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    太平洋の海底から採取されたレアアース泥(KR13-02 PC05 REY-rich mud; DSDP Site 573B, 42-1, 15-17; DSDP Site 573B, 42-2, 62-64; DSDP Site 573B, 42-3, 19-21; DSDP Site 573B, 42-4, 63-65; DSDP Site 573B, 42-4, 132-134)

B6
レアアース泥
新たな海底鉱物資源の発見

レアアース(希土類元素;Rare-Earth Elements)とは、元素周期律表第III族に属するランタノイド15元素(またはランタノイドとイットリウムを加えた17元素: REY)の総称であり、そのうち前半の7元素を軽レアアース、後半の8元素を重レアアースと称する。レアアースは、ハードディスクやニッケル水素電池用の水素吸蔵合金、自動車用排気ガス浄化触媒から、人工衛星の通信システムや戦闘機のジェットエンジン用耐火材にいたるまで、さまざまなハイテク産業の素材原料として用いられており、現代社会にとって無くてはならない資源である。

軽レアアース鉱床は中国をはじめ米国や豪州など世界中に分布するが、ウランやトリウムなども同時に産出するため、抽出過程での放射性元素の処理がネックとなり、開発が極めて困難となっている。さらに、中国一国のレアアース生産量が世界全体の約90%を占めているため、レアアースの世界的な供給不足や価格急騰が生じやすい。

本学大学院工学系研究科の加藤泰浩らの研究グループは、太平洋の4,000m以深の深海底にレアアースを高濃度で含有する「レアアース泥」が広範に分布していることを発見した。太平洋全域から採取した2,000を超える膨大な数の深海底の泥試料の全岩組成分析により、タヒチ周辺の南東太平洋においては、1,000~1,500ppmの泥が2~10m程度の厚さで、ハワイを中心とした中央太平洋では400~1,000ppmもの泥が最大70mの厚さで分布することが明らかになった。展示している標本は太平洋から採取したレアアース泥の一部である。この2つの海域での資源量を計算してみると、現在陸上に存在するレアアース埋蔵量の約800倍になる。加えて、レアアース泥は地上のレアアース鉱床の開発と比して、探査が容易なこと、放射性元素をほとんど含まないこと、希酸で容易にレアアースの抽出が可能なことから、従来のレアアース開発が引き起こす環境問題と安定供給の課題を一挙に解決する可能性を秘めた鉱物資源として有望視されている。 (逸見良道)