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    シリア、セクル・アル・アヘイマル遺跡出土の先土器新石器時代女性土偶(複製)。日干し煉瓦製、2004年発掘。高さ14.2cm(SEK04.1)

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    総合研究博物館での保存修復作業。2006年から2007年にかけてシリア人技術者と共同でおこなった

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    女性土偶の背面。赤い彩色がみられる

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B54
新石器時代女性土偶
メソポタミア最古級の女神像

西アジアは世界で最も早く食料生産経済が発達した地域の一つである。遅くとも1万1000年前頃までにはムギ類を中心とした植物栽培が開始され、直後にヤギ・ヒツジの家畜飼育が始まった。以後、それまでの狩猟採集社会とは異なる複雑な社会が誕生し、5000年前頃にはいわゆるメソポタミア文明の時代に突入する。

最初期の食料生産社会を特徴付ける考古遺物の一つが女性像である。粘土や石で作られたものが残っている。胸や臀部が強調されていることから、豊穣祈願のシンボルであったと考えられる。顔の表現を省略し、高さ5cmに満たないものがほとんどである。表現豊かで高さ10cmを超えるものはトルコのチャタル・ホユック遺跡の例など約8500年前、土器新石器時代半ば以降に増加する。

展示品はシリアで発掘した女性像のレプリカである。約9000年前、先土器新石器時代のものである。これほど大きく、かつ顔面表現が豊かな女性像がこの時代の遺跡で見つかった例は他にない。顔面、胴部とも赤と黒の顔料で丁寧に彩色されている。土偶はふつう炉跡や屋外で見つかるが、これは住居の床下に埋められていた。多くの土偶が使用後に廃棄される護符的存在であったのに対し、この土偶は長期にわたって使用された特別な女神像であったと考えられる。他の遺跡で見つかっていないのは、集落内で管理された希少な存在だったからであろう。

様式の点では中部メソポタミアの土器新石器時代に展開したサマッラ文化の土偶との類似がみられる。それより500年ほども古い本例は、後に一般化する信仰様式の先駆けとみなしてよいと思われる。実物は政情不安が発生するまでシリア国立ダマスカス博物館で常設展示されていた。 (西秋良宏)

参考文献 References

西秋良宏(編)(2008)『遺丘と女神—メソポタミア原始農村の黎明』東京大学出版会。

Nishiaki, Y. (2007) A unique Neolithic female figurine from Tell Seker al-Aheimar, Northeast Syria. Paléorient 33(2): 117–125.

Nishiaki, Y. (2008) Naissance des Divinités: Figurine feminine exceptionnelle du néolithique. Damascus: Ministère de la Culture, Direction Générale des Antiquités et des Musées.