巨大集中型のミュージアムから分散携帯型のミュージアムへという、博物館存在様態のパラダイム変換を図るべく投企された「モバイル・ミュージアム・プロジェクト」の一実験が、越後妻有アートトリエンナーレの「FUKUTAKE HOUSE」で始まった。東京大学総合研究博物館小石川分館に収蔵されている、東京帝国大学時代の有名な博士の肖像を撮ったヴィンテージ・プリント12点とブロンズ彫刻1点を組み合わせた、2点のインスタレーションがそれである。
このプロジェクトの眼目は、国内有数の優良企業による文化貢献事業への参加を通じて、博物館という「建物」のなかに自閉してきたこれまでの博物館事業に、「内」から「外」へ、施設建物から市民社会へという新しい流れを生み出すこと、すなわちミュージアムの新しい、動態的な学芸事業モデルを、社会に向かって提案することにある。
ミュージアム事業のなかで、社会教育、情報発信、公共サーヴィスなどの必要性が謳われてはきたが、既存の手法の繰り返しに終始するなかで、予算や人員などの削減が現実化し、ミュージアムの置かれている環境は眼に見えて厳しいものになっている。こうした国内の厳しい現状を直視したとき、社会との太く、かつまた持続的な絆のもてないミュージアムは退場を余儀なくされるに違いない。「モバイル・ミュージアム」の実験が、指定管理者制度の導入で新たな事業展開を求められるミュージアムの活動に、一石を投じることができれば幸いである。
(本館教授 博物館工学・美術史学)
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