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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime22Number3



小石川分館学生ヴォランティア自主企画
親子小石川ミュージアムラボ2017夏「新しい学校をデザインしよう!
―模型で伝える、みんなの建築ミュージアム―」実施報告

米村美紀(本学大学院工学系研究科建築学専攻博士後期課程1年)
杉山佳恵(東洋大学文学部哲学科4年)

 小石川分館では、通常活動に加えて、例年学生ヴォランティアによる自主企画を行っており、本年度は、8月に小学生とその保護者を対象としたワークショップを行った。本稿では、本年度のヴォランティア活動の振り返りとして、このワークショップについて報告する。
 「親子小石川ミュージアムラボ」は、2014年にはじまった、学生ヴォランティアが企画するイベントで、小学生とその保護者を対象に、小石川分館の展示にちなんだテーマを設定しギャラリートーク・制作・展示発表を行うワークショップである。2014年「移動する家」、2015年「仮面」につづき3回目となる今回は、学校建築をテーマとして、「新しい学校をデザインしよう!模型で伝える、みんなの建築ミュージアム」と題して2017年8月11日に開催され、小学生とその保護者計23名が参加した。

企画・立案
 ワークショップでの主な活動は、小石川分館の常設展「アーキテクトニカ」にちなんで、建築模型の制作と展示とした。続いて企画コンセプトについて検討したが、とくに留意したのは「建築模型の制作は目的ではなく、表現の手段である」ということであった。半日限りのワークショップにおいて、単なる工作教室に終始しないためには、ワークショップのねらい−建築模型の制作・展示活動を通して伝えたいこと−を明確に決めておく必要がある。そこで着目したのが、空間設計のプロセスにおける、建築模型の果たす役割である。表現手段としての建築模型の役割として、@設計者から他者へのコミュニケーションツール(空間を追体験し具体的に把握する)ことに加え、A構想した空間に形を与えることで、設計者自身が空間の持つ可能性を再発見する(これは建築学科における設計課題を通じて学んだことでもあった)の2点が考えられるが、この両方を体験してもらうことをワークショップの目標とした。
 参加者全員に共通する空間である「学校」を題材とし(これは小石川分館の建築が旧東京医学校本館であったことも織り込んでいる)、限られた制作時間の中で完成に近づけられるよう、イベント告知案内において題材に関して事前に構想してくるよう促した。また「誰が、何をするための場所なのかを説明すること」「中で行われるアクティビティがわかるよう、添景として人を必ずいれること」「模型のサイズを統一すること」など一定のルールを課すことで、制作がスムーズに進行することと、イベントとしての統一感を持たせることをねらい、最終的な展示において参加者による作品群がひとつの建築ギャラリーをなすよう配慮した。 これらコンセプトの検討には、博物館の松本文夫先生から助言をいただくとともに、先生が東京大学前期教養課程の学生を対象に開講している「空間デザイン実習」を参考にさせていただいた。主眼は空間をデザインすることで、模型はその表現手段である、という意をイベントのタイトル「新しい学校をデザインしよう!」、そして副題「模型で伝える、みんなの建築ミュージアム」に込めた。
 6月末ごろに企画コンセプトを決定し、開催までの1ヶ月はギャラリートークなど全体の進行の準備に充てた。子どもにわかりやすく、さらに一緒に参加する保護者にも興味をもてる内容となるよう、ギャラリートークの内容を検討するとともに、試作会を実施し、初めて模型を作る人が戸惑うことのないよう、制作の説明・進行の手順を確認した。

当日の様子
 本ワークショップは、ギャラリートーク、模型製作、展示発表の3部構成で進行した。
 ギャラリートークでは、模型の特徴について考えること、学校建築の模型がどんなものかを参考にしてもらうこと、そして学校という形にとらわれない発想のヒントの提供を主なトピックとして組み込んだ。内容としては、1階展示室内の世界のさまざまな有名建築の模型と、2階展示室の東大建築の模型、そしてモンゴルのゲル(天幕)の展示室をメインに展示解説を行った。1?3年生のグループと、4?6年生の2つのグループに分けて各グループに合わせた案内を用意した。1階展示室では一般的な学校建築のイメージにとらわれない学校建築のヒントとして「ふじようちえん」と「閑谷学校」の模型を紹介した。合わせて「大槌文化ハウス」の模型も説明し、模型を作るにあたって内部空間でどのような活動がされるのかを考える必要性も伝えた。ヴォランティアからの問いかけやクイズを挟みつつ、集中して模型の観察をする姿が見られた。積極的な参加者が多く、ツアー終盤のゲルの部屋では子どもから自主的に質問が出るなどし、全体を通して対話型のギャラリートークとなった。
 制作は「新しい学校をデザインしよう」というテーマに対して、参加者それぞれが学校でどんなことをしたいのか考え、模型に落としこんでいく活動であった。模型制作に際しては、黒のゲーターフォームを土台として、その幅と奥行きに収めるというサイズの制限以外は、自由な構造にしてよいものとした。材料はスチレンボード・プラスチック板の他、装飾用に画用紙やモール、竹ひごなども用意し、表現の幅が出せるようにした。各自が使う素材やデザインにこだわりを持っていて、「何を使って、どうすればイメージを形にできるのか」という模型制作方法の質問が多く出た。初めのうちは手が止まってしまう参加者もいたが、保護者やボランティアスタッフが、どんなものを作りたいかひとつひとつ問いかけて制作物の具体的なイメージを引き出すと、制作が進み出すケースもあった(図1)。保護者には、子どもの制作サポートに加え、展示の際に必要なキャプションの準備と模型のサイズ感を伝えるための添景の作成をするよう呼びかけた。進捗確認と制作の方向性を定めるために中間発表を設定し、その時間も合わせて2時間ほどの制作時間であった。短いかと思われたが、事前に構想を練るようアナウンスをしていたこともあり、構造が独創的なもの、アクティビティが特徴的なものなど、参加者それぞれの個性が十分に発揮された建築模型が完成した。
 制作に続けて展示発表を行った。制作した模型は1階展示室(図書カードケースの部屋)に展示した。参加者には、模型を見てもらいたい向きに合わせて、平置きにするか垂直に展示するかを選んで設置してもらうようにした(図2)。発表では制作した子ども自身に、そこで行われる活動・作るにあたって工夫した点などについて、ヴォランティアによるインタビュー形式で話してもらった。発表の後にはほかの参加者からの質問時間も設けた。発表者の模型に対して興味を持って質問する子どもが多く、質問時間が予定より長くなってしまうほどの盛り上がりだった(図3)。展示会の終わりには松本文夫先生からの講評もいただき、空間デザインのような創造的活動は、無限にある可能性の中で思考し形を与えることである、というメッセージが伝えられた。ワークショップの最後には、なぜ模型を作るのかという切り口で、模型写真の撮影を引き合いに出しつつ、建築デザインは、外見のデザインだけでなく、内部空間からデザインするというアプローチもあることを企画者側の意図として伝えた。長い制作時間と発表が続いたが、最後まで興味をもって話を聞いている様子をうかがうことができ、単なる工作教室でなく、アーキテクチャを伝える充実したワークショップになったことを感じた。
 本ワークショップは、1日かぎりの建築ミュージアムを作るというものであったが、第3回目にして、建築ミュージアムである小石川分館の常設展「アーキテクトニカ」を率直になぞらえたテーマ設定となった。建築模型を作ってみたい、という声は以前から上がっていたものの、限られた制作時間では難しいといった理由から避けられてきたのであるが、今回はあえて挑戦することとした。ヴォランティアメンバーの不足など不安要素もあったが、こうして充実した会となったことは大変喜ばしいことである。

 小石川ミュージアムラボ実行委員会:利根川薫・太田萌子・杉山佳恵・高橋彩華・米村美紀、当日担当:坂口 舞(小石川分館学生ヴォランティア)
 ミュージアムラボアドヴァイザー:鶴見英成・松本文夫・永井慧彦・小林優香(本館教職員)

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図1 制作の様子.

図2 展示空間.

図3 発表の様子.参加者からの質問の絶えない活発な時間となった.