東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
HOME ENGLISH SITE MAP
ウロボロス開館10周年記念号

標本目録の出版

佐々木 猛智 (本館助手/動物分類学)

大学博物館にとって標本収集は欠かせない。博物館は、実物をもって研究を行ない、学問の成果を実証するための証拠標本を蓄積する。集めた標本は、あらゆる目的の学術研究に利用できるよう、体系的な分類・整理と登録が必要である。これらの作業が完成したのち、標本を用いた研究が可能になる。
東京大学では大学の発足以来、想像もつかないほどの数の標本が生産され、それらは総合研究博物館に集められてきた。その数は300 万点以上といわれているが、正確な数は誰にも分からない。それぞれの資料室では標本を整理・登録し、目録を作成している。しかし、未整理標本の数も膨大である。新たな標本の収集、標本整理、研究、研究成果の公開、これらが一体となり、終わりのない作業が続く。
その一連の作業のひとつとして目録作りがある。東京大学総合研究博物館では、収蔵標本目録を「標本資料報告 MaterialReports」として出版してきた。第1号は、「東京大学学内標本資料の概要(1976)」である。以来、これまでに66冊が出版されており、特に資料館から博物館に改組された1996 年以降に出版されたものが多い。資料報告には定まった体裁はなく、文化史系、地学系、生物系を含む様々な分野の目録が作成されている。
文化史系は考古学、人類学、建築史に関する資料が多い。特に海外調査によってもたらされた資料の目録が充実している。西アジア考古資料(No. 6, 12, 28, 31,38, 51)、南アメリカ大陸先史美術工芸品(No. 27)、モンゴロイド系民族の映像記録(No. 30)などがその例である。当然国内の資料も豊富であり、縄文時代土偶・土製品(No. 25)など人類・考古学の目録、建築史の関野貞コレクションのフィールドカード(No. 53)の目録が作られている。最近では、大規模な個人コレクションの寄贈を受け、その内容が目録化されている。医家三宅一族旧蔵コレクション(No. 58, 59)は写真図版付きの大作である。
地学系では、鉱物、岩石、地理、古生物の目録が出版されている。鉱物学・岩石学の関係では、鉱物標本目録(No. 4,35, 40, 42, 43)、岩石標本(No. 17)、鉱石標本目録(No. 39, 55)、クランツ鉱物標本(No. 56)、平林鉱山資料目録(No.57)、渡邉武男収集被爆関連資料(No.60)などカタログの作成が続いている。生物系と関連のある植物化石薄片(No.49)、クランツ化石標本(No. 50)、あるいは地理学の地図目録(No. 8, 23, 29, 33)も興味深い資料である。古生物資料室は国内最大のタイプ標本のコレクションを誇っており、古生物登録標本(No. 2, 9,15, 33)、白亜紀アンモナイト標本(No.37)の目録が出版されている。
生物系は、植物、動物、人類、薬学関係の資料報告がある。植物資料室は最大の標本を所蔵しており、目録の点数も多い。これまでに、植物タイプ標本(No.5, 7, 16, 22, 26, 36, 41, 44, 45, 48I, 48II)、ネパール産種子植物リスト(No. 32)、植物化石(No. 10)、藻類タイプ標本(No.24)が出版されており、特にタイプ標本の図版付きのカタログは重要である。
動物学分野では、魚類標本(No. 14)、無脊椎動物 (No. 62)、須田昆虫コレクション(No. 65)のリストがある。全分類群はまだカバーされていないが、今後カタログ化が行なわれる予定である。人類関係は多方面にわたる目録が充実しており、日本縄文時代人骨(No. 2)、犬科動物資料(No. 13)、鳥居龍蔵博士撮影写真資料(No. 18, 19, 20, 21)、ミクロネシア古写真(No. 34)、歯牙石膏印象コレクション(No. 46)、日本人頭骨計測データ(No. 47)、縄文時代の人骨データベース3 冊(No. 52, 54, 61)の目録が出版されている。特に最近の縄文人骨の目録は、標本の情報だけでなく、収蔵状態を示す写真、標本全体の写真も添付されており、きわめて分かりやすい。薬学系では、歴史的に貴重な標本を含む生薬標本リスト(No. 11)が出版されている。
21世紀になり、標本カタログはデジタル化が重要になった。デジタル化の重要な機能は検索とデジタル画像の公開である。したがって、最近では多くの目録が出版と当時にデータベースがインターネット上に公開されている。鉱物、地理、古生物、植物、動物、人類先史、美術史、考古学の分野はすでにデータベースを公開している。
一方で、インターネット時代になっても、標本目録の出版の重要性は失われていない。膨大な標本カタログをすべてプリントアウトすることは非効率である上に、写真付きの情報は印刷物の方が質が高い。さらに、50 年や100 年、あるいはそれ以上という長期間にわたって情報を保存するためには、紙に残しておくことも必要であろう。デジタル情報は瞬時にコピーできるという利点があるが、消失する時も一瞬である。
標本目録は、博物館の標本収集の歴史と成果を表す出版物である。今後も標本は増え続け、標本目録が作成される。いずれは、標本の目録だけではなく、「標本目録の目録」の出版が必要になるであろう。
なお、これまでに刊行された標本目録リストは、巻末補遺をご覧いただきたい。

ウロボロス開館10周年記念号のトップページへ


資料報告の表紙の例