東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo


 東京大学総合研究博物館は、知の源泉として歩んでいます。大学に数ある組織の中でも、総合研究博物館には無数の標本資料を集めて収蔵し、それを次世代へ受け継いでいくという、際立つ特徴があるといえます。
 二十一世紀が四分の一を過ぎつつあるいま、世の中はどうなっているのでしょうか。かつては思いも寄らなかったようなテクノロジーが発展し、便利な生活や巨大な経済が花開いています。国や社会の在り様が変貌し、物事に対する考え方まで、以前とは違っているでしょう。しかし、絶対に変わらないことが、ひとつあります。それは、「知りたい」と思う人間の好奇心です。「命とは何か」、「宇宙とは何か」、「人間とは何か」……。学者も大学も、そうした問いへの思索に絶えず没頭してきました。
 問いや謎や未知と対峙するとき、必要となるのが標本資料です。たとえば人間を知ろうとすると、サルがヒトに向かっていく経過を解析するために、たくさんの古い化石が必要になります。人間が農耕を始め、文明を築いてきた姿を理解するには、遺跡から掘り出した道具や、そこに見出される暮らしと社会の痕跡を調べなければなりません。「知りたい」と考える飽くなき気持ち―好奇心―を支えるには、標本資料を収集し、蓄積し、継承していかなければならないのです。それを続けることこそが、総合研究博物館の存在意義です。
 博物館が生み出す最新の研究成果の多くが、こうした標本資料から生み出されます。総合研究博物館がもつ標本の数は、およそ四百万点。それは、学内各部局の多くの方々、そして世界中の熱い志によって長い蓄積の歴史を歩み、今日この瞬間も集められています。総合研究博物館は、知を大切にするこうした方々に、心からの感謝を申し上げます。博物館は標本資料の一つ一つを、人類の新しい知識や考え方の源泉として、末永く育てることを約束します。
 世の中は合理主義や拝金やポピュリズムが幅を利かせています。知よりも経済が、文化よりも金銭が、本当に大切なことよりも数値ばかりがもてはやされます。しかし、もしも、表層的・物質的・経済的な富ばかりを大学と社会が求めたら、そこには人が働いて死ぬだけのつまらない世の中しか、残すことができません。時代が変わっても社会が変わっても、人間は、「人間であるために」、好奇心をもち続けます。東京大学総合研究博物館は、そのために必要な研究資料を未来に継承し、知と文化を育てる主体者であり続けます。


2026年4月
東京大学総合研究博物館長
遠藤 秀紀