東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
HOME ENGLISH SITE MAP


小笠原の固有種・オガサワラシジミ


温暖化とソテツ植栽で北上するクロマダラソテツシジミ


オナシカラスアゲハ


テングアゲハ


アカアシオオアオカミキリ


ルリイトトンボ


五十嵐邁氏が描いた原図


カブトムシ雌雄型


名和靖氏由来のギフチョウ(箕作コレクション)

昆虫標本の世界―採集から収蔵、多様性保全まで       

矢後 勝也

 東京大学総合研究博物館には、1940年代から収集された昆虫全般を網羅する須田孫七コレクション、世界のチョウ類を結集した五十嵐邁コレクション、珍しい昆虫類を集めた江田茂コレクション、明治期に活躍した名和靖、高千穂宣麿、中川久和、箕作佳吉由来の歴史的コレクションなどをはじめとする、多様かつ貴重な昆虫標本が収蔵されている。その標本数は20万点を優に超え、国内でも有数の保有量を誇る。このような多数の昆虫標本をなぜ収集する必要があるのか? 学術的にどのような意味を持つのか? という疑問を持つ方も少なくないだろう。実は、多くの昆虫標本から過去の昆虫相の変遷を調査することで、近年に見られる生態系破壊や地球温暖化、外来種問題など、あらゆる環境変化を直接的にうかがい知ることもできるのである。
 今回のメイン展示では、あえて普段あまり目につかない小さな昆虫類に焦点を当てた。当館所蔵の小さいながらも、圧倒的な情報量を保持する多くの昆虫標本から繰り広げられるその迫力を存分に伝えるとともに、採集から標本作成、収蔵、さらには研究成果に至るまでの一連の作業を紹介する。展示タイトルには、「採集と保全」という一見相反するキーワードを込めた。これには採集で得られた学術標本という“実物”の存在が、人類存続のために欠かせない生物多様性保全に関する基礎となるとともに、環境問題を浮き彫りにする何よりの証拠となるためである。
 ちょうど2010年は、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開催され、国連でも「生物多様性年」と定めた節目の年である。この展示を通して、生物多様性という言葉の意味を広め、“昆虫標本=実物”という根拠に基づいたマクロ研究の成果を発信することにより、学術標本の持つ意味や生物多様性保全の必要性を提示し、環境保全の推進だけでなく地球温暖化や環境変動のような社会問題にも貢献しうることを期待したい。

(本館特任研究員、昆虫体系学、保全生物学)

実施期間:2010年7月24月?10月30日
後援:環境省・関東地方環境事務所、東レ(株)
協力機関:国立科学博物館、大阪府立大学、神奈川県立生命の星・地球博物館、
日本チョウ類保全協会

企画・担当:矢後勝也
展示デザイン:関岡裕之
協力:須田真一、須田孫七、五十嵐昌子、江田悦子、植村和彦、桶田太一、桝田皐士郎




「昆虫標本の世界―採集から収蔵、多様性保全まで」展のトップページへ