東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime26Number1



IMTリモート活動
リモートで行うボランティア活動と展示案内プログラム

寺田鮎美(1本館特任准教授/文化政策・博物館論、
上野恵理子 (本館特任研究員/建築・美術解剖学)
松原 始 (本館特任准教授/動物行動学)

  インターメディアテクでは、2013年の開館時から約1年の準備期間を経て、2014年度より小中学校向けの教育実験プログラム「アカデミック・アドベンチャー」を実施してきた。本プログラムは、インターメディアテクでボランティア活動を行う大学生・大学院生(IMTボランティア)が「インターメディエイト」(=展示の案内役)を務め、参加児童・生徒との会話を重視した双方向的な展示案内を行う点を特徴とする。これまでに、都内・東京近郊からの校外学習、地方からの修学旅行等、さまざまな公立・私立小中学校の利用実績がある。
 われわれは本プログラムを、大学博物館の主導する教育実験活動の一環としての「複合教育プログラム」と位置づけている。複合教育と呼ぶ理由は、IMTボランティアに参加する学生が議論や対話を通じてお互いを刺激し合うことや、展示案内役を務めながら子どもたちの疑問や発見から学生自身も学ぶことを重視している点にある。
 対話形式の展示案内の内容は、われわれ教員がモデレーター、時にコメンテーターを務めながら、学生たちが互いに発表と意見交換を繰り返しながら自分たちで作り上げていく流れを基本にしている。学生自身がそれぞれ興味をもった展示物を取り上げ、なぜそれを面白いと思ったかを軸に、一方的な解説ではなく、子どもたちが自分の目と頭をはたらかせてモノを観察し、考える体験ができるように「アドベンチャー」(=展示紹介)の内容を工夫してきた。プログラムに参加した小中学校の教員からは、大学生の自主性を尊重した大学博物館による教育実験として理解が得られ、大学生が子どもたちの展示案内役を務めるということ自体が好意的に受け止められている感想を聞くことができていた。
 しかしながら、IMTボランティアと小中学生とが対面する教育プログラムは、コロナ禍により感染症対策の面から実施が困難であり、2020年度から現在までアカデミック・アドベンチャーの利用は受付を停止した状況にある。また、本プログラムの受入れ準備の基盤となってきた日常的なボランティア活動は、感染症予防のため2020年5月にリモートへと舵を切り、Zoomを利用したオンライン形式で継続している。

コロナ禍での活動
 2020年度IMTボランティアのオンライン活動では、コロナ禍の状況を鑑み、新規ボランティア登録を行わず、前年度からの継続者4名の学生で、オンラインでのアカデミック・アドベンチャー実施の可能性を探ることが中心テーマとなった。初めてのオンラインという環境のなか、インターネットで閲覧できるデータベースの展示物写真を見ながらどのような点が気になったかを議論する、あるいは、身近にあるモノを取り上げて、それをカメラ越しに見せながら特徴をどのように伝えられるかをそれぞれが試行し、意見交換を行うといった活動に取り組んできた。
 その中で、メンバー間で共有できた課題とは、「オンラインでモノの質感をどう伝えられるか」というものであった。「質感」は最もオンラインで伝えるのが難しいようにも思われる。しかし、実物を見ることができない状況だからこそ相手に伝えたいと学生たちが注目したポイントであった。
 画面越しに映し出されたイメージから、インターメディアテクの展示物あるいは身近にあるモノの特徴として、表面のテクスチャー、重さ、素材の印象等の質感に注目し、学生ボランティアが面白いと興味を抱いた点を伝える。この試みは、これまでの実空間でのアカデミック・アドベンチャーで重視してきたように、インターメディエイトとして、それぞれのボランティアが注目した展示物を選び、子どもたちと一緒に観察し、考えてみることで展示物と子どもたちの興味とを繋ぐ媒介役となるという軸と重なりつつ、見せ方・伝え方の工夫は単なる実空間での体験の代替ではない、オンライン特有の展示案内となるチャレンジとなっている手応えがあった。

#MuseumFromHome
 2021年3月20日には、一年間の活動の成果発表として、「#MuseumFrom Home|実験アカデミック・アドベンチャー」を実施するに至った。このイベントでは、参加者がリモートでインターメディアテクを楽しむための実験と銘打ち、東京大学の教育研究に由来するさまざまなインターメディアテクの展示物の中からインターメディエイトが選んだ展示物の写真を用いて、Zoomライブ配信で展示案内を行うものとした。
 今回は、春休み期間の子どもたちにインターネット環境のある自宅から参加してもらうことを想定し、実空間でのアカデミック・アドベンチャーとは異なり、学校団体を対象とせず、小学4年から中学3年生の一般申込制とした。参加希望者はニックネームでの応募を受け付け、参加者はニックネーム表示、ミュート・ビデオオフでZoomを利用し、最後にチャットでのQ&Aの時間を設けた。
 当日は、小学生17人、中学生4人の計21名の参加者を迎え、3人の学生ボランティアが、イントロダクション、ウサギの剥製のアドベンチャー、原爆投下直後に採集された被爆資料である獅子頭と鉄平石のアドベンチャーをそれぞれ担当した(図1)。
 イントロダクションでは、インターメディアテクの建物や展示の特徴について紹介するとともに、オンラインだからこそ写真をじっくり自分で観察して楽しんでほしい、また「なぜ」と思うことがあれば積極的に質問してほしいという、アカデミック・アドベンチャーに出発するにあたってのメッセージを伝えた。
 ウサギの剥製のアドベンチャーでは、ウサギ(草食動物)の目の付き方を他の動物(肉食動物や雑食動物)と比べて観察し、ウサギの視野を擬似体験するために、参加者に呼びかけて自分の体を動かしてもらう工夫を取り入れた。今回は、オンラインツールのさまざまな留意点を考え、実空間で行ってきたような対話形式の展示案内は実現できなかったが、この仕掛けにより、オンラインでも参加者が能動的な関わりをもち、同じ時間を共有している実感をもつ雰囲気づくりができた。
 獅子頭と鉄平石のアドベンチャーは、同じ場所に入れ替えで展示された鉱物標本を取り上げ、写真でしか実現しない展示紹介となった。また、原子爆弾被害調査団を率いて広島・長崎の現地調査に当たった地質学者・渡辺武男による標本収集といった背景にも言及し、大学博物館の特徴をより活かした内容とすることができた。
 チャットでのQ&Aは、参加者とのコミュニケーションのために重要であると考えていたものの、参加者の小中学生がどれくらいZoomのチャット操作に慣れているかという点には不安があった。しかし、蓋を開けてみれば、次々と質問が上がり、むしろもう少し長く時間を設けるべきであったという前向きな今後の課題が見える結果となった。


オンラインイベントを終えて
 今回のイベントでは、終了後にGoogle Formを用いてオンライン上でアンケートを実施したところ、21人の参加者全員から回答を得ることができた。特筆すべき結果としては、まず、「『実験アカデミックアドベンチャー』についてどう思いましたか」(選択式複数回答)という質問に対しては、「楽しかった」(21人)、「わかりやすかった」(11人)という回答が多く、内容について概ね好意的に受け止められたことがわかった。「インターメディアテクに行ってみたくなった」(14人)という回答も半数以上が選択していた。
 そのほかに、今回のイベントでは一つのアカウントで同じ端末を利用する場合は、参加する子どもと一緒に大人も視聴可能としていたため、そのような参加者に向けて、「視聴中のお子さんの様子、大人の目線から感じたこと、今後の希望などをお聞かせください」(自由記述)という質問を設けていた。この質問に対する一つの大きな傾向として、子どもも大人も楽しめた、家族で話しながら視聴できたのがよかったというコメントが見られた。また、コロナで外出が難しいため自宅から参加できて良かった、遠方に住んでいるためオンライン開催がありがたいというコメントも目立った。このようなオンラインの利点に言及する回答は、今回の実験に対するポジティヴな評価として受けとめられるだろう。
 一方、学生ボランティアの振り返りでは、次のような感想を聞くことができた。初めてオンラインでのアカデミック・アドベンチャーに取り組んでみて、「今までのように子どもたちが目の前で聞いてくれて、直接反応が見られるアドベンチャーはやりようもないと思っていたが、たとえ顔が見えなくても、子どもたちがちゃんと聞いてくれていてこちらに何か投げかけようと(交流しようと)していることがわかった」、「オンラインにはオンラインの良さがあって、その良さを引き出すことを考えれば、できることは本当にたくさんあると思った」、「オンラインで何ができるかということを模索してきた一年間、新しいチャレンジができてずっとワクワクしながらボランティア活動に取り組むことができた」といった声である。このように、学生たちは、オンラインでも実現できる展示案内のやり方がある、それを自分たち自身が工夫できたという実感をもつことができ、また、新たな取り組みが刺激的な良い経験となっていたことがわかった。
 以上のようなイベント参加者や学生ボランティアからの反応を受け、われわれとして改めて2020年度IMTボランティア活動を振り返ると、一年間、コロナ禍という外的要因からオンラインでの活動とせざるを得ない環境下にあったものの、どのような時でもできることはある、リモートでも人と人との温かな交流はできるという確信をもつとともに、自分たちの取り組みの意義を再確認することができたように思う。

今後に向けて
 2021年度は、オンライン活動を前提に新規ボランティアを募り、現在は継続者2名に新メンバー9名を加えて活動を行っている。2021年8月4日には、家から小中学生に参加してもらうオンライン版アカデミック・アドベンチャーの実験を再び試行し、さらなる手応えとともに新たな課題が見えてきたところである。
 今後のオンライン版アカデミック・アドベンチャーの最も大きな課題は、オンラインでのコミュニケーションをいかに充実させるかという点である。難しい問題ではあるが、まだ試していないことも多く、工夫の余地が大いにあると考えている。
 さらに、ウィズ・コロナ時代のみならず、アフター・コロナを見据えた今後の展開として、「#MuseumFromSchool」を冠として、学校と繋いだオンライン版アカデミック・アドベンチャーの実現を視野に入れている。これを本格導入できれば、これまでの実空間でのアカデミック・アドベンチャー参加にとって学校側の一つの大きなハードルとなっていた、物理的なアクセスの問題が解消し、遠方の学校からも本プログラムに参加しやすくなることが期待できる。
 インターメディアテクでは、実験アカデミック・アドベンチャー以外にも、リモートでの展示案内を導入してきた。特別展示『アヴェス・ヤポニカエ(6)??名と体』の展示紹介(2020年8月19日)を皮切りに、ディレクターズ・ライヴ『ミュージアムを歩く』と題した、西野嘉章館長によるインターメディアテクの展示案内シリーズ(2021年10月12日、12月24日、2021年2月24日、6月11日)(図2)でも、オンライン(インスタグラム)でのライブ配信を行った。インターメディアテクウェブサイト内の研究者コラム「HAGAKI」や公式動画チャンネル「e-HAGAKI」も、リモートでインターメディアテクを楽しんでもらうための発信活動として位置づけられる。
 現時点では、コロナ禍の終息はまだ見えておらず、未来には他の感染症のリスクに晒されることがあるかもしれない。人々の物理的な移動や対面が制限されざるを得ない社会状況にあっても、ミュージアムとして、また大学として、オンラインを含めたさまざまな手段と工夫により、われわれの活動を社会に還元していくための努力を引き続き行っていきたいと考える。
 最後に2020年度IMTボランティアとして初めてのオンライン活動に意欲的に参加してくれた栢場美帆さん(東京大学教育学部4年)、田嶋結乃さん(東京大学大学院農学生命科学研究科修士1年)、羽生彩香さん(東京学芸大学教育学部4年)、野口由芽さん(明治学院大学文学部4年)(いずれも所属は2020年度当時)に心から感謝したい。


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図1 実験アカデミックアドベンチャー実施風景.上からイントロダクション,ウサギの剥製のアドベンチャー,獅子頭と鉄平石のアドベンチャー.

図2 ディレクターズ・ライブ『ミュージアムを歩く(4)』実施風景.