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図1:(a) 炭素質コンドライト隕石薄片の光学顕微鏡写真。破線の領域の拡大写真を(b)に示す。楕円形を示す明るい物質(破片になったものも含む)がコンドリュール(Chondrule)、実線で囲った不規則形の物質がCAI、暗い領域が細粒の物質からなるマトリックス。

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東北大学大学院理学研究科
東京大学総合研究博物館

【概要】
 小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った近地球軌道小惑星リュウグウの試料にコンドリュール様物質とCAIが含まれていることが「初期分析チーム」の一つである「石の物質分析チーム」の研究(*)から明らかになっています。本研究はコンドリュール様物質とCAIの詳細な化学組成分析と酸素同位体比分析を行いました。 コンドリュール様物質はカンラン石に富む初生コンドリュールと考えられている物質と鉱物学的に類似しており、太陽近傍で形成したものと現在の小惑星帯領域で形成したものに分けられることが分かりました。CAIは、太陽系最古のCAIと同じくらい古く、太陽近傍で形成したと考えられます。コンドリュール様物質とCAIは共に直径30µm以下と小さいことから、原始太陽系星雲内側領域で形成したこれらの固体粒子のなかでも特に小さいものが選択的に太陽から遠く離れたリュウグウ母天体集積領域まで運ばれたと考えられます。コンドリュール様物質やCAIのような固体粒子がどのようにして太陽系遠方まで運ばれたのか、未だ明確な答えは出ていません。これを明らかにすべく、リュウグウ試料中のコンドリュール様物質とCAIの分析を更に進めます。

研究の背景と目的
 小惑星探査機「はやぶさ2」により2020年12月6日に地球へ帰還したリュウグウ試料の一部が6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」と2つの「Phase-2キュレーション機関」へ分配されました。初期分析チームの一つである石の物質分析チームの研究から、リュウグウ試料は水-岩石反応を経験した隕石グループの一つであるCI炭素質コンドライトに類似していること、リュウグウ母天体は太陽から遠く離れた低温領域(-200℃以下)で形成したこと、コンドリュール様物質とCAIが含まれていることが明らかになりました。
 コンドライトは未分化小惑星から飛来する隕石であり、コンドリュールとCAIが含まれることが知られています(図1)。ともに原始太陽系星雲の1000℃以上の高温環境でできた固体粒子ですが、コンドリュールは現在の小惑星帯を含む広い領域で形成し、CAIは太陽近傍で形成したと考えられています。コンドライトだけでなく、彗星試料にもコンドリュールとCAIが含まれています。コンドリュールとCAIは、原始太陽系星雲で起きた高温加熱現象についてだけでなく、物質の移動の機構について知るうえで重要な物質と言えます。一方で、CIコンドライトには、コンドリュールやCAIがほとんど存在しません。これらの固体粒子がCIコンドライトに元々存在しなかったのか、水-岩石反応によって失われたのか、その答えは未だに分かっていません。本研究は、隕石中のコンドリュールやCAIとの比較を通して、リュウグウ試料中にコンドリュール様物質とCAIが存在する意味とこれらの固体粒子の起源を明らかにすることを目的に、リュウグウ試料中のコンドリュール様物質とCAIの詳細な化学組成分析と酸素同位体比分析を行いました。

研究内容
 コンドリュール様物質とCAIは、無水の鉱物片とともに、リュウグウ試料の水-岩石反応の程度が小さい岩片にみられました。これらの固体粒子は、水-岩石反応後に小惑星リュウグウまたはリュウグウ母天体に入ったのではなく、リュウグウ母天体に元々存在した生き残りであると言えます。コンドリュール様物質は、丸い外形を持ち、主にカンラン石と金属鉄から構成され(図2a, b, c)、トリプルジャンクションという長時間の焼きなましによって作られる組織を示すものもありました(図2f)。

一方で、隕石中のコンドリュールにみられるガラスが含まれていませんでした。これらの特徴は、先行研究で初生コンドリュールとして提案されている物質の特徴と極めて類似しています。酸素同位体比を測定すると、はっきりと2つに分かれました(図3)。太陽型の酸素同位体比(図3の左下側)をもつコンドリュール様物質は太陽近傍で形成したと考えられます(図4)

一方の惑星型の酸素同位体比(図3の右上側)をもつコンドリュール様物質は現在の小惑星帯領域で形成したと考えられます。コンドライト隕石中においては、惑星型の酸素同位体比をもつコンドリュールが普遍的に存在する一方で、太陽型の酸素同位体比をもつコンドリュールはほとんど存在しません。まれに太陽型の酸素同位体比をもつ鉱物片を含むコンドリュールが見つかっています。これらは、太陽型の酸素同位体比をもつ物質と惑星型の酸素同位体比を持つ塵が混ざり合って作られたと考えられています。太陽型の酸素同位体比をもつコンドリュール様物質は、太陽近傍で形成した後に、惑星型の酸素同位体比をもつ塵との混合を免れた初生コンドリュールの生き残りであると考えられます。
 CAIは、難揮発性鉱物(スピネル、ペロブスカイト、ヒボナイト)からなり、周囲をAlに富む層状珪酸塩に囲まれています(図2d, e)。Alに富む層状珪酸塩は、元はAlに富む無水鉱物であったと考えられます。リュウグウのCAIは、隕石中のCAIと同様に、太陽型の酸素同位体比をもつことが分かりました(図3)。よって、太陽近傍で形成したと考えられます(図4)。隕石中のCAIは太陽系で最も古く、主要構成鉱物であるスピネルは中程度の揮発性元素であるCrに乏しいという特徴があります(図5)。

 一方、彗星試料中のCAIは比較的若く(数百万年以上)、スピネルは高いCr濃度を示すことが分かっています。彗星CAIは、再加熱によって年代がリセットされるとともに、周囲のガスもしくは塵からCrを取り込んだと考えられています。リュウグウCAIのスピネルはCrに乏しいことから、隕石CAI同様に古いという可能性が示唆されます。 リュウグウ試料中のコンドリュール様物質、CAI、鉱物片は直径30µm以下と小さいこと、リュウグウ試料上での捜索範囲(52.6mm2)に対するコンドリュール様物質とCAIの面積割合がそれぞれ20ppm以下と隕石での存在度(1%以上)に比べて非常に小さいことが分かりました。先行研究から、コンドリュールは形成領域からほとんど移動しないこと、水-岩石反応を経験した隕石にもコンドリュールがみられることが分かっています。リュウグウ試料中のコンドリュール様物質の極端に低い存在度は、コンドリュール(様物質)がリュウグウ母天体集積領域にほとんど存在しなかったことを示唆しています。つまり、コンドリュール様物質、CAI、鉱物片は原始太陽系星雲内側領域から輸送されたと言えます(図4)。
 彗星のコンドリュールやCAIも小さいことが先行研究から分かっています。原始太陽系星雲内側領域から選択的に小さい物質だけが輸送されたとすると、リュウグウ試料中のコンドリュール様物質、CAI、鉱物片が小さいことは、リュウグウ母天体が太陽から遠く離れた場所で集積したことが示唆されます。このことは、他のリュウグウ試料分析結果から得られている知見と整合的です。

図2:リュウグウ試料中のコンドリュール様物質とCAIの電子顕微鏡写真。(a, b, c)コンドリュール様物質。カンラン石(Ol)、金属鉄(Mt)、硫化鉄(Sul)、酸化物(Ox)、Ca輝石(Diop)からなる。(d, e)CAI。スピネル(Sp)、ヒボナイト(Hib)、ペロブスカイト(Pv)、Alに富む層状珪酸塩(Phyl)からなる。三角形で指す部分は酸素同位体比分析孔。破線で囲った部分は、透過型電子顕微鏡観察のために切り出した領域。(f)コンドリュール様物質C0040-02-Chdの透過型電子顕微鏡像。三角形で指す場所に、120ºの角度をもって鉱物粒子が接するトリプルジャンクションがみられる。(© Nakashima et al., 2023より改変)

 

図3:三酸素同位体比ダイヤグラム。一つのコンドリュール様物質を除いて、みな左下の太陽型の酸素同位体比をもつ。TFは地球型質量分別直線、PCMはPrimitive Chondrule Mineral line、CCAMはCarbonaceous Chondrite Anhydrous Mineral line、VSMOWはVienna Standard Mean Ocean Water。Ryugu (Lit.)は他のグループによるリュウグウ試料鉱物片の酸素同位体比データ。(© Nakashima et al., 2023より引用)

 

図4:リュウグウ試料のコンドリュール様物質とCAIの分析結果から推定されるコンドリュール様物質とCAIの形成領域と移動。

 

図5:CAIのスピネル中のCr濃度比較。リュウグウCAI(下段)と隕石CAI(中段;CM chondrites)のスピネルは中程度の揮発性元素であるCrに乏しい。一方で、彗星CAI(上段)のスピネルはCrに富むことが分かる。IDPsはinterplanetary dust particlesの略。Wild 2はNASA探査機スターダストによって回収されたWild 2彗星の試料を指す。(© Nakashima et al., 2023より引用)

【用語説明】

(注1)小惑星リュウグウ
 小惑星は、主に火星と木星の間で太陽の周りを公転する天体のうち、惑星と準惑星およびそれらの衛星を除く小天体で、約50万個あると推定されている。リュウグウは「C(炭素質)型小惑星」というグループの分類される小惑星の1つで、小惑星探査機「はやぶさ2」が2020年12月にここの試料を持ち帰った。

(注2)原始太陽系星雲
 45億6700万年前に誕生した直後の太陽系に存在していたと考えられる太陽を取り巻くガス円盤。現在の太陽系には存在せず、太陽系形成期の早い段階で消失したと考えられている。

(注3)CaとAlに富む包有物(CAI)
 太陽系で最古の難揮発性鉱物からなる固体粒子。太陽系形成期に太陽近くの高温のガスから凝縮してできたと考えられている。

(注4)コンドリュール
 小惑星起源の隕石に多く含まれている球状、またはそれに近い形態の粒子である。原始太陽系星雲内部で1000℃以上の加熱の後、急速に冷却されたことによってできたと考えられている。カンラン石と金属鉄からなる物質を出発物質とし、細粒な塵が付着して加熱・溶融を繰り返すことで作られたという説がある。

(注5)酸素同位体比
 安定同位体16O、17O、18Oの個数比。16Oを分母に取った比の地球海水の値からのずれを千分率で表したものをδ値と呼ぶ。隕石種とその構成物質ごとに異なる値を取るため、未知の地球外試料の起源を同定することに用いられる。

(注6)リュウグウ母天体
 誕生時のリュウグウ。直径はおよそ100km程度であったと考えられる。この母天体が破壊されて現在のリュウグウになった。

【論文情報】
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Chondrule-like objects and Ca-Al-rich inclusions in Ryugu may potentially be the oldest Solar System materials

著者:Daisuke Nakashima *(東北大学), Tomoki Nakamura (東北大学), Mingming Zhang (ウィスコンシン大学), Noriko T. Kita (ウィスコンシン大学), Takashi Mikouchi (東京大学), Hideto Yoshida (東京大学), Yuma Enokido (東北大学), Tomoyo Morita (東北大学), Mizuha Kikuiri (東北大学), Kana Amano (東北大学), Eiichi Kagawa (東北大学), Toru Yada (ISAS/JAXA), Masahiro Nishimura (ISAS/JAXA), Aiko Nakato (ISAS/JAXA), Akiko Miyazaki (ISAS/JAXA), Kasumi Yogata (ISAS/JAXA), Masanao Abe (ISAS/JAXA), Tatsuaki Okada (ISAS/JAXA), Tomohiro Usui (ISAS/JAXA), Makoto Yoshikawa (ISAS/JAXA), Takanao Saiki (ISAS/JAXA), Satoshi Tanaka (ISAS/JAXA), Satoru Nakazawa (ISAS/JAXA), Fuyuto Terui (神奈川工科大学), Hisayoshi Yurimoto (北海道大学), Takaaki Noguchi (京都大学), Hikaru Yabuta (広島大学), Hiroshi Naraoka (九州大学), Ryuji Okazaki (九州大学), Kanako Sakamoto (ISAS/JAXA), Sei-ichiro Watanabe (名古屋大学), Shogo Tachibana (東京大学), and Yuichi Tsuda (ISAS/JAXA)
*責任著者 DOI番号:10.1038/s41467-023-36268-8

【問い合わせ先】

<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻
講師 中嶋 大輔(なかしま だいすけ)
電話:022-795-5903
E-mail: dnak[at]tohoku.ac.jp

東北大学大学院理学研究科地学専攻
教授 中村 智樹(なかむら ともき)
電話:022-795-6651
E-mail: tomoki.nakamura.a8[at]tohoku.ac.jp

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電話:03-5841-2830
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