東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo

2002年秋に発足したミュージアム・テクノロジー寄付研究部門では、建築工学、展示工学、情報工学の専門研究者を客員教官として招聘し、従来の展示公開活動のさらなる充実を図るのみならず、博物館コンセプトそのものの斬新的なデザイン化を推進することを目的としている。その基盤を大学博物館ならではの学術標本環境に置く一方、多様な博物館デザインの模索現場と、その発信元としての社会貢献をも目指している。


展示アイテムの構成イメージ (洪恒夫)


「石の記憶」展


「アフリカの骨、縄文の骨」展 (デザイン:洪恒夫)


アフリカの骨、縄文の骨」展

産学連携時代の博物館デザイン・ラボ西野嘉章

  2005年10月1日、東京大学総合研究博物館に「ミュージアム・テクノロジー(博物館工学)II寄付研究部門」が新発足しました。これは、国内初の産学連携ミュージアム・シンクタンクとして3年前に誕生した「ミュージアム・テクノロジー(博物館工学)寄付研究部門」を発展的に継承するもので、ミュージアムに求められる各種の事業プランや展示キット、さらには社会教育プログラムや事業評価システムについて、先導的な実験を試みる研究ラボとしての役割を担うものです。
 
  この寄付研究部門には、本館研究部の専任教員のほかに、学外から展示デザイン、建築・情報デザイン、文化資源学、博物資源学の専門研究者がスタッフとして協同参加し、学内の教育研究との連動をはかりながら、総合研究博物館を拠点に、企画展示、モデル設計、教育プログラム推進、出版等の諸事業を推進していくことになります。時代の要請に応えるべく、受託研究、共同研究による産学連携事業とも、従前通り、積極的に取り組んでいきたいと考えています。異分野・業種間の連携促進、実学的な成果探求、専門教育との融合連動が、このラボの活動の基本的な指針です。
 
  今後、3年間にわたる研究活動の方向として、われわれは次の3つのテーマを研究課題として想定しています。
 
  その第1は、新しい展示技術・展示素材・展示キットの開発です。大学博物館の展示は、そもそもが実験展示の場であるということもあり、一般のミュージアムでは容易に試みがたい各種のアイデアを具体化する格好の機会を提供してくれます。加えて、大学博物館は余所に見いだしがたい膨大な学術標本を蔵していますので、自然史から文化史まで、幅広いコンテンツを利用して様々な展示実験を行うことができます。デジタル画像アーカイヴやユビキタス・コンピュータ・システムの利活用は当然のこととして、それらをミュージアム空間に相応しいかたちで運用可能にするハードウエア、デジタル・デヴァイス、情報発信インターフェースの開発・設計も進めて行きたいと考えています。館内の展示で試行した技術・デヴァイス・素材・キットを、一般のミュージアムで広く実用化できるものにまで錬成することが、われわれの研究課題の第1です。
 
  研究課題の第2は、ミュージアムの活動事業評価の指標を確立することです。ミュージアム、あるいは言葉の広い意味での文化施設一般は、施設設備のあり方や各種事業の内容について不断に自己点検・評価を行い、その結果を広く内外に開示し、次の活動プログラムへ反映させる自己改善型運営システムを確立しなくてはなりません。とりわけ、今日のように、社会的な説明責任が問われる時代にあってはそうです。また、既存の施設・設備のリニューアルにさいしても、外部と内部の両面から「客観評価」を行う必要性があります。われわれは、大学博物館の諸事業を通じて蓄積してきた評価手法に関する知識・経験を基に、一般のミュージアムに敷衍可能な事業評価方法の開発研究に取り組みたいと考えています。
 
  第3の、そしてもっとも重要な研究課題は、ミュージアム事業における「デザイン」の優位性を、認識として広く社会に定着させることにあります。ミュージアムにふさわしい「かたち」を、スペース・デザイン、グラフィック・デザイン、グッズ・デザインなど、情報の発信・伝達メディアの装いを整えるという即物的な側面だけでなく、社会的な機能、組織的な配置、教育的なプログラムなどの個々の組み立て、さらには物象と運営ソフトを統合して、近未来のミュージアムのしかるべき「モデル」を提示することを通じて、探求してみたいと考えています。本来なら、公共財蓄積装置として長期にわたって安定した運営を保証されてしかるべきミュージアムが、経済や社会の逆風に晒されて苦戦を強いられている現状を打破するため、いまいちど美しい「かたち」を再興させ、万人を迎え入れる心地よい空間・組織・プログラムを総合的に立ち上げる方策を検討してみたいのです。
  寄付研究部門の第1期を立ち上げるさいに、われわれは次のように宣言しました、「いまミュージアムに求められているのは、斬新な『アイデア』であり、賢明な『知恵』であり、優美な『デザイン』であり、さらには自館の存在や役割を他の何をもってしても代え難いものとする魅力的な施設設備であり、独創的な企画展示であり、意外性のある活動プログラムなのです」。この認識は、向こう3年間にわたる寄付研究部門の活動方針として、いまだ失効していません。もちろん、言うは易く、行うは難しです。しかし、一般のミュージアムの行いがたい企てと敢えて取り組むことこそ、パイロット・ラボとしての「ミュージアム・テクノロジー(博物館工学)II寄付研究部門」に付託された使命なのです。
   (本館特任教授 博物館工学・美術史学)

博物館組織


ミュージアム・テクノロジー寄付研究部門
担当教授   西秋 良宏 (先史考古学)  
客員教授 洪 恒夫 (展示デザイン)  
特任教授 松本 文夫 (建築学)  
特任助教 白石 愛 (博物資源学)