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    旧石器時代から新石器時代に至る石器。1:シリア・ラタムネ遺跡出土ハンドアックス。長さ15.4cm、木村賛資料、2−4:イスラエル、アムッド洞窟出土ルヴァロワ尖頭器(2:長さ6.6cm、5-12 G18、3:長さ7.4cm、8-26 O-30、4:長さ7.0cm、1961年表採)5-11:長野県諏訪湖底曽根遺跡採集石鏃(5:長さ1.9cm、8096-22、6:長さ2.9cm、8100-43、7:長さ2.3cm、8090-1、8:長さ2.1cm、8090-12、9:長さ2.4cm、8100-17、10:長さ2.7cm、8096-2、11:長さ2.3cm、8096-6)

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    イスラエル、アムッド洞窟から出土したルヴァロワ尖頭器に認められた衝撃剥離。獲物との衝突によって生じたと考えられる

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    長野県諏訪湖底曽根遺跡採集石鏃に認められた衝撃剥離。器体に対する衝撃剥離の長さの比率は、ルヴァロワ尖頭器のそれよりも遙かに大きい。No. 6の縦に長い衝撃剥離は、基部側から入っており、柄からの反動によって形成されたものと考えられる

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B53
小型化する石器
狩猟技術の発達

石器は、人類が最初に作り始めた道具である。およそ260万年前には、東アフリカで原始的な石器製作がおこなわれていた。約175万年前には、多くの加工を施したハンドアックス(握斧)が同地域で出現し、その製作技術を持った人類がアフリカの外へも進出する。

西アジアは、アフリカを出た人類が最初に訪れた地域である。展示品は、シリアのラタムネ遺跡から出土したハンドアックスで、約70万年前のものとされる。これまでの使用痕分析の結果、ハンドアックスは主に動物解体に用いられたと考えられている。大きな基部は握って使う上で有効であり、その長い刃部と重い重量は狩猟した獲物の切り分けや関節離断に重要だったであろう。

およそ30万年前、ヨーロッパでネアンデルタールが現れると、彼らは一つの原石から多数の剥片石器を製作し、それによって小型化した石器は柄に付けて使われるようになる。着柄技術は狩猟具にも用いられ、木の先を尖らせただけだった木製槍は、先端に石槍を装着する組み合わせ狩猟具へと発達する。同様の変化が、少し遅れて西アジアでも認められる。今回展示したルヴァロワ尖頭器も、槍先として機能したと考えられる。いずれもシリアのアムッド洞窟で収集された資料である。1点の尖頭器は、獲物との衝突時に発生する衝撃剥離が認められ、実際に狩猟具として使われたことがわかる。

ホモ・サピエンスの時代に入ると、小型化と量産は更に進む。槍先用石器の小型化の背景には、投槍器や弓といった飛び道具の開発も関与していたであろう。特に、弓で投射する石鏃は、より速く真っ直ぐに投射するため、小型・軽量化が必須である。約15,000年前に始まる晩氷期の温暖期には、世界各地で弓矢猟が本格化したらしい。展示した石鏃は、長野県の諏訪湖底曽根遺跡で採集されたもので、約13,000年前の縄文時代草創期の資料である。衝撃剥離が、器体の大部分に及ぶ石鏃もある。弓の使用によって、より大きな衝撃力を獲得した証しである。 (佐野勝宏)