を調整するのに役立っていた可能性が指摘されました。
この研究結果は、これまで他の恐竜類と比べて大きく不足していた角竜類の吻部についての基礎的な解剖学的情報を提供するものであり、角竜類の頭部が果たす機能や進化の過程についての今後の研究に貢献することが期待されます。

図2:本研究で推定した派生的な角竜類における鼻の軟組織
<発表者・研究者等情報>
東京大学
総合研究博物館
多田 誠之郎 特任助教
薩摩川内市甑ミュージアム
石川 弘樹 学芸員
福井県立大学
恐竜学部
河部 壮一郎 教授
大学院生物資源学研究科 生物資源学専攻
坂根 広大 博士課程学生
<論文情報>
雑誌名:The Anatomical Record
題 名:Nasal soft-tissue anatomy of Triceratops and other horned dinosaurs
著者名:Seishiro Tada, Takanobu Tsuihiji, Hiroki Ishikawa, Noriyuki Wakimizu, Soichiro Kawabe & Kodai Sakane
DOI: 10.1002/ar.70150
URL: https://doi.org/10.1002/ar.70150
<研究助成>
本研究は、科研費「角竜類の頭骨形態が果たす熱生理学的機能の解明(課題番号:24KJ1879)」、日本学術振興会若手研究者海外挑戦プログラム「鼻腔構造にもとづく恐竜類における内温性獲得過程の解明」、東京大学大学院理学系研究科大学院学生国際派遣プログラムの支援により実施されました。
<用語解説>
(注1)角竜類(Ceratopsia)
中生代ジュラ紀に出現し、白亜紀の北半球で広く栄えた植物食恐竜。もともとは中型犬程度の体格しかない小型の恐竜だったが、のちに角やフリルを発達させた派生的な大型種(トリケラトプスなど)も現れた。「ケラトプシア類」や「ケラトプス類」と訳される場合もある。
(注2)呼吸鼻甲介
鼻腔内部に突き出した複雑な形状の突起。渦巻き状やT字型の構造によって表面積が増えることで、鼻の周囲を走る血液が空気によって温度調整される機能があると解釈されている。この構造は内温動物の鳥類・哺乳類で独立に獲得された。
<関連情報>
「プレスリリース:肉食恐竜における鼻を使った脳冷却システムの進化」(2023/4/12)
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/8401/


