東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime17Number3



特別寄稿
大学博物館における国際協働展示会の実践 ―IMTプレイベント2011-2012「台湾大学+東京大学 モバイルミュージアム」の展覧会シリーズを例として

林  怡君  (国立台湾大学博物館群幹事)

はじめに
 国立台湾大学図書館は台湾大学校史館の建設経営から博物館群の設置・統合まで、大学から全面的に委任され、多元的に運営を続けています。当館は李嗣学長の命を受け、2005年から台湾大学博物館群と協力し、博物館の発展推進事業をはじめ、当大学において各学部に分散した標本や博物館の統合を行ってきました。そして、2007年11月15日、当大学の学園祭に合わせ、正式に始動することとなりました。それから四年余り、大学の助力により独自の協力関係を結び、学内に分散していた各博物館の資源の統合を進め、全面的な展示スペースの改善や国民向けの一般公開の催しを推進しています。
 教育・研究のネットワーク及び国際交流を促進するため、2011年から台湾大学博物館群(以下は博物館群と略す)は、東京大学総合研究博物館(以下は東大博物館と略す)と「台湾大学+東京大学モバイルミュージアム」を共催してきました。本稿では、台湾大学と東京大学の交流活動・提携関係を例として、両校における国際協働展示会の実施経験及び博物館における展示活動を共催した経緯について述べます。

提携の契機
 博物館群と東大博物館の提携関係は、2007年博物館群の創設準備を始動した時に溯ります。当時、台湾大学図書館の副館長・林美光氏は同僚を率いて東大博物館を見学し、東大博物館の副館長・西野嘉章氏(現館長)の手厚い接遇を受けました。両氏は大学博物館の管理運営や未来の展望について話し合い、大きな成果をもたらすことになりました。この縁をもとに、博物館群は2008年「大学博物館と博物館群」というテーマについて国際シンポジウムを開催した際に、西野館長を招き、特別講演を行いました。それ以来、当大学と東京大学間における展示に関する提携関係の道が開かれたのです。
 互いに理解を深めながら、両校は2010年下旬に、実質的な提携について議論を始めました。長期に亘るコミュニケーションと準備を経て、博物館群と東大博物館は2011年5月に、モバイルミュージアム「人体測定法:人体・形態・運動」展を皮切りに、大学博物館の交流を正式に開始しました。初回の展覧会は台湾大学と東京大学の学術交流の新たな発足のみならず、両校による展覧会シリーズを開催していく足がかりとなりました。

協働展示の理念―革新的・知性的・エゴ的な展覧会
 両校が提携の方法について議論をしていたのは、ちょうど東大博物館が国内外に「モバイルミュージアム」という計画を推し進める時期に相当しました。理念を共有したうえで、博物館群は積極的にこの斬新な事業を台湾大学で実現する可能性を追求し、最初の協働展示を実現させました。「モバイルミュージアム」とは、数多くの標本や展示コンテンツを博物館の中にある展示スペースから持ち出し、広く社会一般の目に触れることができるように、学校、企業のオフィス、公共施設など、非伝統的な展示スペースで公開展示を行うものです。展示ユニットは一定の期間が過ぎると入替えを行い、次の場所に移されます(西野嘉章、2008)。例えば「人体測定法」という展覧会では、展示コンテンツは2010年10月に東大博物館小石川分館に展示された後(図1)、2011年5月にコンパクト・パッケージ化し、台大図書館(図2)に移され、新たな空間演出のもとに展示が行われました。この展示の終了後には、フランスのリヨン服飾美術館(図3)に移され、最後はまた日本に戻り、斬新な形で展示される予定になっています。この例はまさに「モバイルミュージアム」のコンセプトに従って、一回性の企画を数回にローテーション化させた遊動型展覧会の模範とも言えるのではないでしょうか。さらに、「モバイルミュージアム」は展示が遊動していくうちに、展示場所に合わせて展示コンテンツも徐々に増えていきます。
 経費については、「コストを最小化、効果を最大化」という理念に基づき、最低限の予算で毎回の展示企画を立てることが基本になっています。各展覧会で設計・制作されたすべての展示マテリアルは「組み換え」や「再利用」できる特性を備えており、ゆえに、同じ素材であっても、違う形で組み直すと、まったく新しい意味やパフォーマンスを呈するようになります。この組み直しの過程を通して、展覧会経費を節約できるのみならず、展示コンテンツや展示そのものへの「新鮮味」も兼ね備えることができます。例えば、当館における三回のシリーズ展覧会は、同じ白いL字型の壁を継続して使用してきました。その白い壁に出力プリントを貼ることで、壁の色を変えることもできます。また、少ない予算を前提として、全く違うビジュアル体験を創造することもできます。さらに、現存の展示台の位置を巧みに変えると、多種の展示方法を生みだすことも可能です。

協働展示の実践―「台湾大学+東京大学モバイルミュージアム」における展覧会シリーズ
 「モバイルミュージアム」は既存の展示空間に限らず、あらゆる公共空間で展示することができます。異質な空間を融合した上で、多元性や無限なる可能性を創出・追求するため、展示場所については、当大学図書館の一階に位置するアトリウムが「モバイルミュージアム」協働展示の会場として選ばれました。当館一階にある吹き抜けのアトリウムは開放的でありながら、館内の内部空間の中心でもあります。そして、当館の入口とキャンパスの中心に当たる椰林大道の端に面する立地的な優位性を有しています。9メートル近く吹き抜けた室内空間は、観覧者が全貌を鳥瞰できる趣味的要素を強調したのみならず(図4)、東大博物館によるプロフェッショナルなデザインワークにより、図書館ならではの読書の雰囲気と博物館の美学とを完璧に調和させ、大学図書館の空間を斬新かつ上質なものに創り上げました。一方、展示会場の工事については、作業期間中であっても図書館としての特殊で静かな読書環境を保ち、利用者を騒音から遠ざけるため、夜間作業を行いました。また、展示コンテンツと作業の安全を確保するために、展示スペースの周囲に仮囲いを設けました。そのほか、図書館利用規程による撮影禁止や入館の年齢制限などの規則も、展示の観覧に適応するように改変をしました。
 今回の国際協働展示による「モバイルミュージアム」の展覧会シリーズについて、両大学の作業チームは良好なコミュニケーションを取り合い、相互の信頼に基づき、緊密な関係をもち、展示会場の設計や工事、関連出版物の制作など、作業の分担やその他細部に至るまで助け合い、完璧を求めました。初回の展示「人体測定法(アントロポメトリア)」(2011年5月16日-8月14日)は十九世紀の数理模型と二十一世紀のファッションデザインを通して、「アート&サイエンス」という異分野の結合を具現化し、観覧者に新たな視点で物事を体験させることで、多くの共感を喚起しました。続いて第二回目で展示した「形與力――型態的多様性」(2011年11月23日-2012年3月18日)は、博物館群の一部の所蔵品を展示コンテンツとして東大博物館の所蔵品と組合せ、展示を行いました。観覧者に対し、日常生活における「形」の豊富な様相を提示しながらも、自然の「形」と人工の「形」との間に存在する微妙な共通性をも示しています。そして、第三回展示「逸脱美考――規格外規範外規則外」(2012年5月17日-9月23日)では、さらに動物博物館、植物標本館、昆虫標本室、地質標本館及び海洋研究所により博物館群の所蔵品を前回以上に多く加え、展示コンテンツとして展示し、展示内容は昆虫、動物、植物、鉱物、医学及び文化史など多方面の様相を含めることになりました。この展覧会では、規格、規範、規則を逸脱する珍品を通して、観覧者に驚きや感動、最も原始的な好奇心を喚起し、知識を追求・探究する力の源となることを目指しました(図5)。この三回にわたる協働展示は、多くの台湾及び日本メディアに取材・報道されたのみならず、当大学の教員、学生に加え、一般の観覧者や団体も絶え間なく来場する姿が見られました。多数の観覧者は展覧会に対する肯定的な態度を会場に置かれたメッセージノートに綴っていました。入館人数の統計については、一回目の「人体測定法」は276,511人、二回目の「形與力」は389,616人、三回目の「逸脱美考」は8月中旬までに26万人に達しています。

結びに
 国立台湾大学の前身は日本統治時代における1928年に設立された台北帝国大学であります。八十余年にも及ぶ長い大学の歴史のなかで、人類や動物、植物、物理、昆虫、地質、医学など、総計三百万点以上の貴重な所蔵品は「台大博物館群典蔵」の礎石を築いてきました。一方、1877年設立の東京大学には六百万点以上の学術標本が蓄積されていますが、1996年に総合研究資料館の改組拡充により成立した「東京大学総合研究博物館」はそのうちの三百万点以上の学術標本を収蔵しています(西野嘉章、2008)。両大学は発展史の類似性により、台日の大学博物館の交流を促進してきました。また、豊富な所蔵品や異分野の研究者を同じく有するという共通点は、両校の協働展示にとって良い土台となりました。
 大学博物館は学術的に貴重な標本を収蔵するだけではなく、人類の視野を拡げ、新しい思潮や観念を刺激する霊的な空間であるべき場所でもあります。今回の「台湾大学+東京大学モバイルミュージアム」シリーズ展は実験的な性質の企画であり、異分野融合の創造性や先端的想像力をも備えています。この「モバイルミュージアム」の協働展示を通して、両校における歴史的で、多元的かつ豊富な学術標本を社会一般に公開しながらも、これを機会に大学の学術研究の成果を社会に還元し、大学博物館の所蔵品や学術資源を共有していくことにつながりました。協同作業や提携関係を継続するうちに、博物館群側はこの協働展示の企画に回を重ねて参加していくにつれ、様々な貴重な経験を吸収し、成長しました。博物館群と東大博物館の交流と提携関係を通じ、台湾大学と東京大学の緊密な学術交流を継続するとともに、今後はこれを各国の他の大学博物館との提携の契機とし、大学博物館の発展的経験となる交流を行っていきたいと考えています。このように、新たな里程標を見届けることを、心から望んでいます。
 今回は短い一年間に東大博物館との協力のもと、協働展示として「モバイルミュージアム」を三回も実現することができました。我々にとって、それはこの上ない喜びであり、光栄の至りでもあります。この実験的な企画シリーズが成功できたのは、もてる限りの力を尽くした両校のスタッフのおかげです。特に東大博物館の西野嘉章館長及び西野館長が率いたプロフェッショナル・チームに、展示の企画や設計をはじめ、多大なる援助をいただきました。この場を借りて心から深く感謝いたします。

参考文献
西野嘉章(2008)、「東京大學總合研究博物館的十年─從數位博物館到行動博物館」『大學博物館與博物館群國際學術研討會論文集』臺北市:臺大博物館群、pp.2-21 林光美、西野嘉章(2012)、「逸脱美考─規格外規範外規則外」臺北市:臺大博物館群。




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図1 東京大学小石川分館にて初めて展示された第一回
「人体測量法」/東京大学総合研究博物館提供


図2 台湾大学図書館にて展示された第二回
「人体測量法」/台大博物館群提供


図3 フランス・リヨン服飾美術館にて展示された第三回
「人体測量法」/東京大学総合研究博物館提供


図4 台大+東大モバイルミューシアム協働展示「形與力」
の全景俯瞰/東京大学総合研究博物館提供


図5 台大+東大モバイルミューシアム協働展示
「逸脱美考」/台大博物館群提供