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    アイスランドガイ(Arctica islandica (Linnaeus, 1767) )。アイスランド西方沖、 水深15-30m (UMUT RM20160216-TS-1)

B10
アイスランドガイ
世界最長寿の貝

より大型の生物は小型の生物よりも長生きであることが多い。しかし、生物の寿命は体の大きさとは必ずしも対応しない。アイスランドガイはありふれた大きさの二枚貝であるが、極めて長寿命であることが知られており、貝類では最も長生きな種である。現時点での最高齢記録は507齢とされている。

生物の寿命を知るにはいくつかの方法がある。特に、貝類のように骨格を形成する生物の場合には以下のような手法が可能である。(1)直接飼育:飼育環境下で生存期間を確認する。(2)標識採集:マーキングをして野外に放し、定期的に採集して、成長速度を見積もり、寿命を推定する。(3)成長輪解析:貝殻の断面には成長輪が確認される。成長輪の形成パターンから寿命を推定する。(4)酸素同位体比:酸素同位体比の変動から1年の水温変化を推定することができ、年輪を確認できる。(5) 年級群解析:定期的に採集して多数個体の体サイズの分布をグラフ化し、年級群を区別することにより年齢を推定する。

上記の手法はそれぞれ長所短所があり、複数の手法を組み合わせて寿命に関する研究が行われている。貝殻にはしばしば多数の障害輪が形成されているが、これが年輪とは限らない。例えば、悪天候の期間や産卵による成長休止期などにも成長障害輪ができる。従って、年輪を確実に特定するためには、貝殻の巨視的な見た目ではなく、微視的な成長線解析や同位体の解析が欠かせない。

アイスランドガイは成長が遅いため年輪の間隔が狭く、過去の研究では精密な解析が困難であった。しかし、近年の研究技術の向上により精査された結果、最長で500年以上に達することが判明した。 (佐々木猛智)

参考文献 References

Butler, P. G. et al. (2013) Variability of marine climate on the North Icelandic Shelf in a 1357-years proxy archived based on growth increaments in the bivalve Arctica islandica. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 373: 141–151.