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    遊泳性三葉虫Remopleurides nanus(上)と腕足動物スピリファー類Paraspirifer bownockeri(下)。ParaspiriferのCT画像を見ると、殻の内側に螺旋状の濾過器官の痕跡が残されている(右下)(20160407-YS-1, 2)

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    遊泳性三葉虫の遊泳性能解析。骨格表面の流れを示すベクトルはなだらかで、流線形となっていることがわかる

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    腕足動物スピリファー類の螺旋状渦流。解析結果から流線を表示した

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B13
腕足動物スピリファー類と三葉虫
化石から機能を探る

およそ5.4億年前から2.5億年前の古生代と呼ばれる時代には、現世に存在しない奇妙な形をした生物が数多く繁栄していた。三葉虫と腕足動物は、当時の海洋を席巻した中心的な無脊椎動物である。

三葉虫の多くは、海底を闊歩する底生生活者であった。ところが、ある種の三葉虫は、外骨格の流体力学的特性を生かして遊泳能力を獲得し、水柱への進出に成功した。展示標本のRemopleuridesHypodicranotusは、遊泳性三葉虫の代表格である(Shiino et al. 2014)。行動様式の進化は、視覚の機能にも見て取れる。例えばRemopleuridesHypodicranotusの複眼は、遊泳方向に調和するよう前後に細長く伸びた形態をしている。この複眼は、直径50μmほどの個眼(レンズ)で構成されている。三葉虫の中でもきわめて解像度が高く、優れた運動性能に相応する視覚特性を有していたのである。

活動的な生態に根ざして進化を遂げた三葉虫に対し,腕足動物は著しく静的な適応戦略を見せる。腕足動物は、一見すると二枚貝にそっくりだが、まったく異なる体制を備えた独自のグループである。殻の中にある多数の触手を備えた触手冠は、海水中のエサを捕まえる濾過器官である。すでに絶滅した腕足動物Paraspiriferは、海底の流れに身を任せるだけで、螺旋状の渦流を自動的に形成する形態機能を備えていた。殻の内側にある螺旋状の触手冠は、渦流からの濾過摂食に効率的である。螺旋の骨組みを備えるParaspiriferの殻形態は、無気力な生存戦略を実現する巧妙な形態機能を備えていた。

動体に生命活動を統合した三葉虫と、静物のような生物である腕足動物。対照的な適応戦略にみえる両者は、機能を追求した劇的な形態進化の証拠として通底している。 (椎野勇太)

参考文献 References

佐々木猛智・伊藤泰弘(編)(2012)『東大古生物学―化石からみる生命史』東海大学出版会。

椎野勇太(2014)『凹凸形の殻に隠された謎―腕足動物の化石探訪』東海大学出版会。

Shiino, Y. et al. (2009) Computational fluid dynamics simulations on a Devonian spiriferid Paraspirifer bownockeri (Brachiopoda): Generating mechanism of passive feeding flows. Journal of Theoretical Biology 259: 132–141.

Shiino, Y. et al. (2012) Swimming capability of the remopleuridid trilobite Hypodicranotus striatus: Hydrodynamic functions of the exoskeleton and the long, forked hypostome. Journal of Theoretical Biology 300: 29–38.

Shiino, Y. et al. (2014) Pelagic or benthic? Mode of life of the remopleuridid trilobite Hypodicranotus striatulus. Bulletin of Geosciences 89(2): 207–218.