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    エドクロツヤチビカスミカメのパラタイプ標本。東京都目黒区駒場、2013年6月22日、石川 忠採集(ANMH_PBI 00379779)

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    2013年に新種として発表されたエドクロツヤチビカスミカメ(カメムシ目、カスミカメムシ科)。発見地は東京都心の東京大学駒場キャンパス(撮影:安永智秀)

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    エドクロツヤチビカスミカメが棲む東京大学駒場キャンパスのアカメガシワ(撮影:石川 忠)。発生期の初夏にはアカメガシワの花序に多数の個体が見られる

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エドクロツヤチビカスミカメ
都心から発見された新種カメムシ

地球に生息する生物の中で、もっとも多くの種数からなるグループが昆虫である。実に全生物種の60%ほどを昆虫が占めている。しかも、現在でも次々に新種が発見されていることから、この割合は今後もっと高くなるであろう。ただし、新種が発見される場所は、人里離れた山奥であったり、調査の及んでいない特殊な環境だったりと、人間の生活圏から遠い場合がほとんどである。つまり、私たちがいつも暮らしている環境には、ありふれた生き物しかいないと思いがちである。しかし、この盲点を突くように、東京都心から新種の昆虫が発見された。2013年のことであった。その昆虫こそ、ここで展示されているエドクロツヤチビカスミカメである。

東京都心には、皇居や明治神宮を筆頭に広大な面積をもつ緑地がいくつかある。これら広域緑地の生物相については近年になって精力的な調査がなされ、都心の緑地にもかかわらず高い生物多様性を保持していることが明らかになっている。一方で、ずっと小さな緑地、例えば大学キャンパスの生物多様性は如何ほどのものであろうか。この疑問が、新種発見のきっかけであった。

東京大学駒場キャンパス(東京都目黒区)は、周囲を商業施設や住宅地に囲まれており、渋谷駅まで徒歩20分ほどに位置する。このような高度な都市化にさらされた小規模緑地での調査は、図らずも驚きの連続であった。59年ぶりに再確認されたニセカシワトビカスミカメの生息や、皇居や明治神宮に勝るとも劣らない種多様性の存在が示した事実は、大都会であっても身の回りの自然が如何に未知で溢れているかを物語っている。ここに至って、さらに新種のエドクロツヤチビカスミカメの発見である。まさに、灯台下暗し。都市緑地の重要性を生物多様性の観点から再認識する出来事であった。

エドクロツヤチビカスミカメの世界共通の名前、すなわち学名はSejanus komabanusである。種小名komabanusは発見地の「駒場」にちなんで付けられた。なお、このカメムシが新種として発表された論文では、新種がもう1種掲載されており、この新種も長崎県の住宅地で見つかっている。身の回りの自然を見直すことによって、身近な新発見が今後も続くであろう。 (石川 忠)

参考文献 References

Ishikawa, T. et al. (2015) Inventory of the Heteroptera (Insecta: Hemiptera) in Komaba Campus of the University of Tokyo, a highly urbanized area in Japan. Biodiversity Data Journal 3: e4981. DOI: 10.3897/BDJ.3.e4981

Yasunaga, T. et al. (2013) Two new species of the plant bug genus Sejanus Distant from Japan (Heteroptera: Miridae: Phylinae: Leucophoropterini), inhabiting urbanized environments or gardens. Tijdschrift voor Entomologie 156: 151–160.