東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
博物館工学ゼミナール ミュージアム建築ワークショップ 

コンセプト・ラボ (2006年度夏学期)ミュージアム建築ワークショップ2006のトップページへ

現状の把握と次なるミュージアムにむけて museum2 文学部思想文化学科美学藝術学専修3年 玄宇民
現代ミュージアム建築と展示作品の関係性 文学部言語文化学科中国語中国文学専攻3年 吉原小百合
寄生型ミュージアム考 むしろ「飾り」の文節として 文学部思想文化学科美学藝術学専攻4年 奥田大介
音とミュージアム 教育学部教育行政学科3年 田中旭
ハコからの解放 〜“ミュージアム”機能の揺れ〜 文学部行動文化学科社会学専修課程4年 野口 翠
永遠と一日 Eternity and a Day 文学部言語文化学科西洋近代語近代文学専修課程3年 大隅 亮
分散型ネットワークとしての総合的ミュージアムのデザイン 文学部行動文化学科社会学専修課程4年 大久保遼
ミュージアムテクノロジー 「ミュージアムの展示空間の可能性」 文学部歴史文化学科美術史専攻3年 森 拓馬
Museum = Only 文学部行動文化学科心理学専修課程 伊藤 言

以下はラボの発表データからテキスト部分のみを抜き出したものである。順番は発表順。



現状の把握と次なるミュージアムにむけて museum2
文学部思想文化学科美学藝術学専修3年 玄宇民

1. 出発点
・そのミュージアムは本当に必要か?
  →ミュージアムに対する人びとの意識は決して高くはない。(ex企画展と常設展の集客数の違い)
  何のためのミュージアムか、誰のためのミュージアムか。
  既存の意識や社会に何らかの形で変化を与えるというビジョンの元にスタートする必要性があるのではないか。
・前提条件としてのコンテンツの充実 →この点は再考の余地あり。
・新しいモノを見せるのか、新しい見せ方をするのか。
  →どちらも新たな視点を提案するという点では同じ。
  凝り固まったあるものの見方に不意打ちをくらわすという面からみれば後者の方が効果的なのではないか。
  新しいモノを見せる 例:広島市環境局中工場(谷口吉生)
2. 機能
・箱としてのミュージアム。ギャラリーとしての機能。 他にどんな機能が必要とされているのか?
  例1:国立新美術館
  ・ 展示室/野外展示場/講堂/研修室/ライブラリ/カフェ/
   レストラン/ミュージアムショップ/屋上庭園/作品管理室
  ・作品を収集しない。”museum”ではなく”art center”である。
   展覧会会場の提供/自主的な展覧会の開催/情報収集/教育普及
  例2:サントリー美術館
   →展示室/事務室/作業室/収蔵庫/ショップ/カフェ/多目的スペース/テラス/茶室/駐車場
・お金と時間
  →美術館の展覧会などは1000円以上。博物館はそれに比べると安いところが多い。この点に対する疑問。
   →カルト・ミュゼ/ワタリウム美術館
  →閉館時間が18時前後。立地やニーズにもよるがもう少し遅くまで開いていて欲しい。
   →国立新美術館の提案
3. 空間
・壁から解放されることは不可能なのか。
  →壁に情報を盛り込むという手法からの脱却は可能か。オルタナティブの模索。
・壁を与えれば展示空間となり得るのか。
  →壁と展示物さえあればどこでも展示空間になる、という提案。
・ストレスフリーな空間。可逆性のある空間。
  →観覧者に困惑や不自由を感じさせない空間。展示物へのアプローチ。
   自由に会場内を行き来することができる。迷わない。
・到達の儀式
  法隆寺宝物館
・開いた空間、閉じた空間。光と闇。
  →空間にコントラストをつける。建築デザイン=空間体験のデザイン。新しい空間の感じ方。
・情報過多
  →いちどに目に入る情報量のコントロール。

コンセプト・ラボのトップに戻る


現代ミュージアム建築と展示作品の関係性
文学部言語文化学科中国語中国文学専攻3年 吉原小百合      

1. MUSEUM自体の美的表象
1.1. 公共建築物としてのミュージアム
  →建築の新潮流、傾向が反映されやすい
  例:ソロモン・R・グッゲンハイム美術館
1.2. 独創的建築の持つ集客性、都市活性化
  ポンピドゥー以後に建てられた現代ミュージアムのHPには必ずArchitectureのページがある
  例:ポンピドゥーセンター、ビルバオ・グッゲンハイム美術館   
1.3. ミュージアムがもつテーマ性
  例:ユダヤ博物館
2. 立地環境との調和(都市部に話を限定)
2.1. 公共建築物としてのMuseum
  前近代までのChurchに代わる現代都市における記念碑、モニュメント
  →ミュージアム自体が都市民のアイデンティティのよりどころになる
  →都市民がスムーズにアイデンティティを更新できるような公共性をもった建築であるのが望ましい
2.2. 都市環境との調和
  物質的既存文脈との融和
  精神的既存文脈との融和
       ↓
  融和のための多様なアプローチ
  都市の歴史的コンテクストをとりいれる(欧)
  都市の基層思想をとりいれる(米)
2.2.1. 物質的既存文脈との融和
  都市における既存のモニュメント的存在との距離、対比、対話を図った敷地選択、設計
  →既存の環境と新ミュージアムの融合により新たなアイデンティティの創出になる可能性
  例:ストックホルム現代美術館・建築博物館  ストックホルム市街に一般的な人工照明
  例:ハンブルグ現代美術館  中央駅との対比。湖の水際に立ち並ぶ一連の建物の前列にあわせる形での立地計画
  例:シカゴ現代美術館  都市道路とあわせたグリッド
  例:テート・モダン  テムズ川を挟んで聖ポール寺院との対照性
  例:ベルビュー美術館 北緯48度の太陽軌跡に合わせたアーチ型天井溝
2.2.2. 精神的既存文脈との調和
  ・都市の歴史的コンテクストを取り入れる
   例:カレ・ダール(仏) 古代地中海都市の記憶を内部回廊に再現
   所蔵品の収集方針を地中海美術に焦点をあてる 『世界の美術館 ―未来への架け橋』
  ・都市の基層思想を取り入れる
   霊廟と比較され、日常の世界との生きたつながりを断ち切られ、後世のために埋葬され、聖別される場所としてのMUSEUM
   →この思想を具現化する建築様式の選択
   例:ベルビュー美術館、シカゴ現代美術館
2.2.3. 都市との調和における問題提起
  ・日本での現代ミュージアム建設において、歴史的コンテクストと現代建築のつながりはどうなるのか? 
  日本独自の歴史的コンテクストは持つが、欧州と違い現代建築との 連続性はない。
   かといって、アメリカのようにミュージアムに掲げる思想もない。
  ・統一された都市空間を形成しているとはいえない東京などの日本の大都市において、 何を目指して立地を選べばいいのか?
  ・日中・夜間での建築の見せる二面性
3. 展示品との調和、環境提供
3.1. 展示品との調和 ミュージアムが展示品に与える演出効果
  「建築としては、美術館とは壁・空間・光、である。壁は空間を規定する境界である。 空間の連続する流れが、寛容さと親密さ、画一性と自由な型、
  明と暗、抑制と拡張、そして内側と外側の変容を生じさせる。美術館とは、部屋の連続、まるで列柱のようなその連続である」
  ―「ドクメンタ」展《ミュージアム・イン・ボックス》解説文
3.1.1. 光
  自然光と人工照明のバランス
  頭上からの光源による光の拡散と空間の高さとの関係
  絶対的に均質な光
  空間の層を通して拡散した光がガスのような状態を形成  
3.1.2. 壁と空間
  内部空間にリズムを与える必要
  ex.各フロアごとに床・壁・天井のレベルを変える
  展示部屋の配置
 a.一列に並べる伝統的方式
  伝統的なサイズの作品には都合がよい
 b. 広大なロフト形式
   仮装壁、移動壁によるフレキシブルな分割可能
   →予想不可能な現代作品に適す
  ミュージアム内部空間と外部空間の連続性→壁材による規定
  展示品のみに集中させるべき?
  Museumの外部空間、外部景観もミュージアムの連続として展示する?
3.1.3. 来館者心理との調和
・欧米ほど公私分離の意識がない日本のミュージアムにおいて、あまりにも公共性をもちすぎる ミュージアムはなじまないのではないか?
  ex.椅子の配置。空間を切り取る椅子でなく、床と連続するマットでもよくないか?
ex.土足厳禁のミュージアム
・作品を鑑賞するときの来館者にどんな心理状態をのぞむか?建築は何ができるか?
  来館者が精神をとぎすまし緊張した状態で見るべき?
  →床・天井・壁などで空間を切り詰め空間を濃密化。etc…
  リラックスした状態で?
  →自然光をとりいれ、壁材にガラスなどを使い、外部との連続性をもたせる
  伝統的な中央階段ー左右対称構造をとり、ミュージアムにおける自分の立ち位置を把握しやすくする
・来場者の視線をどの程度までMuseum側が規定するか?
  従来の展示室の一列配置型
  →来場者の順路、作品間の順列をMuseumが規定
  ロフト型
  →線的順路ではなく円形順路。任意の移動が可能
  cf.ソロモン・R・グッゲンハイム・ミュージアム
3.2. Museum業務、サービス提供との調和
・オフィス、ライブラリー、ミュージアム・ショップ、カフェレストラン、
  ブックストア、ワークショップスペース、収蔵庫
・Children Room
・多元的軸、多元的テーマで館内展示を巡れるようなコーナー割と連絡通路 ex.通時、共時、地理
・庭園造詣
・休憩所 ギャラリー間に存在しては?空間に起伏が生まれる
・Response Room・Museumの美的建築がもたらす功罪とは?
・Museumはいかなる「箱」になれるのか?
  あくまで所蔵品が主役であり、Museum建築は裏方的役割に徹するべきなのか?
  Museumは所蔵品を収納するための単なる箱であるのか?もしそうだとすれば、どんな所蔵品とも相性を保てる白基調の建築がベストなのか?
  ミュージアムが「箱」となるのはオブジェ型伝統的アートのみを考えた場合ではないだろうか?
  パフォーマンス・アートなど現代の限りないアートの可能性を考えた場合はどうだろうか?
  芸術作品と建築意匠が互いに競い合って来場者にアピールするというプラス面もあるのではないか?
参考文献
  『世界の美術館−未来への架け橋』 
   ヴィットリオ・マニャーゴ・ランプニャーニャ、アンジェリ・サックス監修 
   TOTO出版 2004年9月 東京
  『新しい美術館博物館−芸術文化の空間』
   ジュゼップ・マリア・モンタネル著
   現代企画室 1991年10月 東京
  『美術館は生まれ変わる―21世紀の現代美術館 』
  大田泰人著  鹿島出版会 2004年12月 東京
  (補)ミュージアムのトイレ建築。

コンセプト・ラボのトップに戻る


寄生型ミュージアム考 むしろ「飾り」の文節として
文学部思想文化学科美学藝術学専攻4年 奥田大介

1. ミュージアムに対する美学的アプローチの可能性
  芸術観の表明としてのミュージアム
  ミュージアム=芸術と見なされるものの集積。その開示の場として箱。
  それは必然的に、開示者側の(文化の)芸術観を表明する。
  →とすれば、その芸術観は構成の法則として働くと同時に、枷としての側面を持つ可能性。
2. (西洋)伝統的芸術観の一側面:芸術の独存性
  「美こそが彼の最初にして最後の目的であったような作品だけに芸術作品という名を与えたいと思う」
  ―レッシング『ラオコオン』
  「芸術がその場かぎりの遊びとして利用されることはあって、満足や娯楽の道具となったり、 まわりを飾ったり、生活の外形と整えたり、
  他の引き立て役に なったりする場合がそれです。そのような芸術は、実のところ、自立した自由な芸術ではなく、隷属的な芸術です。(中略)
  自由な芸術こそ真の芸術であり、はじめて最高の課題を解決するものです」
  ―ヘーゲル『美学講義』
  →芸術は、自由な独立存在であるとする観念
3. しかし、ねじれ
  だが、実際のミュージアムにおいては、
  独立存在(何の目的にも奉仕せず、美の追求にのみその意識が注がれた存在)
  とはいえない作品が、多数所蔵される。
  cf.神殿破風の移築、礼拝のための宗教画
  例)パルテノン神殿破風(大英博物館)、ジョット「荘厳の聖母」(ウフィツィ美術館)
4. 「飾り」としての芸術作品の可能性
  純粋の美への奉仕とは言い難いものも、現実、芸術作品たり得る。
  芸術は、「飾り」(ある場において、他を修飾する存在)であり得る。
  →場に他の事象と並存し、その「場」における独自の文節を提供する
  在としての芸術。という一側面
5. 寄生型ミュージアム
  定義:既存の建築空間に接着的に増築、または密着的に設置される展示空間。
  ミュージアム所蔵の作品が並ぶことでの、一般的作品設置(無料閲覧)との差別化。
  作品所蔵や併設施設の設置は任意。
  作品がそこにあることによる「場」の変質効果を「展示」。
  作品、場の総体としてのエキシビション
  渋谷駅における寄生型ミュージアム設置イメージ

コンセプト・ラボのトップに戻る


音とミュージアム
教育学部教育行政学科3年 田中旭

1. サウンドスケープ
1) サウンドスケープとは?
  ・sound(音)、〜scape(〜の眺め)の複合語
  →Soundscape
  ・音と人とその音が出された状況の相互作用を考える
  ex)都会のざわめきや自然界の音など
2) サウンドスケープ・デザイン
  サウンドスケープの構築
  サウンドスケープの実例
  ・名古屋庄内緑地公園
   自然の音→大噴水の音、風の鐘、小鳥のさえずり
  ・福岡市環境基本計画
   音環境の保全→残したい音風景21{福岡ドームの歓声、博多祇園山笠、海ノ中道の波音etc}
  ・日本の音百選
   環境庁による事業
2. 視覚と聴覚の相互作用
1) 映像の中での音の役割
  →映像効果を高めるものとしての音
  ex)テレビのボリュームを絞ってみる(を想像してみる)
2) 共鳴現象
  ・視覚と聴覚の同方向の感覚
3) その他、相互作用の例
  ・カーオーディオ
3. ミュージアムへの応用
1) 時間と空間の共生
  ・音という時間に抗えないものと時間に縛られない空間
  ・時間のもつ強制力
2) どのような(に)音を盛り込むか
  ・ミュージアムのコンテンツにそった音環境
  ・全体としてか、個々としてか

コンセプト・ラボのトップに戻る


ハコからの解放 〜“ミュージアム”機能の揺れ〜
文学部行動文化学科社会学専修課程4年 野口 翠

1. 「ソフト・ミュージアム」論  
ハコモノ行政への批判 まず「箱ありき」という考え方へのアンチテーゼとして
  ハード…建物、収蔵品、展示・保存・研究の機能
  ソフト…運営理念等
  「柔らかいミュージアムということ、つまり、いままでハードに偏っていたわが国のミュージアムを改革するのは、この柔らかい発想、自然史系・科学系博 物館や美術館の領域を超えた柔軟な運営ができる、ミュージアムに不可欠なソフト面から着手しなければ ならないのではないかと考え、命名した概念の こと」(長谷川栄)
2. ハード機能のソフト化 
美術作品の展示という機能が、美術館という部屋から都市という広場へと浸透していく、という方向性
  例:シャンゼリゼ野外彫刻展  ロダンやジャコメッティといった貴重な文化財をパリの雑踏の中に
  例:ファーレ立川  北川フラム企画 都市計画段階から都市とパブリックアートを融合   
3. 外へ出たアート 〜セラの『傾いた弧』事件〜 
公共事業局(GSA)の依頼で、ニューヨークの連邦プラザに作成。
  高さ3,7メートル、長さ37メートル、厚さ6センチ強のゆるいカーブを描く巨大な鉄板を、 少し傾斜させて広場に置いた作品
  ・サイト・スペシフィックな性格
   →パブリック・アートはコミュニティのための芸術
  ・サイト・スペシフィックかつコミュニティ・スペシフィック
   →デジタルパブリックアートの可能性   
4. ミュージアムソフトのソフト化 
例:ラ・ビレット
  「ハンズ・オン」を中心とした参加体験重視「見る」だけでなく、五感全てを動員するような展示へシフト
  「“手を触れてはならない”ことをしてはならない」<Interdit ne pas tocher>
  例:サンフランシスコ・エクスプロラトリウム
  「諸実験がいずれもアートとサイエンスを超領域的に交換させようとの意図のもとにレイアウトされている」
  ミュージアムにおける展示形式が、各専門分野に隔離されることなく上手く融和したかたちでなされる
  領域横断型なソフト  ミュージアムにおける展示を、リアルスペース、サイバースペースの中へと拡張していく流れ
  →ミュージアムの本来の機能−収集、保存、展示、研究−は崩壊や終焉の方向へと進んできたのではないか
  →作品の展示という機能が都市空間へと広がっていったとき、つまり都市空間がミュージアム化したとき、
   この展示空間とは一体何なのか?
5. ミュージアム化する街
・移動ミュージアム
・ユビキタスミュージアム
  例:尾道観光ナビ・どこでも博物館
  ・必要なときに、必要なところで”誰でも簡単にひもとける
  ・景観を疎外しない
  ・新たな情報をインターネットを通じて追加・更新のすることで、つねに活きのよい「旬」の情報を提供できる
  ・インタラクティブ(双方向)に情報がやりとりされる「掲示板」
  ・二次元バーコードの出現6. デジタルアーカイブの可能性
  国立科学博物館の試み

コンセプト・ラボのトップに戻る


永遠と一日 Eternity and a Day
文学部言語文化学科西洋近代語近代文学専修過程3年 大隅 亮

1. 常設展・常設展とは
  基礎的なコレクションの長期的展示。そのミュージアムの存続意味を提出する。
  ――しかし現状は閑散としていて幽霊屋敷のよう。
  特別展に劣る貧弱なコレクション。
・常設展の先には永遠性
  もし常設展がある日(初日を含む)理想的な建築と完全な展示物を手に入れたなら、
  永遠に変わらない展示空間が誕生するのではないか。
2. 常設展としての伊勢神宮 
伊勢神宮は690年から1300年以上に渡って原型が保持されている。
  20年に一度行われる解体と再建のプログラム「式年遷宮」がそれを可能にしている。
・アーキテクチャーの永遠性
  祭儀を行う建築群はもとより鳥居や橋に至るまで徹底して解体と再建が行われる。
  解体された木材は表面を削られ、より細い木材として再建に組み込まれるか、
  木片として系列の神社で利用される。
・展示物の永遠性
  2500点に及ぶ調度品は20年ごと複製される。
・式年遷宮
  式年遷宮は約8年の解体・再建の準備期間と、20年間の利用期間を、二つの場所で繰り返す。
・式年遷宮/御神札授与所/宇治橋/外幣殿
3. 特別展・企画展
・特別展・企画展とは
  ミュージアムが特別に企画する展示。常設展ではカバーできない領域を扱う。
  ――現状は「常設化する」特別展・企画展。他館に頼り借物競走。
  コレクションに必要な資金を食いつぶしているのでは。
・特別展・企画展の先には一日性
  「特別さ」を追求すれば行きつく先は、限りなく短命な展示と短命な展示空間ではないだろうか。
  一日で終わるプログラムに意味はあるのか。そもそも短命な展示空間は可能なのだろうか。
4. 特別展・企画展としての能
  「ハレ」の芸能として発達した能は、朝から仮設舞台を組み立て
  昼や夕方から能が行われ、夜には解体された。
・アーキテクチャーの一日性
  一日で建設と解体をするために、極度に洗練された舞台が使用される。
  現代の能楽堂は屋内だが、もともとは野外で行われた。
・パフォーマンスの一日性
  能は神に捧げられる一日限りの芸能だった。その名残として、現在でもシテ、ワキ、地謡、四拍子、
  その他の演者は原則リハーサルを行わず、また二度と同じプログラムは繰り返されない。
・岐阜県本巣郡 根尾村能郷 白山神社

コンセプト・ラボのトップに戻る


分散型ネットワークとしての総合的ミュージアムのデザイン
文学部行動文化学科社会学専修課程4年 大久保遼

0. アドルノの嘆き
・ドイツ語のmuseal(美術館的)という言葉には、少々非好意的な色合いがある。それは、 観る人がもはや生き生きとした態度で臨むことのない、
  そしてまた 自らも朽ちて死に赴き つつある、そんな対象物を形容する際の言葉なのだ。 ・…美術館(ムゼーウム)と霊廟(マウゾレーウム)を
  結び付けているのは、その発音上の 類似だけではない。あのいくつもある美術館というものは、代々の芸術作品の墓所のようなものだ。
  ―T・W・アドルノ, 1955, 『ヴァレリー プルースト 美術館』
・死に絶えた芸術の墓所としてのミュージアム
  ⇔ミュージアムが他の知の領域を没交渉になり、それだけで自律した体系を作り出していった ことと関わっているのではないか
1. ミュージアムの原点−ムセイオン 
・「ミュージアム」の語源=ムセイオン
・古代ギリシャ神話に登場する、ゼウスとのあいだに9人の女神を設けた記憶の女神ムネモシュネを 祀った神殿のこと
・歴史上いくつかのムセイオンが確認されているが、紀元前三年、プトレマイオス1世がアレクサンドリアに建設した総合研究施設が有名
・博物学のコレクションのほかに、講義室、食堂、宿舎、天文観測所、膨大な蔵書を誇る図書館からなる総合研究施設であった
2. ミュージアムの総合化への志向
1) ル・コルビュジェのムンダネウム
  5つの展示館からなる世界博物館、世界大学、世界図書館国際機関事務棟などの諸施設を螺旋構造で配置した総合研究施設。
  中心に世界博物館が位 置する構想。 ムセイオンをモデルに1920年代末に構想されるが実現せず。
2) ポンピドゥー・センター
  国立近代美術館(MNAM)だけでなく、産業創造センター(CCI)、公立図書館(BPI)、音響研究所(IRCAM)が集積した複合型文化施設
3. 分散型総合ミュージアムの構想
・バタイユのムンダネウム批判
・集権化した構造は、本物のコミュニティを築くために必要な社会の動きを麻痺させる。
  集権化した構造は常に頂点を向き、底辺が頂点からの絶対的支配に曝される単純構造を導くだけで、 多様性の保持、個々の自立を決定的に妨害する。  Monocephalous=一頭独裁型の構造に身をゆだねる ならば、あらゆる自主性は抹殺されるほかない。 社会のメンバーによる自由な動きと
    コミュニケーシ ョンを実現するにはAcephalous=多頭分散型の構造を進める必要がある。
  ―武邑光裕, 2003, 『記憶のゆくたて』より
・現代の日本においてムセイオン、ムンダネウムに並ぶような総合的な知の殿堂を作り出すことは困難
  バタイユのいう多頭分散型の構造
  ↓
  地域のミュージアム、図書館、学校が連携して総合的な知の分散型ネットワークを構築することができないだろうか?
4. アウトリーチという試み
・アウトリーチとは、もともとは社会福祉の分野で、クライアント(援助を必要とする人)の表明されない ニーズ把握の手法として開発されたもので、
   ケースマ ネージャーがクライアントの生活現場や職場、 関係している地域の機関などに出向いて課題を解決することをいう。いうなれば、
   クライアント本人から 直接ニーズを引き出すのではなく、クライアントに関係する周りの人々から、クライアントの表明し得ない潜在的なニーズを
   把握する手法である。
・そこから出発した芸術文化におけるアウトリーチは、芸術家(芸術団体ないし文化施設)が、普段、
  芸術文化に触れる機会の少ない市民に対して、(その生活の場に出向いていって)働きかけをおこなうもので、日本語で表記するならば、
   「芸術普及活動  」あるいは「教育普及活動」と言われるものである。
・世田谷美術館の特別鑑賞プログラム
  世田谷美術館では1996年から「美術鑑賞教室特別プログラム」という小学校と連携したアウトリーチを、世田谷区内の希望校むけに始めた。
  この特別プ ログラムは、担当の学芸員と美術館へのインターンの 東京学芸大学の学生が展覧会に関する事前授業を行うもので、この授業を受けた
  後で、小学生た ちは実際に美術館を訪れて展覧会を観ることになる。
・美術館、大学、小学校が連携した例

コンセプト・ラボのトップに戻る


ミュージアムテクノロジー 「ミュージアムの展示空間の可能性」
文学部歴史文化学科美術史専攻3年 森 拓馬

1. 機能の維持か、機能の停止か
・ミュージアムの機能
  特定の分野に対して価値のある事物、学術資料、美術作品などを収集、保存、研究し、来訪者に展示という形で開示する
・機能の停止
  仮設型ミュージアム
・機能の維持
  展示領域の拡大
2. 仮設型ミュージアムの可能性
・ミュージアムの機能である「展示」に注目し、それに特化したもの。
  収集、保存、研究の機能は備えていない
・仮設型建築物なので実験的な建築も可能か?
  →建築物は基本的に浪費が大きく、寿命が長く、大きい
  よって仮設型建築物で展示することでコスト削減、建築物の縮小化が可能
・ギャラリーとの相違
  ギャラリーは、展示空間が狭く、基本的には作品の収集、保存、研究の機能がなく、展示の機能に特化している。
  機能自体としては仮設型ミュージアムと変わらないが、大きな違いとしては建物自体の移動が可能かどうかという点であろう。
・「親」ミュージアムと「子」のミュージアム
  ミュージアムの持つ収集、保存、研究を仮設型ミュージアムで可能にするにはどうしたらよいか
  →ミュージアムの分業化
  ・「親」のミュージアム
   収集、保存、研究、展示のすべての機能を有し、「子」のミュージアムに作品を貸す
   移動しない従来のミュージアムとして存在
  ・「子」のミュージアム 
   展示の機能に特化し、「親」のミュ?ジアムから作品を借りて展示
   仮設型建築なので移動可能 
3. 展示空間の拡大・従来の展示空間
  建築物の中の限られた空間で作品を展示
・「枠」からの解放
  作品を建築物の中で展示するという考えを取払い、展示空間を拡大
・例 ベネッセアートサイト直島、箱根彫刻の森美術館
・「南瓜」草間彌生、「三枚の正方形」ジョージ・リッキー、「茶のめ」片瀬和夫

コンセプト・ラボのトップに戻る


Museum = Only
文学部行動文化学科心理学専修課程 伊藤 言

1. Museum = Border
・Museumの成立条件=境界線=差異化
・Museumであるという「枠」による囲い
・Museum=「了解事項」
2. Museum = Border = the End
・「知覚するとき、表現するとき、私たちが知っているのは、ただ何かが始まっているという、そのことだけである。何が始まっているのか、
  そのことはわからな いままに、すでに知覚も 表現も動き出しているのである。」
・「知覚は知覚者の死以外では終わらない。表現はいつでも人為的に終了できる。表現とは<終わらせる>ことでもある。」
―佐々木正人『デザインの生態学』
3. Museum = Spot
・情報=均質の中の不均質性
・光の構造/振動の構造(音)/化学的構造(匂い)
・どの場でもその場だけにしか得られない情報がある
・Medium中すべての点が潜在的な観察点 → 動物が動くことに根拠を与える
・移動は情報によって制御されている
・変化の中に現れてくる不変なもの(不変項)=対象
・可動=可選択
4. Museum = Feel
・知識として/臨場の場として
・触覚/嗅覚/味覚/聴覚/視覚
・「人々の目を奪うのではなく、五感に染みわたるように浸透していく」
・「情報を慈しむ」(原研哉『デザインのデザイン』)
5. Museum = Flow = Border Violation
・Flow/Stock
・歩き/泳ぎ/這い/潜り/飛び/しゃがみ/避け/迷い
・距離の接近=間の遠近
・雨に濡れる=身体境界の侵犯
・ジェットコースター/ボートに浮かぶ作品/振動する地面
・宮島の鳥居
6. Museum = Memory×Stimulus
7. Museum = Join
・Image=移動×刺激×過去の記憶(脳の来歴)
・「認識を肥やす」(原研哉)=脳の来歴の総動員
・脳の来歴を引き出す
   「たとえば、ここにコップがあるとしよう。あなたはこのコップについて分かっているかもしれない。 しかしひとたび「コップをデザインしてください」と
  言われ たらどうだろう。デザインすべき対象として コップがあなたに示されたとたん、どんなコップにしようかと、あなたはコップについて少し
  分からなくなる。 しかしコップについて分からなくなったあなたは、以前よりコップに対する認識が後退したわけではない。むしろその逆である。
  何も意識しないでそれをた だコップと呼んでいたときよりも、いっそう注意深くそれについて考えるようになった。よりリアルにコップを感じ取ることが
  できるようになった。」        
 ―原研哉『デザインのデザイン』
8. Museum = Activation・Candy
・語りを引き出す
  絵馬、White Board、Internet
・五感から引き出す
  Photograph、粘土、Bricolage = Edit、物質性/記号性―五感のSouvenir
9. Museum = Sympathy
・共感が人間に悦びをもたらす
・痕跡
  行為の時間が長い/行為が集合的 = Museum
  そういうものは結果が見られるだけで、行為をしている人を見ることができない
・たくさんの人の中での、わずか一部でシェアしているということに快感がある
10. Museum = Only
・力への意志 公共性
・Uniqueness Universality
・暴力/ゲリラ的 公正
・斬新さ 無意識に寄り添う
・Art Science
・個人的な意思表明 問題発見/問題解決

コンセプト・ラボのトップに戻る

ミュージアム建築ワークショップ2006のトップページへ
博物館工学ゼミ2006のトップページへ