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    ニホンウナギAnguilla japonicaの卵。マリアナ西方海域、2012年(白鳳丸 KH-12-2次航海)に採取

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    ニホンウナギAnguilla japonicaの初期成長過程

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    ルソンウナギAnguilla luzonensisのレプトセファルス(全長51.2mm)の耳石の断面(最大径163µm)。輪紋構造から推定138日齢

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B15
ニホンウナギの卵とレプトセファルス
産卵場調査で採取された標本

ウナギは海と川を移動する回遊魚であり、その一生は旅の中にある。旅の始まりと終わりはともに産卵場であるが、それがどこにあるのか、長い間謎とされていた。卵から孵化したウナギはレプトセファルスと呼ばれる仔魚となる。この透明なオリーブの葉のような幼生が海流により運ばれる。これがウナギにとって最初の長旅だ。陸地に近づくとレプトセファルスはシラスウナギへと変態する。河口域に到達したシラスウナギは河川へ遡上し、川や沼で10年前後成長する。やがて、成長したウナギは成熟が始まると帰り旅の準備を始め、秋の増水時に川を下って外洋の産卵場へと旅立つ。これが二度目の長旅になる。何千キロもの旅をして産卵場に帰り着いた親魚は産卵し、一生を終える。

こうした複雑な生活史をもつウナギの産卵場調査に、東京大学が本格的に乗り出したのは1973年のことである。当時、東京大学海洋研究所が保有していた研究船「白鳳丸」による第一次ウナギ調査航海(KH-73-2次航海)がそれである。東京大学海洋研究所(当時)の西脇昌治教授を中心としたこの航海で採取されたレプトセファルスは1尾だったが、続く1973年の第二次ウナギ調査航海(KH-73-5次航海)では、台湾東方海域で全長約50mm前後のレプトセファルスが52尾採取された(Tanaka 1975)。展示品のニホンウナギのレプトセファルスの標本は、そのひとつである。

その後、約40年間に亘って研究船によるニホンウナギの回遊と繁殖生態に関する調査研究が続けられた。推定産卵場は、レプトセファルスの輸送経路を遡っていくことにより、沖縄南方海域、台湾東方海域からフィリピンのルソン島東方海域へ南下し、さらに北赤道海流を遡行・東進してマリアナ諸島西方海域に到達した。こうした研究の進展に伴い、採集されるレプトセファルスのサイズは小さくなっていった。つまり、ウナギの産卵場調査の歴史は、広大な海の中でより小型のレプトセファルスを求め続けた歴史といえる。1991年には、東京大学海洋研究所の塚本勝巳教授のグループがマリアナ諸島西方海域で全長10mm前後のレプトセファルスを約1,000尾採集し、これによって産卵場はマリアナ諸島西方海域とほぼ特定された(Tsukamoto 1992)。こうした調査研究の過程でウナギの孵化日を推定するために用いられたのが、 内耳の中にある耳石と呼ばれる炭酸カルシウムの結晶である。この耳石を研磨して顕微鏡で観察すると、1日に1本ずつ形成される同心円状の日周輪が見える。この耳石による日齢査定を行うことで、ニホンウナギは夏の新月前後に孵化していることが明らかとなった。

そして、2009年、ついに西マリアナ海嶺においてニホンウナギの卵が発見された(Tsukamoto et al. 2012)。展示品の卵は、産卵場の形成メカニズムを調べるために行われた2012年のKH-12-2次航海で採取された標本のひとつである。透明な直径1.6mm程度の浮性卵で、海中を漂いながら分散する。世界に分布するウナギ属魚類の中でも、これまで卵が発見されているのはニホンウナギだけである。 (黒木真理)

参考文献 References

黒木真理・塚本勝巳(2011)『旅するウナギ−1億年の時空をこえて』東海大学出版会。

Tanaka, S. (1975) Collection of leptocephali of Okinawa Islands. Bulletin of the Japanese Society for the Science of Fish 41: 129–136.

Tsukamoto, K. (1992) Discovery of the spawning area for the Japanese eel. Nature 356: 789–791.