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図1. 本研究の概要図
(2026年3月17日修正.在来植物と外来植物の違いを明記)

<発表のポイント>

① 幼虫期に外来植物で飼育されたクロツバメシジミは、翅の反射スペクトルが変化していた。
② 外来植物で飼育されたクロツバメシジミのメスは、オスから交尾相手として選ばれにくくなる。
③ 外来植物がチョウの繁殖に間接的に悪影響を与えている可能性を示唆。

3月17日配信のプレスリリースをWEB用に修正(2026/3/17)

<概要>

 本研究グループは、準絶滅危惧のチョウであるクロツバメシジミのメスが、幼虫期に外来植物を食べて育った場合、成虫の翅(はね)の反射スペクトル※1が変化し、野外のオスから交尾相手として好まれなくなることを明らかにしました。これは、外来植物がチョウの生存に直接的な影響を与えないとしても、視覚的なシグナルを変化させることで間接的に繁殖に悪影響を与える可能性があるという証拠を提供するものです。
本研究成果は、2026年3月10日に国際学術誌「Basic and Applied Ecology」に正式版としてオンライン掲載されました。

<研究者コメント>

久井花恋大学院生

外来植物を食べて育ったチョウは、発育自体に問題がないにもかかわらず、野外のオスから交尾相手として選ばれにくくなることが分かりました。人間の目には見えない紫外線の世界で、準絶滅危惧のチョウが繁殖の機会を奪われているかもしれないという事実は、非常に興味深いものでした。本研究が、チョウ類のみならず、今後の昆虫類の保全対策に新たな視点を提供できることを願っています。

<研究の背景>
近年、外来植物の侵入が在来の生態系に与える影響が地球規模で懸念されています。日本の準絶滅危惧のチョウであるクロツバメシジミは、主に在来植物のツメレンゲを寄主植物としていますが、近年、ツルマンネングサなどの外来植物を利用していることが観察されるようになりました。このチョウは、幼虫期に摂食する寄主植物の種類によって成虫の翅の色が変化することが示唆されていましたが、実証的な研究はこれまで行われていませんでした。また、チョウの配偶行動においては、翅の色が重要な視覚シグナルとして機能することが知られています。そこで本研究グループは、幼虫期の餌となる外来植物が成虫の翅の色に影響を与え、結果的に繁殖行動にも影響を及ぼしているのではないかと考えました。

 

図2. クロツバメシジミの成虫 

図3. 在来植物のツメレンゲ

 

図4. 外来植物のツルマンネングサ

<研究の内容>

 本研究では、はじめにクロツバメシジミの幼虫を在来植物のツメレンゲと外来植物のツルマンネングサを餌としてそれぞれで飼育し、生活史特性※2を比較検証しました。その結果、メスの成虫は在来植物と外来植物の両方に産卵し、どちらにも明確な選好性は示しませんでした。幼虫期間やさなぎの重さといった発育についても両植物間で有意な差は見られず、外来植物であっても問題なく発育できることが分かりました。
次に、成虫の翅裏面の可視光写真および紫外線写真の撮影と反射スペクトルの測定を行い、比較検証しました。その結果、可視光写真では在来植物で飼育した個体は黄色みを帯びて見えたのに対し、外来植物で飼育した個体は灰色がかって見えるという違いが確認されました。紫外線写真では、在来植物で飼育した個体の方が、紫外線を多く吸収している(濃い灰色になっている)ことがわかりました(図5)。反射スペクトルの測定結果でも、これらと同様の傾向が確認されました。
さらに、野外に生息するオスのクロツバメシジミがどちらの個体を選ぶかを観察したところ、オスは外来植物で飼育した個体よりも、在来植物で飼育した個体に対して有意に多く接触し、強い配偶行動を示すことが明らかになりました。この傾向は、匂い(フェロモン)の影響が少ない標本を用いた実験でも同様に確認されました。

  図5. クロツバメシジミ後翅の可視光写真(左)と紫外線写真(右)

<期待される効果・今後の展開>
本研究は、外来植物が餌として利用可能であっても、成虫の翅色変化という形態的変異を通じて繁殖に間接的に影響を及ぼす可能性を明らかにした、国内では非常に貴重な事例と言えます。外来種の種数は年々増加傾向にあり、今後も他のチョウ類や昆虫類において、クロツバメシジミと同様の事例が生じる可能性があります。本研究から得られた知見は、外来植物が草食性昆虫に与える間接的な脅威を浮き彫りにするモデルケースになると考えられ、絶滅の危惧に瀕した他の昆虫類の保全や、外来種問題の解決に向けた貢献が期待されます。

<資金情報>
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(19H02979、23H02238、24H00723)および環境省 環境研究総合推進費(JPMEERF23S12122)からの支援を受けて実施されました。

<発表者>
大阪公立大学大学院農学研究科 

 久井 花恋大学院生、上田 昇平准教授、竹内 剛研究員、

 鈴木 真裕研究員、平井 規央教授

東京大学総合研究博物館     

 矢後 勝也講師

<論文情報>

雑誌名:Basic and Applied Ecology
題 名:Effects of alien host plant on wing coloration and mating behavior of an endangered butterfly
著者名:Karen Hisai, Masaya Yago, Shouhei Ueda, Tsuyoshi Takeuchi, Masahiro Suzuki, and Norio Hirai
URL: https://doi.org/10.1016/j.baae.2026.02.003

<用語解説>

※1 反射スペクトル:物体が光のどの波長をどれだけ反射しているかを示すデータ。
※2 生活史特性:生物の成長・生存・繁殖に関わる特徴(寿命、成熟年齢、繁殖回数など)を指し、その種の生存戦略を表す概念。