オープンラボ展のシンボルマーク
ラボスペースから様々なアウトプットが創造される
グッゲンハイム美術館(ビルバオ)、F.O..ゲーリー設計
模型:横塚和則(アールイコール)
アルテスムゼウム (K.F.シンケル設計、模型:鈴木岳彦)
横須賀美術館 (山本理顕設計、模型:住友恵理)
会場写真
ミュージアムに収蔵される資料の大半は「本物」であるが、「模型」も少なからず存在している。逸失損壊に伴う再現、現物保護のための複製、尺度変換による再提示といった目的で制作される模型は、何らかの実在物を前提としている。これらの模型では形態・質感・色彩の近似が追求され、リアルな再現性が志向される。一方で逆に、必ずしも実在物を前提としない模型もある。現象/概念の視覚化、実在せざるモノの祖型として現前する模型である。アートやデザインの分野では、模型制作そのものが創造過程の中核を形成する。
ヴァルター・ベンヤミンは、『複製技術時代の芸術』の中で芸術作品の「アウラ」について論じている。崇高な一回きりのオリジナル作品にはアウラがやどり、複製技術による生産物からはアウラが喪失すると。本物がもつ礼拝的価値のかわりに複製物の展示的価値が増大することを指摘している。実際に複製技術は進歩し、3次元プリンタの立体模型によって複製が容易にできる時代になった。しかし、ミュージアムにおける模型の存在意義は、単に「複製再現」だけではなくむしろ「創造再生」にあると考えたい。あえて言えば、アウラを逆注入するプロセスである。
忠実な複製再現を達成することは、本物の劣化に直面するミュージアムにとって現実的な要請である。しかし形態模倣を技術的に志向するだけでは、資料がもつポテンシャルを人間が感受することは難しい。そこに学習創造のプロセスを介在させ、人間を通して構造解明的に再生し、その知見を次世代の創造に生かすことが必要である。すなわち過去の再生と未来の創造が共存するような「創造再生」の現場をつくることがミュージアムの本来の役割ではないか。概念と実在をつなぐ「模型」は、そのための重要なメディアである。
このように考えるに至ったのは、当博物館で開催される『UMUTオープンラボ ――建築模型の博物都市』展(2008年7月26日〜12月19日)で、東京大学の学生たちと多数の建築模型を制作してきたからである。模型制作を通して建築を理解するという能動的プロセスは、今回の企画構想の中心をなしている。制作された模型は単なる複製ではなく、建築探求の成果として再創造された作品である。学生たちは、既存の建築作品の制作と同時に、自分自身の提案作品の制作も求められている。オープンラボは、「模型」という媒体を介した創造再生のリアルな現場である。 (文部科学教育通信2008年7月号所収)
松本文夫 (本館特任准教授、建築・情報デザイン)