東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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ウロボロス開館10周年記念号

デジタル・ミュージアム

鵜坂 智則  (本館助手/情報科学)

デジタル・ミュージアムとは、コンピュータ技術を資料の保存、整理、公開、展示に積極的に使う、今までにない新しい博物館である。デジタル・ミュージアムは「オープン・ミュージアム」を基本コンセプトとしている。これは、「誰にでもオープン」「時間や場所からオープン」「鑑賞方法にオープン」という3つの要素から成り立っている。
「誰にでもオープン」とは、博物館の持つ情報から遠ざけているバリアを解消することである。たとえば、目の見えない人や弱視の人には音声解説や3 次元形状データから作られた立体レプリカを提供する。外国の人にはその人の母国語での解説を表示する。また、年齢に応じて子供用の解説と大人用の解説を使い分けるなど、個人個人に合わせた解説や展示を行なう「パーソナル・ミュージアム」も、誰もが利用できる博物館の一つの形である。
「時間や場所からオープン」とは、展示スペースや開催期間、あるいは展示場所など、時間や場所による制約を、デジタル化されたデータを利用することで解消することである。学術資料をどこからでも、いつでも見られる。終わった展示についても追体験できる。どこからでも、いつでも質問できる。さらには、他の博物館のもつ資料とも合せて、博物館横断的な特定分野に関する総合展を行ないたい。一つの資料が複数の特別展のキー資料となるとき、同時に2ヶ所に展示するわけにいかないといった問題を解決したい。デジタル・ミュージアムでは、このような場所と時間からの解放を目指す。
「鑑賞方法にオープン」では、保存と公開の要求を両立させるために、デジタル技術を徹底的に活かす。実物の展示では見ることのできない部分を仮想空間内で再現したり、レプリカに触れたり、シミュレーションで体験したりすることで、様々な資料へのアプローチが可能となる。
これらのコンセプトの実現のため、デジタル・ミュージアムは「蓄積」「利用」「ネットワーク」の大きく3つの機能から構成される。
「蓄積」はデジタル・ミュージアムを支える基盤部分である。博物館が持つ資料をデジタル・アーカイブとして保存・整理することで、資料の利用性を良くし、また、資料の参照による劣化も減らすことができるようになる。デジタル・アーカイブの「利用」は、単にデータベースとして利用するだけではなく、データは様々な形に加工され、現実の博物館での解説を利用者の個人属性に合わせて行なったり、展示物の見えない部分や関連資料をデジタル・データとして提示したりすることにも利用される。そして「ネットワーク」機能が、遠く離れたところからの博物館の利用や、いくつもの博物館をネットワークで結んだ分散ミュージアムを実現する。
ここで重要なことは、デジタル・ミュージアムは、デジタル情報を見せるだけの、いわゆるバーチャル・ミュージアムなどではなく、現実の博物館の中でコンピュータを利用し、実物の展示や研究を強化することを目標とするものだという点である。デジタル化された情報に対して「本物」の方が重要であることは言うまでもない。デジタル化は決して「本物」を不必要にする技術ではなく、「本物」の展示と二者択一的に対立するものでもない。情報空間での博物館であるバーチャル・ミュージアムと、物理空間の現実の博物館であるリアル・ミュージアムを、デジタル技術によって相互に補完しあい、有機的に統合する。このような、両方の空間にまたがる存在としてのデジタル・ミュージアムが、21世紀の理想の博物館であると、我々は定義づけている。

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デジタル・ミュージアム構成図