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    Nipponites mirabilis Yabe, 1904. 北海道小平町達布、白亜紀。Yabe (1904: 20, pl. 4, figs. 4-7)で図示されたホロタイプ、同一標本を別の角度から見た画像(UMUT MM7560)

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    Nipponites mirabilis Yabe, 1904. 北海道小平町達布、白亜紀。Yabe (1904: 20, pl. 4, figs. 4-7)で図示されたホロタイプ、同一標本を別の角度から見た画像(UMUT MM7560)

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B12
ニッポニテス
異常巻アンモナイトの珍奇種

異常巻アンモナイトの1種、ニッポニテス・ミラビリスは世界的に有名な珍奇なアンモナイトである。本種が有名である理由は3つある。(1)他のアンモナイト類とは全く形が異なっており、形の珍奇性において特異である。(2)産出頻度が極めて低い。産地によっては破片として産出することは稀ではないが、完全個体を得ることは困難である。(3)1980年代に本種を材料として理論形態学の研究材料として革新的な研究が行われ、世界の古生物学者の注目を集めた。従って、形の特異性、希少性、学術上の重要性の全てを兼ね備えた珍品稀種のアンモナイトということになる。

アンモナイト類はオウムガイ類と類似して平面的に螺旋状に巻くものが普通である。しかし、異常巻アンモナイトと呼ばれる一群は、複雑に立体的な螺旋を描く。ニッポニテス・ミラビリスは1904年に矢部長克博士によって記載された。矢部博士は本種が規則的に蛇行することを記載時に指摘していたが、標本が1個体しか得られていなかったことから、異常巻アンモナイトは奇形ではないかという疑いを持たれていた。しかし、後に追加標本が得られ、極めて規則的な形であることが確認された。

1980年代に岡本隆博士はコンピュータシミュレーションによりニッポニテスの形態をコンピュータ上で再現した。ニッポニテスの初期殻は近縁種であると考えられるユーボストリコセラス・ジャポニカムの殻に類似しており、殻を螺旋に成長させ左右へ定期的に蛇行させることにより画像ニッポニテスの形を創出できる。この蛇行は、生息姿勢を調節するためのフィードバック機構によって形成されたという仮説が提唱された(成長方向調節モデル)。岡本博士の一連の研究は、殻の成長プログラムのほんの一部を修正するだけでニッポニテスのような他とはかけ離れたような形が跳躍的な進化することを示した点で世界の古生物学者に強烈なインパクトを与えた。 (佐々木猛智)

参考文献 References

Okamoto, T. (1988) Developmental regulation and morphological saltation in the heteromorph ammonite Nipponites. Paleobiology 14: 272–286.

Okamoto, T. (1989) Comparative morphology of Nipponites and Eubostrychoceras (Cretaceous nostoceratids). Transactions and Proceedings of the Palaeontological Society of Japan. New Series, no. 154: 117–139.  

Yabe, H. (1904) Cretaceous Cephalopoda from the Hokkaido. Part 2. Turrilites, Helicoceras, Heteroceras, Nipponites, Olcostephanus, Desmoceras, Hauericeras, and an undetermined genus. Journal of the College of Science, Imperial University of Tokyo 20: 1–45, pls. 1–6.