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    ラミダスの足の骨。第2と第3中足骨(青)は別個体、他は全て同一個体の足骨

B48
ラミダスの足
把握性のある原始的な足

部分骨格ARA-VP-6/500の発見により、ラミダスの全体像に関する理解が格段に進展した。そして、アウストラロピテクス以前の人類の進化段階について初めて本格的に議論できるようになった。ラミダスの全容については、2009年10月に、サイエンス誌掲載の一連の論文によって発表した。

ラミダス化石の比較研究を進めながら、2008年には小型の骨密度測定装置をエチオピア国立博物館に臨時移設し、ラミダスの手足の化石をCT撮影することができた。展示の足骨モデルは、そのときのCTデータに基づいている。ラミダスの足は、踵骨などの重要な部位が欠落しているが、それ以外の多くの骨が保存されている。ただし、6/500番標本では中足骨の保存が悪いため、展示のモデルには別個体の第2と第3中足骨が組み込まれている。

ラミダス化石は情報の宝庫で、至る所に新しい知見が内在していた。その中でも、何が最も驚きであったか。一つだけ挙げるとすれば、把握性の足の確証となった骨だろう。第1指の付け根にある、内側楔状骨と第1中足骨が発見された。一部破損しているものの、肝心な骨構造がかろうじて保存されていた。その隣の中間楔状骨も良好な状態で回収され、これらを合わせると、第1指と第2指の配置関係が確実に評価できる。ラミダスの足の親指は、まぎれもなく大きく開いていた。果たして人類といって良いのか?どんな2足歩行が可能だったのか?

ラミダスの親指の外転の程度は、類人猿や他のサル類と同程度であり、把握機能を相当保持していたに違いない。では、現生の類人猿と同じかというと、そうではない。現生の類人猿の足骨はその可動性がさらに強調されている。ラミダスの足は、それほどには柔軟でなく、歩行時に足の側方部で効果的に蹴り出していたようだ。

実は、足骨一つずつから把握性の有無を判断するのは結構むつかしいものである。ラミダスよりも圧倒的に多くの化石が蓄積されてきたアウストラロピテクスでさえ、第1と第2中足骨の配置関係を直接示す化石は未だ存在しない。そうした中、アウストラロピテクスでは、個別の足骨の微妙な特徴から、親指に可動性があったのではないかとの見解が長年提唱されてきた。しかし、内側楔状骨と第1中足骨それぞれの関節構造から判断する限り、アウストラロピテクスの親指はほぼ前方を向き、大きく横方向を向くラミダスとは明らかに異なる。ラミダスがアウストラロピテクスより格段に原始的であることを、最も端的に表しているのが足骨である。

把握性のあるラミダスの足は、骨盤の証拠と共に、彼らが樹上空間に常習的に依存していたことを物語っている。親指が大きく開いたラミダスの足には縦方向のアーチはなく、従って、歩行の時は足の側方部で蹴り出していたと思われる。ラミダスは、樹上適応を本格的に残しながら、直立2足歩行能力を合わせ持っていた、まさに移行型の人類なのである。ただし、「移行型」といっても、いくつかの証拠から、体幹は直立し、膝と股関節を十分に伸展して歩いていたと思われる。 (諏訪 元)

参考文献 References

Lovejoy, C. O., Latimer, B., Suwa, G. et al. (2009) Combining prehension and propulsion: The foot of Ardipithecus ramidus. Science 326: 72e1-e8.