東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime19Number3




学校対象教育実験プログラム「アカデミック・アドベンチャー」

寺田鮎美(本館インターメディアテク寄付研究部 門特任助教/文化政策・博物館論)
上野恵理子(本館インターメディアテク寄付研究部門特任研究員/建築・美術解剖学)

 JPタワー学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」では、2014年度より、学校行事や授業で当館を訪れる小・中学生を対象に、学校対象教育実験プログラム「アカデミック・アドベンチャー」を本格始動した。本プログラムは、インターメディアテクの実験精神に共鳴したボランティアの大学生が「インターメディエイト」(媒介者)として、動物、植物、宇宙、歴史、地理、音楽、美術など、東京大学の多岐分野に亘る教育研究に由来する展示を一緒に観察・鑑賞し、自由に対話を行うことで、子どもたちに創造的な学術探検(=アカデミック・アドベンチャー)の機会を提供するものである。
 アカデミック・アドベンチャーの導入にあたって、昨年度から1年間をかけ、枠組みを作り上げていく初期段階から実践リハーサルに至るまで、IMTボランティアの学生たちが主体的に準備に参加してきた。インターメディアテクは、日本郵便株式会社と東京大学総合研究博物館の協働運営による入館料無料のミュージアムであり、旧東京中央郵便局舎の2、3階部を改装し、東京大学が1877年の開学以来蓄積してきた学術標本や研究資料など、自然誌から文化誌まで様々な「学術文化財」を常設展示している。?見所の一つは、歴史的な遺産を現代の都市空間の中で再生させるデザイン技術であり、特別展示やイベントでは、最先端科学の研究成果や各種表現メディアの新たな創造を、常設展示の世界観と融合させながら、随時公開している。このようなインターメディアテクにふさわしい教育実験プログラムとはどのようにあるべきか、東京大学の学術文化財とインターメディアテクの展示空間をどのように活かすことができるかについての議論を重ね、子どもたちが自分の目でものを観察し、自分の頭で思考するという、インターメディアテクでしかできないミュージアム体験を生み出すプログラムづくりを目指してきた。
 アカデミック・アドベンチャーは事前申込制で月2回程度の開催を予定し、水曜日に特別観覧時間帯(通常開館時間前の約1時間程度)を設けている。利用人数は中学生のグループ行動や小学生のクラス単位での来館を見込み、1団体あたり約5−45名を想定している。人数に応じてグループに分かれ、アドベンチャーに出発する。アドベンチャーの進行役を務めるインターメディエイトは1回あたり平均3つの展示物を取り上げ、時には複数のインターメディエイトがリレー形式でアドベンチャーを構成する。各グループには学生ボランティアの中からサポート役がつき、児童・生徒が行う展示物の観察やその結果に関するディスカッションが円滑に進むよう、インターメディエイトを支えている。
 アカデミック・アドベンチャーの最大の特徴は、参加した子どもたちが自らの好奇心を拡げ、探究心を深めることができるよう、インターメディエイト役を務めるボランティア学生自らが、インターメディアテクの多種多様な展示物に刺激を受けた経験に基づき、内容を考えている点にある。例えば、世界最重量と言われる絶滅鳥エピオルニスと現生の鳥で最大のダチョウの骨格標本を比較し、足の太さや指の数から鳥の走行機能について考えるアドベンチャー、ドイツマルクのインフレ紙幣や赤瀬川原平の『零円札』からものの価値や貨幣システムを考えるアドベンチャー、山階鳥類研究所の鳥類剥製コレクションを観察し、自分の好きな標本を見つけ、なぜそれが好きだと思ったか、なぜその鳥がそのような色や形をしているかを考えるアドベンチャーなど、各自の考える内容は多様性に富む(図1、2、3)。それらは決して知識を子どもたちに一方的に与えようとするものではなく、ものの見方や考え方の入口を示したり、ミュージアムに足を運んで展示物を見ることの面白さを伝えることに主眼を置いている。実際に、アドベンチャーに参加した子どもたちが熱心に展示物を観察し、インターメディエイトの投げかけた質問に積極的に答える姿や、アドベンチャー終了後の自由見学時間に別のグループだった友人を誘って自分が見た展示物を見に行く姿が見受けられたことで、われわれの狙いが達成できている手応えを感じつつある。
 現在では、基本的に毎週水曜日午前中の時間を定期的にアドベンチャー内容準備の時間にあて、ボランティア同士で実際に展示物の前で練習を行い、ストーリー展開、観察の促し方、質問の仕方等も含め、われわれ教員も加わり、一緒に工夫を重ねている(図4)。本プログラムはまだ今年度立ち上がったばかりの発展途上にあるが、よりよい教育や学びのあり方を追求していくため、学校とミュージアムとの新たな協力関係を構築し、インターメディアテクを訪れる児童・生徒にとって本プログラムがさらに有意義な時間を過ごす一助となること、そして、ボランティア学生にとってミュージアム活動の実践経験の場として機能し、彼ら自身のよりいっそうの成長の機会となることを期待している。アカデミック・アドベンチャーがインターメディアテクの展示を通じて伝えようとする好奇心と探究心は、参加する児童・生徒にとっても、ボランティア学生自身にとっても、すべての学びにおける根源的な原動力となるに違いない。教える側と学ぶ側の一方通行ではなく、児童・生徒と大学生が双方向に刺激し合い、ともに成長していく複合教育プログラムとして、アカデミック・アドベンチャーを継続していきたいと考える。
 なお、これまでに本プログラムを利用いただいた学校は、相模原市立緑が丘中学校2年生5名(2014年6月3日)、文京区立湯島小学校6年生36名(7月9日)、同5年生40名(7月16日)、文京区立小日向台町小学校6年生38名(12月17日)となっているほか、今年度中に文京区立柳町小学校3年生にも参加いただく予定(2015年1月28日)である。上記学校関係者の皆様、大学連携として本プログラムを支援くださった文京区教育センター、インターメディアテクの協働事業者として本プログラムの運営面を支えてくださっている日本郵便株式会社及び事業部門、IMTボランティア・サポーターの吉川創太さん、そして今年度インターメディエイト及びサポート役として本プログラムに関わるIMTボランティアの垣中健志さん、阿部真子さん、鏡味瑞代さん、山本桃子さん、竹川風花さん、坂井景さん、太田哲也さん、中島智美さん、利根川薫さん、平井庄子さん、横山喜己さん、矢野香純さん、水野歩さんにこの場を借りて心より感謝申し上げたい。

アカデミック・アドベンチャーのウェブサイト
http://www.intermediatheque.jp/ja/academic-adventure/about

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図1 動物剥製展示ケースを観察し、ウサギの剥製と
その他の剥製との比較から草食動物の 目の付き方や
視野を考えるアドベンチャー(湯島小学校5年生の
アカデミック・アドベンチャーより).


図2 巨大昆虫標本コレクションを観察し、なぜその形
や色をしているのか、生物の多様性や生存戦略について
考えるアドベンチャー(湯島小学校5年生の
アカデミック・アドベンチャーより).


図3 特別展示『マリリンとアインシュタイン―神話的
イコンに捧げる讃歌』からマリリン・モンローの
ネックレスやエルヴィス・プレスリーのサイン入り
ポストカードといった展示物を取り上げ、スター
(偶像)とは何か、そのスター性が社会の中でどの
ように流布し強化されるのかという価値の問題について
考えるアドベンチャー(湯島小学校6年生の
アカデミック・アドベンチャーより).


図4 ボランティア同士の練習風景. マチカネワニ骨格
標本の見え方を様々な角度から確認し、子どもたちに
どのように観察を促すかを検討している.