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    アムッド1号の頭骨。イスラエル出土、1961年。頭骨最大長: 21.5 cm(Suzuki & Takai 1970より)

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    アムッド洞窟(Suzuki & Takai 1970より)

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    アムッド洞窟出土の中期旧石器。左上が石核、その他はルヴァロワ尖頭器、石刃、彫器など。長さ9.0cm(右下)(5-12-46 ほか)

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G8
アムッド人
初めて日本人が発掘したネアンデルタール人骨

アムッド洞窟は1960年、イスラエル北部で渡辺仁が発見した中期旧石器時代遺跡である。1961、1964年の二シーズン、鈴木 尚を団長とした東京大学洪積世人類遺跡調査団によって発掘された。一年目からネアンデルタール人の全身骨格が見つかったことで、日本人による初めての海外化石人類学調査は華々しいスタートを飾ることとなった。

全身骨格(アムッド1号)は中期旧石器時代末の地層から出土した。若年成人(約25歳)男性である。保存がよく、かつ身体を丸めて横たわった状態であったことから埋葬されていたと考えられている。

アムッド人頭骨は、非常に大きく、推定脳容量(約1740cc)は現生人類より大きい。頭骨の形は前後に長く上下に短い。後面観が丸く、頭頂部の張り出しがない。顔面は大きく、中顔部が前突する。前歯サイズが相対的に大きい。下顎臼歯の後ろに隙間がある(臼歯後隙)。こういった典型的ネアンデルタールの特徴とともに、アムッド人は現生人類的、あるいは中間的特徴も備えている。手足が長く、身長も高い(推定178cm)。乳様突起が大きい。下顎の頤がわずかながら発達する。眼窩上隆起は退化的である。

ネアンデルタール人と我々現生人類の関係については、当時も今も議論が続いている。1960年代に有力だったのは、現生人類がネアンデルタール人など各地の旧人から進化したとする多地域進化説である。アムッド人に見られる現生人類的な形質は、アムッド人が移行期の人類であることを示しているのではないかと考えられた。一緒に見つかった石器の一部が、現生人類の文化とされる後期旧石器と類似した様相をもっていたこともその根拠とされた。

DNA分析が飛躍的に進展し、化石証拠も増加した現在では、現生人類アフリカ起源説が有力となり、アムッド人も移行期の人類ではなく、ネアンデルタール人の変異として考えられている。近年の学界では、我々現代人がネアンデルタール人から進化したと考える研究者はほとんどいない。しかしながら、ネアンデルタール人と現生人類が交雑(混血)していたことも明らかになっており、その舞台の一つは西アジアであったことも判明している。その意味で、アムッドの人骨や石器群は再度、注目を集めている。 (西秋良宏・近藤 修)

参考文献 References

Ohnuma, K. (1992). The significance of Layer B (Square 8-19) of the Amud Cave (Israel) in the Levantine Levalloiso-Mousterian. In: The Evolution and Dispersal of Modern Humans in Asia, edited by Akazawa et al., pp. 83-106. Tokyo: Hokusensha.

Suzuki, H. & Takai, F (eds.) (1970) The Amud Man and His Cave Site. Tokyo: Academic Press of Japan.