東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
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はじめに
宮本 英昭

 血を連想させる不気味な赤色の星,火星.災いの星,争いを招く星などと古来より言われてきたこの星を,人類は現在,革命的とも呼べる猛烈な勢いで調査しています.この背景には,科学から生まれた空想がありました.空想が探査を駆動し,そして探査から驚くべき発見がもたらされてきたのです.この皮肉とさえ言ってもよい構図の面白さが,この展示会の副題を「ウソカラデタマコト」とした理由の一つです.
 この展示会では,とくにここ数年の間に火星で取得された画像が数多く展示してあります.航空写真のような画像は,数十cmの岩をも判別できるほど高い解像度で撮像された地表の写真です.幾何学的であったり,荒々しかったり,どこかで見たような不思議な風景が広がっています.砂漠のような美しいパノラマ画像もあります.これは火星の表面に降り立った探査車が,緻密な地質調査を行った際に撮影したものです.異星のロマンを感じるには,何の説明も必要ありません,迫力ある画像を心ゆくまでお楽しみ下さい.
 いっぽう科学者にとっては,火星は遠いロマンの星ではありません.最もよく調査された地球外天体です.生命誕生の鍵を握る,最も興味深い天体でもあります.それでは研究者らが進めている火星科学の最前線とは,いったいどのようなものでしょうか?これを如実に示すのが,今後の探査計画に関連した議論です.ここでは,MELOSと呼ばれるまだ検討中の火星探査計画を,素案のまま展示することにしました.繰り広げられる斬新なアイディアや主張と共に,研究者らの熱い思いを感じていただければ幸いです.
 さて今回の展示会では,来館者の方々にご意見を伺うコーナーを設けることにしました.と申しますのも,ここで展示されている探査計画はまだ確定的なものではなく,議論を通じて適宜修正すべきだと考えているからです.皆様の忌憚ないご意見を是非お寄せください.いただいたご意見やご質問は,展示企画や探査 計画の関係者で拝見し,一部は会場の掲示板やオンライン上のサービスを通じてご紹介・ご返答させていただきます.このような形でご来館された方々と研究者らが結びつけば,きっと議論が深まって行くに違いありません.いやそれどころか,ひょっとすると探査計画の形そのものも大きく変わるかもしれません.
 いまはまだ,展示会を通じてどのような議論が巻き起こるのかわかりませんが,ご来館された方々は火星探査を立案する,まさにその現場に立ち会うことになるのです.

(本館准教授、固体惑星科学)




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