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    ヘリコプリオン・ベッソノウィ。群馬県みどり市東町花輪産出、ペルム紀前期、25.6×19.8cm(UMUT PV07477)

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    CT撮影によるヘリコプリオンとその周囲の軟骨。pf:側口蓋窩、qf:側方形骨窩、qmf :方形下顎窩(Tapanila et al. 2013: Fig. 2)

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    ヘリコプリオンの様々な復元(a-k)と最新の復元(l) (Tapanila et al. 2013: Fig. 1)

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B16
ヘリコプリオン・ベッソノウィ
アンモナイトと見間違うギンザメの歯

ヘリコプリオンは、主にペルム紀前期の地層から見つかる螺旋状に繋がった歯である。左右の歯が正中で癒合しており、新しい大きな歯が螺旋の外側に加わって成長し、130以上の歯が繋がったものもある。最初の標本が1886年に報告され、ヘリコプリオンという名前が1899年につけられて以来、ヘリコプリオンが体のどの部分のどういう機能をもつ器官かは、古生物学者の頭を長い間悩ませ続けてきた。摂食ための顎の歯か、あるいは防御のために背びれや尾についていたというのが主要な説であった。2013年の軟骨が保存された標本をCTスキャンした研究で、ヘリコプリオンは原始的な全頭亜綱(ギンザメの仲間)とされ、上顎に歯は無く、この螺旋状の下顎の歯が口腔全体を占め、顎の後方から新しい歯が付け加わることなどが明らかになった。螺旋状の歯は下顎が閉じることで、後背側に回転し、食べ物を口腔の奥に押し込みながら裁断していたと考えられる。歯に傷跡が少ないことや、硬い殻をもつ餌は顎を閉じる時に滑り出てしまうと考えられることから、ヘリコプリオンは柔らかい餌を食べていたと推測されている。

本標本は、1897年に群馬県の足尾帯から産出したが、その分類が不明で、当時の地質調査所所長の巨智部忠承が万国地質学会への参加時に写真をロシアに持って行き、海外の研究者に聞いたが、誰にも分類はわからなかった。その後、ロシアで同様な化石が1898年に産出し、1899年にそれをヘリコプリオンとして記載したカルピンスキーが記載論文を巨智部に送り、それを参考にして東京帝国大学地質学教室卒業生の佐川榮二郎が1900年に地学雑誌に報告を、1903年には東京帝国大学の大学院生であった矢部長克が英文で報告を書いている。19世紀末にすでに地質・古生物分野で活発な国際交流があったことを裏付ける点で学史上も重要な標本である。(久保 泰)

参考文献 References

Tapanila, L. et al. (2013) Jaws for a spiral tooth whorl: CT images reveal novel adaptation and phylogeny in fossil Helicoprion. Biology Letters 9: 20130057.

Yabe, H. (1903) On a Fusulina-limestone with Helicoprion in Japan. The Journal of the Geological Society of Japan 10: 1–13. 

佐川栄二郎(1900)「日本及ロシアに出でし最古魚類遺歯」『地学雑誌』12: 26–29。