東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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『異星の踏査―「アポロ」から「はやぶさ」へ』展について宮本英昭

 東京大学総合研究博物館では、東京大学創立130周年記念事業の一部として、標記の展示会を開催致します。月や惑星などの最新の探査データや、惑星科学の最先端を一般に公開することが目的です。人類がこれまでに直接標本を手にした天体は、月とビルト第二彗星の2つしかありません。今回の展示では、この2つの天体の標本が世界で初めて同時に公開されます。月の標本はアポロ計画で宇宙飛行士が持ち帰った月の石で、JAXAの月探査衛星「かぐや」の探査データが取得される時期にあわせて公開できる運びとなりました。ビルト第二彗星の標本は、NASAのスターダスト計画によって昨年取得されたもので、日本初公開となります。これらをNASAやJAXAなど各国の宇宙機関が取得した圧倒的な量の画像データと共に展示致します。惑星探査に実際に係わりながら研究を行っている研究者らが、太陽系について人類が得た研究成果の最前線を紹介します。

 私たちが研究を行っている惑星科学という分野は、太陽系における天体の様子や生い立ちを調べることで、なぜ私たちは地球に住んでいるのか、という根本的な問いに答えようとする学問です。惑星や衛星というと、地球と全く異なる異世界という印象をもたれるかもしれません。たとえば地面から硫黄が噴き出し、メタンや硫酸の雨が降るなどと聞くと、地球とは似ても似つかないように思われるでしょう。しかしその硫黄が成層火山を作り、メタンの雨が地球とそっくりの水系地形を作るなど、見方によっては地球と良く似た特徴を兼ね備えている場合が多いのです。そのため各天体の様子を博物学的に調べることは、地球という天体そのものを、多角的な視点から理解することにつながると期待できるのです。
  私たちは、こうした惑星科学に関する最先端の成果を世に示すために、本展示企画:『異星の踏査―「アポロ」から「はやぶさ」へ』展を企画しました。私たちが目指したこと、それは本物の科学に内在する圧倒的な現実感(リアリティ)の体現です。例えば膨大な量の探査データや、信じられないほどの高解像度画像を、そのまま加工せずに提示すること。これは「人類がこれまでに得たデータ量はCDにして100万枚以上です」、などと説明するよりも、遙かにリアリティを持つのではないでしょうか。また人類が月に行き、さらに無人探査機が彗星の標本を取得しているということを最も端的に示すために、それぞれ本物の標本を展示しました。アポロ宇宙飛行士が持ち帰った月の石と、スターダスト探査機が獲得した彗星の塵が同時に展示されるのは、初めてのことだそうです。
  ところで宇宙や惑星という言葉から「軍事基地に冷凍された宇宙人」とか、「宇宙開発にまつわる陰謀」などの噂話を思い出す方が、意外と多いようです。確かにこのような噂話は取っ付き易く、わくわくする気持ちも理解できないわけではありません。一見すると科学的な体裁を纏っていることから、科学の一部と誤解されている場合が多いそうです。しかしこうした創作話を追及すると、リアリティが無い事に気付かれるでしょう。底の浅さと根拠の曖昧さに失望してしまうかもしれません。
  私たちが今回の展示で伝えたかったもう一つのこと。それは科学者達が、こういった話と同じくらいわくわくさせられて、しかし遙かにリアリティに富んだ、謎に満ちたテーマに囲まれている、ということです。火星から来た隕石に生命体らしき痕跡が見つかったこと、地球から何十億キロも離れた天体に巨大な温泉が発見されたこと、彗星の尾に飛び込んだ探査機が、太陽系が形成された頃の様子を解き明かしていること。こうした内容を理解するには、美しい天体の画像を眺めるだけでなく、本格的な科学的推察が必要です。そこで本展示にあわせて、読み応えたっぷりの図録をご用意しました。惑星表層科学分野において最先端の科学は何を探求しているのか、科学的議論を正面から示し、読者の知的好奇心を刺激しようとしています。決して平易な文章ではありませんが、世界中の研究者が人生を賭して取り組んでいる謎が、どれほど真実の迫力と知的手ごたえを具備しているか、図録とともに体感して頂ければ幸いです。

(本館准教授 固体惑星科学)









展示デザインのスケッチ (本館客員教授: 洪恒夫)


会場模型写真

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