東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
東京大学 The University of Tokyo
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私たちの住む世界、宇宙は灼熱の火の玉、ビッグバンから始まったと考えられている。なぜ構造もない火の玉が137億年の宇宙誌の中で、私たち自身も含む多様な構造物へと進化するのだろうか? この世界は、相対論、量子論という物理学の基本法則を縦糸とし、偶然性が結果を大きく左右する数理法則を横糸として織りなされてきたのである。多様で豊かな世界が現実し、私たち人間もその中の一員として生きているのである。この展示では、アインシュタインを通じてこの世界を変化・運動させている3つの物理学の法則を示そう。
本学大学院生による「時空のデザイン」展の展示解説

コンテンツ構成のスケッチ: 洪恒夫


写真=奥村浩司(すべて)

特別展「時空のデザイン」の企画田賀井篤平

 今回の特別展示「時空のデザイン」展は、当初の仮題が「アインシュタイン」展であった。スイス・チューリヒの特許庁の一役人であったアインシュタインは、1905年にAnalen der Physikに論文を次々と発表し、これまでの物理学に革命をもたらした。そして、1905年は「奇跡の年」と称されるようになった。「奇跡の年」から100年後である2005年は、世界物理年として世界中でアインシュタインに因んだ展示やシンポジウムが開催された。ドイツにおいても2005年夏にベルリンで「宇宙のエンジニア・アインシュタイン」と銘打った展示がマックスプランク研究所を中心に開催された。また2005・2006年が日本におけるドイツ年であることから、日本でも「アインシュタイン」展の開催が計画され、ドイツ大使館から東京大学総合研究博物館に共催の申し込みがあり、博物館内部で議論が行われた結果、「アインシュタイン」を東京大学総合研究博物館に相応しい切り口で公開することとした。今まで企画された他のアインシュタイン展がアインシュタインの波乱の一生、音楽愛好家、平和主義者などの視点に立っていることから、総合研究博物館での展示は「アインシュタインの物理学」を正面から取り上げていくこととした。本館には物理学を専攻した研究者がいない。そこで理学系研究科の佐藤勝彦先生に助けを求めたわけである。佐藤先生は快く協力を約束してくださり、さらに同じく佐野雅己先生も協力してくださることになり、実行委員会が立ち上がった。

  実行委員会での議論の結果、今回の展示はアインシュタインの物理学そのものを前面に打ち出すというよりも、東京大学を中心とした最先端科学を紹介する。アインシュタインの提示した理論がニュートンを頂点とする古典物理学から現代物理学へのターニングポイントになり、多くの先端科学技術の源流がアインシュタイン物理学にあることを示す。数多くのアインシュタインの理論の中から1905年の論文を代表する「相対性理論」・「光量子仮説」・「ブラウン運動」を取り上げることとなった。

  議論の中で佐藤先生が述べられた「物理学の究極の目的は、我々人類を取り巻いている全ての現象がどのように構築され、どのような物理法則が支配しているかを明らかにすることである。近代物理学は相対性理論と量子論を2本の縦糸とすれば、非平衡統計力学によるカオスや揺らぎが横糸となって織りなされている」を展示のコンセプトに据えた。このコンセプトの中に、アインシュタインの「相対性理論」・「光量子仮説」・「ブラウン運動」から導き出された、ビッグバン・重力波・GPS・ニュートリノ・太陽電池・フラクタルなどをはじめとする先端研究を展示することにした。この原稿を書いている段階では、展示物の全てが固まっているわけではないが、「物理学の究極の目的は、我々人類を取り巻いている全ての現象がどのように構築され、どのような物理法則が支配しているかを明らかにすることである。近代物理学は相対性理論と量子論を2本の縦糸とすれば、非平衡統計力学によるカオスや揺らぎが横糸となって織りなされている」というコンセプトは大学博物館に相応しく、そこから実現する展示は「実験展示」の名に十分に値するものになるであろう。

  展示の準備を通じて、普段では席を同じくする機会すらない、佐藤勝彦・佐野雅己という物理学の最前線で活躍されている両先生を独占して、整然とした理論体系で構築されている物理学の美しさ・奥深さばかりでなく、物理学者自身を体験すること出来たのは幸せの極であり、博物館で異分野の展示を企画・実行したものだけが味わえる醍醐味である。この展示が実現できたのは、誠に佐藤勝彦・佐野雅己両教授・樽家篤史博士の協力の賜であり、心から感謝を捧げたい。また、展示実現に協力頂いた国立天文台、高エネルギー加速器機構、兜l松フォトニクス、潟Vャープなどの方々に謝意を表したい。  (本館特任研究員 鉱物学)



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