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中谷治宇二郎が選科生時代に作成した膨大な縄文土器・土偶カタログ、パリ留学時に残したフランス先史遺跡の踏査記録を採集標本とともに公開します。

「なかやじうじろう」。雪の結晶の研究者、人工雪の作成に世界で初めて成功したことで知られる中谷宇吉郎の実弟である。宇吉郎ほどの知名度はないが、治宇二郎も考古学者の間では没後60年以上をへてなお語り継がれる数少ないスターの一人である。それは、昭和初期、日本考古学の草創期に矢継ぎ早に発表した論考の多さもさることながら、私費で留学したフランス、パリでの苦学のエピソード、そこで得た病がもととなった帰国後の大分湯布院での闘病生活、そして享年34才で迎えた早すぎる死。残した仕事とは不釣り合いに短い人生にも感じ入るものが多いからに他ならない。

このたび長女、法安桂子さんから治宇二郎が残したノート、書簡、図面類が本館に寄託された。なかでも秀逸なのは縄文土器・土偶、骨角器などをスケッチし、出自を記した万を超える標本カードである。昭和初期に知られていた縄文標本を集成する一大カタログといってよい。それは人類学教室が当時、保有していた標本の私的目録をふくむものとなっている。


「陸奥国西津軽亀岡」の土偶


常設展併設コーナー

「縄文とパリ 考古学者中谷治宇二郎の記録」

会期:2001年01月15日 〜2001年03月30日

 

生きものは太古の昔から人々の心をとらえてきた.そして人々は生きているものが持つもの,つまり命に特別の関心を抱きつづけてきた.それは宗教や芸術などさまざまな形で表現されてきたが,生物学という学問も煎じ詰めれば生命への関心に突き動かされてきたということができるだろう.

その生きものはきわめて複雑な系であるが,今回展示する中型ないし大型の動物は,それぞれに体を支え,複雑な動き可能ならしめ,あるいは体を保護するための骨格を持っている.この硬い組織の代表が骨である.

さて,生きているものは必ず死ぬ.死ねば支えられていた部分は腐るなどしてたちまち消えてゆく.そして残されるのが骨である.骨も長い長い時間をかけて,いずれは消えてゆくが,筋肉や皮膚に比べれば永遠に近いほど長いあいだ保存される.この「丈夫さ」がひとつの理由となって,骨は動物の標本として特別の価値をもっている.その意味で博物館は「骨標本の備蓄場」という性格をもつし,またそのように機能することが望ましい.

今回の展示では哺乳類とヒトを中心にさまざまな動物の骨を紹介することにした.日常生活で骨を目にすることは少ないので,骨は気味の悪いものと感じる人が多い.それは骨が死と分かちがたく結びついているために反射的に死を連想するからである.しかし私たちの皮膚のすぐ下に骨があるのはまぎれもない事実であり,気味が悪いどころかすなおな知的好奇心があれば骨に関心をもつのはむしろ自然のことであろう.

実際骨はおもしろい.生物の骨格は進化の過程でダイナミックに変容してきた.したがって,骨はそれぞれの種の系統出自を反映し,また,適応進化による調和的な設計に至っている.さらに,個体ごとの生息環境による影響も折り重なり,その形態は生きている動物の生活を反映している.いうなれば,ひとつひとつの骨の大きさや形の背景に,壮大な生物進化と生存システムのメカニズムがある.それらを読みとることはまたとない知的冒険といえよう.

展示された標本から,さまざまな動物の骨の共通点と相違点をよく観察していただきたい.必要に応じて解説はつけたが,企画者として期待するのはナマの骨を自分の目で見ていただくことである.魚類やは虫類,哺乳類,哺乳類の中でも肉食獣と草食獣,霊長類とヒトなど対比して見ていただきたい.そこに博物学の源泉を感じることができるはずである.

それと同時に骨は美しいものでもある.今回の展示品を生物学的関心だけでなく,自然の造形美として見ていただければ幸いである.

 

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