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    ニワトリ(Gallus gallus domesticus)。山伏、剥製、全長300mm、前方寄り左側面。山口コレクション

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    吻側面

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B38
山伏剥製

山伏(やんぶし)は日本の伝統的なニワトリの品種である。古くから東欧や南欧で、鶏冠部の内部に軟骨の隆起をもち、顔を覆うような羽毛を伸ばす品種が成立していた。代表品種はポーランド産のポーリッシュである。他方、山伏の品種としての成立は江戸期にさかのぼる。ポーリッシュやその類似品種が国内に持ち込まれ、地鶏との交配を経て改良され、本品種が確立されたと推測されている。ポーリッシュ系統の特異な頭部の形態が人気を集め、ニワトリ愛好家の間に集団が広まったと考えることができる。

ここの剥製は、昭和33年に鹿児島県屋久島産の個体を山口健児(たける)氏が収集したものである。山口氏は日本農産工業株式会社でニワトリを研究し、日本産品種を中心とする多数の品種の剥製や資料を蓄積したコレクターである。標本群は山口コレクションとして知られ、1964年には日本農産工業株式会社に和鶏館という展示施設が作られ、以降多くの人々に親しまれた。2012年、同社の厚意によりコレクションが総合研究博物館に寄贈され、新たにニワトリ研究を支える学術標本として歩み始めたものである。

本品種は体は小さく、成長も早いとはいえず、産卵効率にも大きな長所は見られない。それにもかかわらず、日本、ヨーロッパ、そして世界中でこうした外貌の品種が人気を博してきた。このことは、ニワトリが単に肉や卵の生産ばかりではなく、愛玩動物・伴侶動物として人に愛され、育種が進められてきたことを示している。 (遠藤秀紀・楠見 繭)