東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime21Number3



平成29年度春季特別展示
大学博物館と現代美術

西秋良宏(本館教授・先史考古学)

  東京大学本郷キャンパスにはいくつもの門がある。漢字二文字の名をもつものと、三文字のものとがあるが、二文字の門は明治期以前からある伝統的な門で、総合研究博物館脇にある懐徳門のように最近,整備された門は漢字三文字で呼ばれている(『東京大学学内広報』2007年4月)。今回の展示のタイトルとした赤門は、言うまでもなく前者に属する。これほど歴史をもつ門もなかろう。由来を正確に言えば、文政10年(1827)、徳川家斉の息女溶姫が加賀前田家13代当主斉泰に輿入れした際に建立された御殿の門(御守殿門)ということになる。明治10年(1877)に東京大学ができて以来、実用の門として、またその顔として象徴的に機能してきた。当初は西門と呼ばれていたらしいが、それを朱書きで赤門と訂正した明治18年(1885)の公文書が残っている(東京大学文書館)。赤門という名称が定着したのは、それ以降のようである。
 赤門は国指定の重要文化財である。かつては国宝であった。と言っても格下げとなったわけではない。現在の文化財保護法が施行されたのは昭和25年(1950)。それ以前は、昭和4年(1929)に制定されていた国宝保存法によって文化財が管理されていた。赤門が国宝に指定されたのは昭和6年(1931)である。文化庁のデータベースによれば、重文指定年は同じく昭和6年とされているから、国宝保存法の改廃、文化財保護法の施行にともなう名称の変更ということなのだろう。
 この間の事情を物語る標本が、今般、総合研究博物館の蔵品となった。昭和11年(1936)以来、赤門に向かって右の番所前に立っていた木製の柱である(図1)。「國寶赤門」と刻まれている。根元部分が朽ちたため2002年に撤去され、赤門右手の番所に保管されていたものだが、今回の展示準備にあたり総合研究博物館で管理、保管することとした。精査したところ、元来の文字全体が朱で塗りつぶされ、「赤門」の部分のみ金文字に改変されていることがわかった。古写真によれば、元は黒色の柱であったようである。文化財保護法の制定にともなう顛末として興味深い。
 さて、どんな理由で国宝・重文に指定されたのか。指定理由は、「江戸時代における諸侯邸宅門の非常に優れた遺構」であるという(『東京大学本郷キャンパスの百年』1988年)。要するに、江戸時代の史的遺構としての価値である。赤門は、徳川将軍家から姫が輿入れした藩邸に建造されたものであるから、類似の門がかつては各地にあったはずだが、現存しているのは東京大学の赤門のみだという。時代や文化を最も的確に伝える標本を指定文化財とするという方針に従えば、まさに、それにふさわしい。
 今回の展示は、赤門が、そもそもどんな存在であったのかを、その主、溶姫の輿入れに遡って考察するものである。「溶姫御殿から東京大学へ」との副題にもあるとおり、この門が建立された江戸末期から東京大学にわたるまでの歴史を主眼としている。材料としたのは、近年著しく進んだ赤門周辺の調査で得られた埋蔵文化財、溶姫にかかわる古文書、彼女の婚礼道具や直筆絵画などの江戸時代資料。そして、赤門が江戸の趣を残していた頃の古写真や大学本部保管の文書、さらには幾度となく実施されるたびに保管されてきた赤門の建築部材資料などである。展示品には江戸期の資料が充実しているが、学校建築ミュージアムを標榜する総合研究博物館小石川分館が収集・管理してきた古写真の展示にも注目していただきたい。赤門は早くから都内有数の名所の一つであったし、医学部の正面にある門であったことからその卒業アルバムが時々の赤門をとらえてきた。
 赤門がもつ意味は多面的である。江戸時代が遠くなった現在、それをもって東京大学しか思い浮かばない方もおられるのかも知れない。今回の展覧会を、赤門がなぜ文化財価値を帯びているのか、その由来と意義を歴史研究の成果をもって提示する機会としたい。大学の門としての赤門を考察するには、また別の機会があるだろう。
 本誌表紙やポスターなどに用いた図柄は『松乃栄』。明治22年(1889)、三代歌川国貞の手になる錦絵である。赤門の建造由来とともに、それが当時の東京名所であったことを雄弁に語る。本展では、それを拡大した画像を展示導入部に示した。

東京大学創立140周年記念・加賀前田家本郷邸開設400周年記念
平成29年度特別展示「赤門 −溶姫御殿から東京大学へ」
会 期:平成29年3月18日(土)から5月28日(日)
休館日:月曜日 ただし3/20は開館し3/21閉館
時 間:10:00より17:00まで(ただし入場は16:30まで)
会 場:東京大学総合研究博物館(東京大学本郷キャンパス内)
    東京都文京区本郷7-3-1 地下鉄丸ノ内線・大江戸線本郷三丁目駅下車、
    徒歩7分
主 催:東京大学総合研究博物館・東京大学埋蔵文化財調査室
協 力:公益財団法人前田育徳会・石川県立美術館・石川県金沢城調査研究所・
    金沢市立玉川図書館
備 考:入館無料
ホームページ:http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2017akamon.html
ハローダイヤル03-5777-8600


関連企画
 下記、いずれも入場無料。申し込みは不要ですが先着順とさせていただきます。他に東京大学本郷構内史跡案内、ギャラリートークも予定されています。詳しくはホームページをご覧下さい。
講演会『赤門・溶姫を考える』
 2017年4月15日(土)13:00-16:30・東京大学山上会館大会議室・講師:前田利祐(公益財団法人前田育徳会)、畑尚子(江戸東京博物館)、W.コールドレイク(東京大学大学院情報学環)・定員120名
連続講座『赤門 -溶姫御殿から東京大学へ』
 2017年3月25日(土)小松愛子(東京大学埋蔵文化財調査室)、4月8日(土)堀内秀樹(東京大学埋蔵文化財調査室)、4月22日(土)森下有(東京大学生産技術研究所)、5月6日(土)成瀬晃司(東京大学埋蔵文化財調査室)、5月20日(土)木下直之(東京大学大学院人文社会系研究科)、いずれも14:00-15:30・東京大学総合研究博物館7階ミューズホール・定員40名
シンポジウム『江戸藩邸と国元・金沢の食生活―動物考古学の研究成果から』
 2017年5月13日(土)13:00-17:00・東京大学大学院農学生命科学研究科中島董一郎記念ホール・講師:金子浩昌(東京国立博物館)、報告:畑山智史(埼玉大学大学院文化科学研究科)、納屋内高史(富山市埋蔵文化財センター)、阿部常樹(國學院大學研究開発推進機構学術資料センター)・定員96名



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図1 昭和35年(1960)3月 『写真帖 東京大学』 東京大学
アルバム編集会.右手に朱塗り以前の「國寶赤門」の標柱が見える.