東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime22Number1



マクロ先端研究発信グループ共同活動
研究現場にふれるハンズオン・ギャラリー

久保 泰(本館特任助教/古生物学)
小煬h寛(本館特任助教/近東考古学)
小薮大輔(本館特任助教/比較形態学・進化発生学)
尾嵜大真(本館特任研究員/年代学)
佐野勝宏(早稲田大学高等研究所准教授/先史考古学)
黒木真理(東京大学大学院農学生命科学研究科助教/水圏生態学)
新原隆史(本館特任助教/隕石学・鉱物学)
矢後勝也(本館助教/昆虫自然史学・保全生物学)

 東京大学総合研究博物館マクロ先端研究発信グループは、博物館資料からどのように先端研究が産み出されるのかを知ってもらうため、平成22年度より継続的にハンズオン・ギャラリーを実施してきた。第8回目となる今回は「研究現場」をテーマとした。博物館資料がフィールドでどのように収集されるのか、博物館資料を用いた実験や分析がどのように行われるのかについて、研究現場の写真や映像と研究者自身による説明を通じて理解してもらうことを目指した。新たな試みとして、今回のハンズオン・ギャラリーは8月2日と3日に東京大学本郷キャンパスで開催されたオープンキャンパスの実施企画の一つとして総合研究博物館の展示場にて行った(図1)。昨年度のオープンキャンパスでは総合研究博物館に多くの入館者があり、かつ高校生が多かった事から、若い世代に博物館の研究活動を知ってもらう良い機会だと考えたためである。
 今回のハンズオン企画は二日間にわたったが、担当研究者の都合に合わせて4つのギャラリーは両日共に開催し、2つのギャラリーは入れ替えにすることで、一日に6つのギャラリーを催した。ギャラリーのタイトルは以下の通りである。
8月2日
ギャラリー@ 石器の破損から読み解く人類進化 (佐野勝宏)
ギャラリーA 研究船を使った海洋調査の現場 (黒木真理)
ギャラリーB ベトナム熱帯林で調べるコウモリの赤ちゃんの体と生活 (小薮大輔)
ギャラリーC 中生代爬虫類の発掘と記載 (久保 泰)
ギャラリーD 年代を測る加速器質量分析計の仕組み (尾嵜大真)
ギャラリーE 西アジアで遺跡を掘る (小煬h寛)
8月3日
ギャラリー@ 隕石が記録している太陽系内での衝突現象 (新原隆史)
ギャラリーA 昆虫の多様性調査と保全活動の現場から (矢後勝也)
ギャラリーB〜Eは8月2日と共通。
 ギャラリーD以外は、一台の長机の上に標本を設置し、手に取って見てもらうと同時に、標本の採取の様子や実験の画像あるいは動画を、プロジェクター、ディスプレイ機器またはタブレット端末などで展示した。各ギャラリー用の説明資料は一日あたり100部配布した。また、担当の研究者がギャラリーに滞在し、来場者の質問に随時答えた(図2、3)。ギャラリーDでは、通常は開放していないAMS(加速器質量分析計)が設置されたスペースを開放し、AMSの前で担当研究者が解説を行った。また企画講演室には椅子を並べて休憩スペースとし、その前にスクリーンを設置して野外での資料収集時の複数の動画を編集したものを上映した(図4)。

ハンズオン8をふりかえって
 今回のハンズオン企画はオープンキャンパスの一環として開催したこともあり、来場者数の約二倍の値を示す入口のカウンター数は8月2日(水)に約3,005人、8月3日(木)に約2,257人を数え、二日合わせて約2,630人の来場があった。当館では7月から常設展への来場者に対するアンケート調査を行っており、ハンズオン企画の両日で48件の回答が得られた。以下にその集計結果をまじえつつ、今回のハンズオンについてふりかえってみたい。
 昨年度のオープンキャンパス期間中の来館者が約2,150人だったことを考えると、今年度のオープンキャンパスでは、ハンズオンのチラシ配布等による集客効果があった可能性が高い。実際、構内のポスター・チラシを見て当館を知ったという回答は全体の22%に及び、たまたま通りかかって知った(29%)に次いで二番目に高かった。また、オープンキャンパスの一環として行った顕著な影響として、若年層の割合が圧倒的に高くなったことと、博物館に初めて来た人の割合が高かったことがあげられる。アンケート回答者の72.5%(37名)が高校生であり、小・中学生を含めると84%(43名)に上った。アンケート回答者のうち、1名以外は全て今回が初めての来館であった。さらに、東京、神奈川、千葉、埼玉以外からの来場者が6割を超えた。
 少々驚いたのが、常設展をまた見に来たい(38%、18名)、新たな企画や特別展があれば見に来たい(48%、23名)と答えた人の割合の高さである(双方に「はい」と答えたのは10名)。しかも、それぞれのほぼ半数は一都三県以外の遠隔地から来ている。しかし、よくよく考えてみると今回の来場者は東京大学の受験を希望する高校生が多いわけで、これは「合格して見に来る」という意思や希望の表れの可能性がある。純粋に展示やハンズオンの魅力と考えるのは早計かもしれない。
 アンケートの内容は常設展示来場者用に作られたものなので、ハンズオン企画の効果を単純に反映したものとは言い難いが、71%(34名)が見学後に標本への興味が増したと答えている。微妙な設問の違いだが“標本研究”に対する興味が増した人は半減して35%(17名)である。
 今回のハンズオンの参加者数が多かったこと、また次世代の科学研究を担う若い世代の割合が高かったのは良い事だが、例年のハンズオンの参加者が純粋な科学研究への興味から参加しているのに比べて、今年は受験の為の情報集めのついでに来た参加者が多かったのは間違いない。実際、来場した目的として、たまたま、あるいはオープンキャンパスの為と言う回答が61%に上った。ただ、来館理由が「たまたま」であった人でも「標本への興味が増した」割合はそれなりに高いので(64%)、企画の結果的な影響力を考えると、やはり参加者数の多寡は重要である。今後、通常の開館時のアンケート結果との定量的な比較を行う事で、ハンズオン企画の影響を明確にできればと思う。

 本企画は全国科学博物館振興財団の平成29年度博物館活動等助成を受けた。開催に当たり、本館ボランティアの皆様には多大なるご協力をいただいた。チラシのデザインは当館の関岡裕之特任准教授にお願いし、各ギャラリーの配置や照明等には当館の松本文夫特任教授のご指導をいただいた。写真は当館の佐藤一昭係長にご提供いただいた。ここに記してお礼申し上げる。

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図1 混みあう回廊展示.

図2 海洋生物のギャラリーの様子.プロジェクターで海洋調査の様子を投影した.

図3 2階の近東考古学のギャラリー.調査で使うドローンや
測量器具も展示した.

図4 企画講演室は休憩所にし、野外調査の映像を流した.