東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime25Number3



コレクション紹介
故本田雅徤名誉教授隕石コレクション

三河内 岳(惑星物質科学・鉱物学)

 日本の「はやぶさ2」探査機が小惑星リュウグウから5グラム超の試料を持ち帰ったことが最近大きなニュースになっており、太陽系や地球の誕生、そして地球での生命の起源についての手掛かりが得られることが期待されている。これらのサンプルリターン試料とともに重要な地球外物質が隕石である。実際のところ、人類がこれまでに手にした地球外物質の中で、重量や種類の点で圧倒的に多いのは隕石である。我々、地球外物質を分析する研究者にとっては、いかに天体進化においてキーとなる試料を調べることができるかと言うのが研究の発展に大きく寄与しているが、隕石が果たす役割は非常に大きい。当館は20年以上に渡り、非南極隕石の収集を行なって来ており、その総数は数百点を超えている(http://umdb.um.u-tokyo.ac.jp/DKoubutu/FMeteo/hajimeni.htm)。これらの隕石試料は、展示に使われるだけでなく、地球外物質研究に広く活用されている。
 最近、寄贈によるこれら隕石試料の拡充を受けることができた。寄贈されたコレクションは、世界的に著名な隕石研究者で、隕石中の宇宙線生成核種の研究から、宇宙核化学を発展させた世界的なパイオニアである故本田雅?名誉教授(東大・物性研究所を1982年に退官)のものである。本田先生は2013年2月に永眠されたが、研究に用いられたコレクションが多くのお弟子さんの一人で、本田先生と隕石の共同研究を続けていらした日本大学理学部の永井尚生先生の下にあり、研究に活用するためにと2020年11月に当館に寄贈を受けたものである(図1)。
 本田先生は92歳で亡くなられるまで現役で研究を続けられ、お亡くなりになる半年前にもオーストラリアで開かれた国際隕石学会で研究発表をされており、その姿は私もよく覚えている。本田先生は、隕石の研究に放射化学の手法を用いた宇宙化学で世界的な成果を多く挙げられたことが私たち隕石研究者には有名であるが、それだけでなく、分析化学、核・放射化学、地球化学など幅広い研究分野においても活躍された巨人であった。1954年に日本のマグロ漁船第五福竜丸がビキニ環礁でアメリカ軍の水素爆弾実験によって被爆した際の灰の分析も行われている。
 今回、寄贈された隕石は、71種類、約700個に及ぶものである。これらの中には現在では入手が困難になっている試料も数多く含まれており、その科学的価値は非常に高い。本田先生は、鉄隕石を主体とした宇宙線核種の分析を主に手掛けられていたことから、鉄隕石が主体のコレクションになっており、特にGibeon鉄隕石が268点もある(図2)。試料には分析に使われたことを物語る切断跡やドリル跡などが見受けられるものもたくさんあり、研究に取り組まれた往時の先生の姿が偲ばれる。また、コレクションには、石鉄隕石や石質隕石も含まれ、幅広い隕石試料に宇宙核化学の研究を行おうとした先生の研究の一端が垣間見られるようである(図3〜8)。
 すべての試料には本田先生が詳細に重量などを記したラベルも付属しており、寄贈前には永井先生によって整理がされたことから、すぐに研究に活用できる状態になっている。今後は、本館データベースに登録を行い、関係学会に連絡をした上で研究試料として活用していく予定である。



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図1 試料を収蔵したキャビネットの抽斗を開けた様子.

図2 左:Gibeon鉄隕石(330 g) 右:表面エッチングスライス(88.0 g).

図3 Imilac石鉄隕石(51.5 g).

図4 Allende 石質隕石(33.4 g).

図5 Dhajara 石質隕石(61.8 g).

図6 Julesburg 石質隕石(87.4 g).

図7 Temple 石質隕石(40.0 g).

図8 Wellman (c) 石質隕石(84.0 g).