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    ラエトリの足跡にアファール猿人の足の輪郭(推定)を重ね合わせてある。

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    湿った粘土の上に形成された、裸足習慣のある南部エチオピアの農耕民の足跡

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B49
アウストラロピテクスの足
足跡化石(印象)と歩行

アウストラロピテクスが常習的に直立2足歩行を行っていたことは、多くの証拠から論じられてきた。そして、長年にわたり論争されてきたものの、アウストラロピテクスは、我々と同じように脚を伸展し、股関節を「過伸展」(180度以上伸展)して歩いていたに違いない。また、アウストラロピテクスの個々の足骨の形状は現代人とはそれなりに異なるものの、第1と第2指は前方を向き、縦方向のアーチ構造は存在し、踵骨の結節部もそれなりに大きかったと思われる。即ち、後のホモ属と同様、着地時には踵で衝撃を吸収し、その直後には足の前方部に荷重を移動し、効率良く蹴り出していたと思われる。

アウストラロピテクスの直立2足歩行を検証する稀な証拠がある。それは、アファール猿人(Australopithecus afarensis)の足跡化石である。アファール猿人の化石は、「ルーシー」の名で知られる部分骨格はじめ、エチオピアのアファール地溝帯から骨と歯の化石が多数出土している。一方、この足跡化石は、1970年代末にタンザニアのラエトリという場所で発見されている。年代は360から370万年前、アウストラロピテクスの初期の時代に相当する。展示の標本は、ラエトリの足跡化石のうち、比較的保存のよい例のレプリカから作成したポジである。いうなれば、アウストラロピテクスの「足の裏」に相当する。より厳密には、接地中の足底圧の強さ分布に対応する3次元形状である。

ラエトリの足跡は、20メートル以上続いている。3個体のうちの2個体分の足跡は、重なり合っているため、形状がはっきりしない。もう1個体分は、そうした問題はないが、それでもなかなか完璧には保存されていない。地面が軟らかかったためか、形成時の変形もあるようだ。さらには、別の動物に踏まれた箇所、地層のずれの影響、あるいは露出後の少々の破損もあるだろう。足跡の親指が若干開いているようにも見え、また親指の付け根部の圧痕がやや弱いため、作り主の足は原始的であったとの主張もあった。しかし、多くの研究者は、親指は十分前方を向いており、縦方向のアーチは間違いなく存在すると解釈してきた。

逆に、ラエトリの足跡は現代的過ぎ、若干なりとも原始的なアファール猿人の足とは合わず、足跡の作り主は別にいるのではとも論じられたことがある。この問題を検証するため、筆者らは、個々の化石からアファール猿人の足全体のプロポーションを復原してみた。そして蹴り出し時にわずかに指を屈曲することを考慮しながら、小柄な「ルーシー」大に調整してみた。そうして足跡と重ね合わせると、矛盾なく重なり合う。

最近になり、ラエトリの足跡の詳細な形状解析が、英国の研究グループによって行われた。この研究では、ラエトリの足跡の3次元形状と、現代人の歩行時の足底圧や地面の性情を考慮した足跡深さデータと系統だって比較した。その結果、ラエトリの足跡は一貫して、現代人的な荷重パタンを示唆することが確認された。特に重要とされたのが、足の前方部の圧痕が内外側全体にわたること、踵部の圧痕がそれよりも深いこと、中央内側部の盛り上がり方がアーチ構造のある足に典型的なことであった。アファール猿人と現代人の歩行は、おおよそ同様な荷重様式を持っていたと結論してよさそうである。 (諏訪 元)

参考文献 References

White, T. D. & Suwa, G. (1987) Hominid footprints at Laetoli: facts and interpretations. American Journal of Physical Anthropology 72: 485–514.

Crompton, R. H. et al. (2012) Human-like external function of the foot, and fully upright gait, confirmed in the 3.66 million year old Laetoli hominin footprints by topographic statistics, experimental footprint formation and computer simulation. Journal of Royal Society, Interface 9: 707–719.