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東京大学総合研究博物館は、1877年の創学以来蓄積されてきた、総数にして600万点を超える「学術標本=モノ」を活動の基軸に据えています。すなわち、大学に付設された教育研究機関として世界的水準の学術研究を追求展開するとともに、学術標本の保存、管理、活用を図るミュージアムとして高度で独創性に富む活動を推進することを目標としています。このような大学博物館の実験的精神から、当館では「アート&サイエンス」をテーマのひとつに掲げ、これまでにも両世界を架橋するさまざまな展覧会や、ファッションショー、演劇などのイベントに意欲的に取り組んでまいりました。2009年4月には「インターメディアテク(IMT)寄附研究部門」を発足し、21世紀における新たなミュージアム像となる「国際的な学術・文化の総合ミュージアム」の具現化に向けた研究への取り組みを進めております。
このたびはその一環として、特別展示『ファンタスマ――ケイト・ロードの標本室』を小石川分館にて開催する運びとなりました。本展は、丸の内地区に2012年オープン予定の総合文化施設「インターメディアテク(IMT)」のプレイベントとして位置づけられています。本展の会場となる小石川分館は、1970年に国の重要文化財に指定された東京大学現存最古の学校建築です。1876年に東京医学校の中心建築として本郷に建てられ、後に小石川植物園内に移築再建したものを、現在では博物館施設として活用しています。この擬洋風木造二階建ての歴史的建築の内部に展開される常設展示は、東京大学に蓄積された歴史的な学術標本を用いて、ミュージアムの原点とも言うべき「驚異の部屋」の世界を現代に構築してみせています。「驚異の部屋」とは、大航海時代の西欧諸国において、王侯貴族や学者たちが不思議や驚異という感覚のままに、分野を隔てることなくさまざまな珍品器物を蒐集したコレクション陳列室のことを言います。
本展は、オーストラリアの現代美術家、ケイト・ロードの作品を小石川分館の「驚異の部屋」に招き入れ、ロードの標本室をその中に出現させることにより、常設展示とは異なる位相の新たな「驚異の部屋」的世界観を提示しようとするものです。
In April 2009, the University Museum, The University of Tokyo (UMUT) launched the Intermediatheque (IMT) Department in order to pursue its research activity in the perspective of creating an “International Multidisciplinary Museum of Science and Culture.” In this context, the UMUT is holding the special exhibition Fantasma: Kate Rohde's Chamber of Specimen, as a pre-event for the opening in autumn 2012 of the Intermediatheque (IMT) in the Marunouchi district, in front of Tokyo station.
The Koishikawa Annex, a historical building designated an Important Cultural Property, displays scientific specimens accumulated since the establishment of the University of Tokyo in the form of a contemporary Wunderkammer, which can be considered as the point of departure of modern museums.The word Wunderkammer refers to the cabinets holding the collections of rare objects built in Western Europe during the Age of Exploration by aristocrats and scholars, according to their sensibility to strangeness and wonder, and regardless of classification.
ロードは、色鮮やかなフェイクファーやアクリル樹脂などの人工的素材を組み合わせ、動植物をモチーフとした彫刻作品や、バロックやロココ調の部屋やジオラマを思い起こさせるインスタレーションを制作する若手作家です。近世の王侯貴族たちの珍品陳列室では、ドラゴンや人魚、ユニコーンの角といった架空の動物もその一部を飾っていたように、彼女が表現する「フェイク」の動物や自然物、そして空間は「驚異の部屋」本来のあり方を今に感じさせるにふさわしい創造的で魅力的な要素となります。明治期に旺盛した擬洋風建築である小石川分館の空間内に、当館が所蔵する学術標本で構成された現代版「驚異の部屋」とロードがそれに着想を得て制作したサイトスペシフィックな新作の数々を織り混ぜたインスタレーションを展開させます。「まぼろし」「幻影」を意味する「ファンタスマ」をタイトルに掲げた本展覧会は、過去と現在、学術と芸術、実在と架空という既存の領域を横断した重層的な未知の世界へとわれわれを誘い、人々の驚きや好奇心を喚起する斬新な取り組みとなることが期待されます。
なお、本展では大学博物館における教育活動として、博物館工学ゼミの学生が準備段階から展覧会づくりに参加しています。ロードが本展覧会のために制作した新作の着想源となる収蔵品リサーチ作業、夏季に当館で行われたロードの滞在制作協力、展覧会の広報計画、展示設営、ワークショップの企画運営と、随所に学生たちの積極的な貢献が見られます。小石川分館学生ヴォランティアは、ゼミの学生とともに、会期中に展示ガイドとしてご来場いただいた皆様にお目にかかります。大学博物館が果たすこのような実践的な教育の場としての役割を、展覧会という成果物を通して広く社会に発信できますことは、当館が本展覧会を取り行うことの大きな意義であり、主催者として喜ばしく思います。
東京大学総合研究博物館
For the present exhibition, we welcome within the Koishikawa Annex premises the artworks made of “fake” animals, plants and minerals by Australian contemporary artist Kate Rohde. In creating Rohde’s own Chamber of Specimen, we aim at presenting a new worldview inspired by the Wunderkammer, that is distinct from the permanent exhibition. As can be expected from the title Fantasma which is derived from phantom, we hope that the present exhibition will appeal to visitors’ wonder and curiosity, and attract them to an unknown and multi-layered world, crossing over the established realms of past and present, art and science, real and fake.
The Organizer
The University Museum, The University of Tokyo