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ニワトリの雛(左)と雌(右) 
(マレーシア・クアラルンプールにて)
ニワトリの雛(左)と雌(右)(マレーシア・クアラルンプールにて)

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北海道⼤学総合博物館
東京⼤学総合研究博物館
⽥原本町教育委員会

【ポイント】
・弥⽣⽂化におけるニワトリの継代飼育を初めて実証。
・⽇本列島最古のニワトリの⾻の年代(紀元前3 世紀〜4 世紀)を確定。
・コラーゲンタンパクの質量分析によるニワトリの⾻の同定の有効性を実証。

【概要】
 北海道⼤学総合博物館の江⽥真毅教授らと東京⼤学総合研究博物館、⽥原本町教育委員会の研究グ
ループは、唐古・鍵遺跡(国指定史跡・奈良県⽥原本町)で⾒つかった⾻の中から、⽇本列島最古の
ニワトリの雛の⾻を発⾒しました。

 ニワトリはもともと、東南アジアに⽣息するセキショクヤケイを飼い慣らしたものです。⽇本列島
には弥⽣時代に導⼊されたと考えられていますが、その詳細な年代は明らかになっていませんでし
た。また、弥⽣時代のニワトリはその形態からほとんどが雄であり、⽇本列島ではほとんど繁殖させ
ることができなかった可能性が考えられてきました。唐古・鍵遺跡では、弥⽣時代中期初頭と推定さ
れる溝からキジ科(ニワトリやキジ、ヤマドリを含むグループ)の雛の⾻が4点みつかりました。し
かし、形態的特徴からはニワトリのものかどうかは特定できませんでした。

 そこで本研究では、唐古・鍵遺跡でみつかったキジ科の雛の⾻2点を対象に、コラーゲンタンパク
の質量分析による⾻の種同定(=由来⽣物の特定)を実施しました。また、そのうち1点について放
射性炭素年代測定による実年代の特定を実施しました。その結果、2点のキジ科の雛の⾻はいずれも
ニワトリのものであることが分かりました。また雛の⾻は紀元前3 世紀〜4 世紀のものであることが
確認されました。これらの結果から、少なくとも唐古・鍵遺跡ではこのころからニワトリが継代飼育
されていたと推定されました。唐古・鍵遺跡は⽇本列島の弥⽣⽂化における最⼤規模の集落遺跡であ
ることから、今回の結果は⽇本列島の弥⽣⽂化の集落でニワトリが広く継代飼育されていたとみなせ
るものではありません。今後、本研究で有効性が確認されたコラーゲンタンパクの質量分析を⽤いた
キジ科の⾻の同定が進められることで、弥⽣⽂化におけるニワトリ飼育の様相がより詳細に明らかに
なると期待されます。

【研究手法】
 本研究では、唐古・鍵遺跡で⾒つかったキジ科の雛の⾻2点(図1)を対象に、コラーゲンタンパク
の質量分析による⾻の種同定を実施しました。この⽅法は研究グループが2020年に確⽴・発表した⽅
法で、⽇本に⽣息する中型のキジ科の野⿃(キジとヤマドリ)とニワトリの識別が可能です。

 遺跡で⾒つかった⾻1mg程度をサンプルとしてコラーゲンタンパクを抽出・酵素(トリプシン)処理
し、⾶⾏時間型質量分析計で分析します。得られたスペクトラムにキジ・ヤマドリあるいはニワトリに
特徴的なピークがあるかどうかに基づき、⾻の同定が可能です。また、ニワトリと同定された雛の⾻の
うち1点について、放射性炭素年代測定による実年代の特定を実施しました。

図1. 唐古・鍵遺跡からみつかったニワトリの雛の⾻(1:⼤腿⾻、2:寛⾻)

【研究成果】
 質量分析の結果、キジ科の雛の⾻2点のスペクトラムでは、いずれもニワトリに特徴的なピークが確
認され、ニワトリと同定されました(図2)。また放射性炭素年代測定の結果、雛の⾻は弥⽣中期初頭に
相当する紀元前3世紀〜4世紀のものであり、混⼊した新しい時代の⾻ではないことが確認されました。

 これらの結果から、少なくとも唐古・鍵遺跡では弥⽣中期初頭からニワトリが継代飼育されていたと
推定されました。⽂献記録から紀元前641年までに中国にはニワトリがいたと考えられてはいますが、
これまでのところ⽇本列島だけでなく中国や韓国、台湾を含む東アジアにおいて、確実な基準に基づい
て同定されたニワトリの⾻の年代が直接決定された例はありません。

 本研究で明らかになった紀元前3世紀〜4世紀という年代は東アジアにニワトリが導⼊された下限と
みなすことができるものでもあります。

図2. ⾶⾏時間型質量分析計で得られた唐古・鍵遺跡資料のトリプシン切断コラーゲン断⽚のスペ
クトラム(1 と2 の2 つのピークから資料は⼆ワトリの雛の⾻と同定)

【今後への期待】
 今回、紀元前3世紀〜4世紀のニワトリの雛を⾒出した唐古・鍵遺跡は⽇本列島の弥⽣⽂化における
最⼤規模の集落遺跡です。そのため、今回の結果は⽇本列島の弥⽣⽂化の集落でニワトリが広く継代飼
育されていたとみなせるものではありません。ニワトリは唐古・鍵遺跡のような最⼤規模の拠点集落で
のみ継代飼育できるものであった可能性があります。今後、本研究で有効性が確認されたコラーゲンタ
ンパクの質量分析を⽤いたキジ科の⾻の同定が進められることで、弥⽣⽂化におけるニワトリ飼育の様
相がより詳細に明らかになると期待されます。

 また⽇本列島のようにニワトリの導⼊初期に、その性⽐が著しく雄に偏る例は世界的にも類例が知ら
れていません。このような傾向が朝鮮半島や中国東部など他の東アジア地域でも⼀般的であったのかな
どの解明も今後の課題です。

【謝辞】
 本研究は、⽂部科学省科学研究費補助⾦(課題番号JP18K18521、JP20H01367、20H05819)の助成
を受けて⾏われました。

【論文情報】
論⽂名 The earliest evidence of domestic chickens in the Japanese Archipelago
   (⽇本列島におけるニワトリの最古の証拠)
著者名 江⽥真毅1、泉 洋江1、⽶⽥ 穣2、藤⽥三郎3
    (1北海道⼤学総合博物館、2東京⼤学総合研究博物館、3⽥原本町教育委員会)
雑誌名 Frontiers in Earth Science(スイスの地球科学の専⾨誌)
DOI 10.3389/feart.2023.1104535
公表⽇ ⽇本時間2023年4⽉20⽇(⽊)午後1時(英国夏時間2023年4⽉20⽇(⽊)午前5時)
    (オンライン公開)

【お問い合わせ先】
北海道⼤学総合博物館 教授 江⽥真毅(えだまさき)
TEL 011-706-4712
FAX 011-706-4029
メール edamsk[at]museum.hokudai.ac.jp

【配信元】
北海道⼤学社会共創部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条⻄5丁⽬)
TEL 011-706-2610
FAX 011-706-2092
メール jp-press[at]general.hokudai.ac.jp

※ [at]を@に置き換えてください。

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