東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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南太平洋80s―文化再生産の現場








西秋良宏教授(左)と小田静夫氏
共同制作展示
『南太平洋80s−文化再生産の現場』展西秋良宏


総合研究博物館2階展示室で、小田静夫氏旧蔵の南太平洋考古民族コレクションの公開が始まった。東京都教育庁の元学芸員小田氏が1980年代末にミクロネシアやポリネシアなど南太平洋各地で収集した標本群である。実は、このコレクションは2002年の新規収蔵品展『モノは私のフィールドノート』で公開されたものと全く同じ資料である(西秋良宏、『ウロボロス』第7巻4号)。なぜ、同じ資料を二度も展示するのか。同じ材料であっても料理の仕方が違えば展示の魅力も変わるはずである。標本の見方や見せ方の多様性を追求してみようという展示実験なのである。最初の展示と同様、今回の展示も本館が平成5年以来、続けている全国学芸員らを対象とした専門的リカレント教育、「学芸員専修コース」の課題として制作した。

前回の展示では小田氏がすすめた独特な標本収集法に焦点をあてた。すなわち、学術調査において、興味深いモノに接したら実物を入手する、それが無理なら似たモノを作ってもらう、それもできなければ類似の民芸品や土産物を買い求める、といった徹底的な収集法である(小田静夫、『ウロボロス』第7巻3号)。記録用フィールドノートの代替物としてのモノの価値を提示しようとした展示であった。

今回は、小田氏が標本を集めたのが1980年代末という一時期であること、したがって、それらはその時点の南太平洋社会を読み解くための学術標本になりうるという観点から展示を組み立てた。地表で採集された考古資料、バザールで買い集めた民具や民芸品、土産物などをいずれも同時代資料としてとらえ、それをもって伝統工芸の継承、変化、過去を売り物にした観光産業など1980年代末に南太平洋で生まれつつあった新文化を考察してみようというのである。いわば、このコレクションに考古、歴史民族学というよりは社会学的な資料としての価値を見いだそうという試みである。

2日間の専門講義の後、展示趣旨の策定、会場設計、施工などを3日間でこなし、制作期間総計5日間で今回の展示はできあがった。総合研究博物館スタッフが制作指導に加わったとはいえ、受講者たちの大半は初対面であり、展示作品群は初見であった。そんな無茶な企画がありうるのか、と思われるかも知れないが、まずは展示をご覧いただきたい。そして、ご講評いただきたい。企画の目的は、展示を制作することではなく、その過程、また事後評価を検討して、独創的な展示のあり方について考察することにある。来館者からのご講評を考察の材料にさせていただければさいわいである。
(本館教授、先史考古学)


平成21年度学芸員専修コース
(コース概要
展示課題: 小田静夫コレクション(南太平洋各地で収集された考古民族標本約350点)
制作期間: 平成21年11月9日(月)−11月13日(金)
企画進行: 西秋良宏(東京大学総合研究博物館)
制作指導: 松本文夫(同)・関岡裕之(同)・中坪啓人(同)
制作参加者:
三友晶子(東京家政大学博物館)・増崎勝仁(流山市立博物館)・高坂 洋(関東ゼネラルサービス株式会社)・宮川謙一(財団法人東京富士美術館)・佐藤大樹(日本銀行金融研究所貨幣博物館)・杉浦秀典(賀川豊彦記念・松沢資料館)・上野恵理子(東京大学総合研究博物館小石川分館)・黒木真理(東京大学総合研究博物館)・門脇誠二(同)・鶴見英成(同)・矢後勝也(同)・藤原慎一(同)
制作協力: 松原始(同)
写真撮影: 松本文夫(同)





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