東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime21Number3



小石川分館特別展示
IMAGINARIA 2 ―映像博物学の試写室

松本文夫(本館特任教授/建築学)

 2017年3月16日から19日までの4日間、東京大学総合研究博物館小石川分館に多数の映像コンテンツが展示され、これまでとは異なる時空間が出現する。学生や研究者によって制作された映像作品が、旧東京医学校本館の建築に埋め込まれる。IMAGINARIA とは、実在物と映像が共存するイメージの融合空間であり、映像博物学の実践成果を展覧する試写室である。
 総合研究博物館ではこの8年ほど、映像コンテンツの制作に積極的に取り組んできた。西野嘉章館長・教授の博物館工学ゼミの活動を嚆矢として、授業やゼミで映像制作が行われるようになった。これまでに作られたのは、博物館工学ゼミの37作品、映像デザイン実習の97作品、4大学国際ワークショップの48作品、学芸員専修コースの4作品である。これらに加えて、博物館の研究者がフィールド調査等の研究活動で撮影した動画が数多く存在している。今回の展示では、2011年に開催されたIMAGINARIA展以降の映像コンテンツを中心とした120作品を一挙に上映する。作品の出処は大きく分けて、1)大学の授業、2)国際ワークショップ、3)研究者や学芸員の活動である。次にその概要を述べる。
 「映像デザイン実習」は筆者が担当する教養学部前期課程の映像制作の授業で、期間中に2つの課題が与えられる。課題1は個人制作で、テーマは毎年Tokyo Storyとしている。課題2はグループ制作で、これまでのテーマはInteraction、Intervention、Symbiosis、Dialogue、Movementである。課題1は繰り返し「東京」を題材としているが、そのアウトプットは実に多様であり、典型に収斂するという印象はない。東京に対するアプローチは各人各様だが、そこには共通する感覚も見いだせるかもしれない。課題2はグループの協働作業によって緻密に作り込まれた作品が多い。
 「4大学国際ワークショップ」は、南カリフォルニア建築大学、法政大学、慶應義塾大学、東京大学の学生が参加して毎年行われている映像制作の交流プログラムである。最近の課題テーマは、SHINSAI Effect、Tokyo Market、Tokyo Emakimono、Thermodynamic Tokyo、Tokyo Immaterialである。ここでも「東京」が主題となっているが、日米学生のコラボレーションを通して、慣れ親しんだ都市を再解釈し、独創的な表現に結びつけているケースが少なくない。また建築系の学生が多いことから、都市環境への先端的な問題提起も見受けられる。
 総合研究博物館が実施する「学芸員専修コース」では、これまでに2回「映像」がテーマに取りあげられた。2016年のコースでは「映像として存在するミュージアム」の制作演習を行った。館内の研究者からも動画素材を提供いただき、その一部は本展でも上映される。また、館外からは「動物行動の映像データベース」の作品を提供いただいた。
 本稿ですべての上映作品を紹介することはできないが、注目される作品や特徴のある作品をピックアップして概要を説明する。以下、紹介文の末尾の数字は、図1の各キャプチャ画像の番号を示す。映像デザイン実習の課題1は全部で77作品あるが、このうち3作品を紹介する。「Tokyo Mind」は人の気持が場所に依存し、その気持の集積が場所の性格を決めるという相互作用を巧みな編集術で表現している(1)。「少女Mの場合」はフリーターの若い女性への淡々としたインタビュー映像だが、作者の創作意図が入念に仕組まれた秀作である(2)。「ROUTINE」は都市の日常を低速度撮影(タイムラプス)で描く作品で、短く圧縮された映像に思いがけず美しいパターンが抽出される(3)。映像デザイン実習の課題2の「the連鎖」は寂しい日々を送る学生が街中での会話をきっかけに交流を連鎖する物語で、デジタル一眼による絞り開放の描写が美しい(4)。課題2の「com plex」は身体に分身を共生させる女性を描き、スタイリッシュな演出と編集でまとめた完成度の高い作品である(5)。課題2の「Die A Logue」は対話から対話の死(Die A Logue)に向けた愛と執着の物語を、手話やリボンといった象徴的な記号で表現する(6)。課題2の「color」は色がなくなった単調な世界に一つずつ色を取り戻していく話で、色彩の解釈と登場者のキャラクタライズが絶妙で楽しめる(7)。
 続いて、4大学国際ワークショップの作品から、課題の「Shelter」は震災時にバブル状に増殖するシェルターを提案し、アルゴリズミック・デザインによる動的CGを現実風景に挿入している(8)。課題の「Eulogy」はインターネットが遮断された近未来社会で、神保町が情報の隠れたマーケットになるという設定が興味深い(9)。「ROBOT Dystopia」は人間精神のexeファイルを喪失したロボットが見た、暗黒郷のような秋葉原の光景を圧倒的な表現力で描いた力作である(11)。課題の「The Barrier」は丸の内から皇居外苑に至る境界域に着眼し、人物の移動を追いながら環境変化をダイナミックに映像化している(11)。課題の「AI_アイ」は街に連れ出した人形がアクティベートされる過程を描き、material とimmaterialを包含した原型性のある説話構造を創出した(12)。「精霊とハーモニカ」は吉祥寺を舞台とし、主人公がスイッチを入れると光の精霊が街を漂い始める独創的な作品である(13)。
 本年度の学芸員専修コースの課題<映像として存在するミュージアム>の作品「アンモナイトが見た夢」は博物標本が見た夢という設定で、モノや現象の中に潜む「始と終」や「回転」や「循環」を綴った作品である(14)。「Musonar」は展示物のクローズアップ映像に、その標本の現場音を重ねることで感受の可能性を切り開いた(15)。続いて、本館の研究者から提供いただいた作品「サイロサ村 アルパカを捕らえる」は鶴見英成助教によるペルー調査時の動画で、眩い光のなかで投げ縄で捕える様子が力強く描写されている(16)。「熱帯に棲む生きた宝石たち」は矢後勝也助教の作品で、ハナカマキリなど昆虫の生態が望遠レンズを通して緑の中に浮かびあがる(17)。「The Evolution of Organogenesis in Mammals」は小薮大輔特任助教らの共同研究論文の発表動画で、哺乳類の器官形成の進化について系統図や動的図像でわかりやすく表現している(18)。  映像展示の構成としては、1階の展示室で建築都市や博物標本の図像を投影し、2階の展示室で各分野の動画を上映する。上映する作品数がきわめて多いので、全貌を把握しやすいように主要作品をピックアップした「セレクション上映」を頻繁に行う。また、ゲルの展示室では色彩パターンの投影「コロル」を、カヌーの展示室では水や流体イメージの投影「アクア」を行う予定である。その他、超小型プロジェクタ―によるウォーキング・イベントも実施する。
 このように大学博物館において映像の制作実践を行うのは、映像が世界の有用な記録手段であり、創造的な表現ツールだからである。映像によって、細分化する領域を俯瞰し、幅広い対象を自在に連携し、新しい発見と深い理解を得ることができると考えている。本展でその可能性の一端でも垣間見ることができれば幸いである。

小石川分館特別展示 IMAGINARIA 2 ―映像博物学の試写室
会場:東京大学総合研究博物館小石川分館(東京都文京区白山3-7-1)
会期:2017年3月16日(木)―3月19日(日)  会期中は休館なし
時間:10:00―19:30(入館は19:00まで)  入場料:無料
Slime Synthesizerパフォーマンス:3月16日(木)18:00- 佐々木有美+滝戸ドリタ
授業ライブ「映像デザイン実習」: 3月17日(金)16:00-19:30
対談「前衛のシネマトグラフィ」: 3月18日(土)16:00-17:30
 西野嘉章(東京大学総合研究博物館館長、教授)+松本文夫(同特任教授)
その他、主要作品のセレクション上映、プロジェクション・ウォークを実施します
ホームページ:http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2017IMAGINARIA2.html


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上映作品より 
1 Tokyo Mind(徐,2012)
2 少女Mの場合(井 上,2013)
3 ROUTINE(ヤン,2014)
4 the連鎖(寺島/長井 /中里/徐,2012)
5 com plex(寺田/原田/門脇/小林,2014)
6 Die A Logue(平居/陰山/小林/高木/加納,2015)
7 color(今田/組田/野間/太田,2016)
8 Shelter(Palomares /徐ほか,2012)
9 Eulogy(Wu/山口ほか,2013)
10 ROBOT Dystopia(Hopkins/長嶋ほか,2013)
11 The Barrier(Adibian /高原ほか,2015)
12 AI_アイ(Puenpong/平居ほか,2016)
13 精霊とハーモニカ(Chin-Shiong/香取ほか,2016) 14 アンモナイトが見た夢 
(藤原/支倉/小林/佐々木/山田渉/山田昭/永井,2016)
15 Musonar(同)
16 サイロサ村 アルハ゜カを捕らえる(鶴見,2010)
17 熱帯に棲む生きた宝石たち(矢後,2011)
18 The Evolution of Organogenesis in Mammals 
(小薮,2016)