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このたび、東京大学総合研究博物館では、社会情報研究所との共同主催で、同研究所の前身、新聞研究所の実質的な創立者であり、日本の新聞ジャーナリズム研究のパイオニアでもあった小野秀雄氏のかわら版と新聞錦絵コレクションを中心とした展覧会を開催します。

この展覧会には、社会情報研究所が所蔵している小野コレクションのかわら版約600点、新聞錦絵約400点からのものを中心に約320点が展示されます。小野秀雄氏のかわら版と新聞錦絵が広く公開される機会としては最初にして最大のものです。

とりわけ小野氏の集めたかわら版には、安政大地震などをめぐる多数の災害かわら版などきわめて貴重なものが多数あり、その一部は彼の『かわら版物語』によって多くの研究者の間で知られてきました。また新聞錦絵も、明治初期の新聞メディアと民衆の日常意識のかかわりを浮かび上がらせるような多種の貴重なものが含まれています。

本展では、これらを一挙に展示すると同時に、全コレクションについての詳細な画像データベースをデジタル・ミュージアム方式で提供し、さらにそれらのかわら版や新聞錦絵がかつて売られていたときの状況に迫るべく、義太夫などの声による呼び売りの再現も試みています。


東京日々新聞第1号、1874年


東京大学コレクション IX

特別展示

「ニュースの誕生 かわら版と新聞錦絵の情報世界」

会期:1999年10月08日 〜1999年12月12日

主催:東京大学総合研究博物館、東京大学社会情報研究所
助成:朝日新聞文化財団、アサヒビール芸術文化財団

このたび、東京大学総合研究博物館では、社会情報研究所との共同主催で、同研究所の前身、新聞研究所の実質的な創立者であり、日本の新聞ジャーナリズム研究のパイオニアでもあった小野秀雄氏のかわら版と新聞錦絵コレクションを中心とした展覧会を開催します。

 この展覧会には、社会情報研究所が所蔵している小野コレクションのかわら版約600点、新聞錦絵約400点からのものを中心に約320点が展示されます。小野秀雄氏のかわら版と新聞錦絵が広く公開される機会としては最初にして最大のものです。

 とりわけ小野氏の集めたかわら版には、安政大地震などをめぐる多数の災害かわら版などきわめて貴重なものが多数あり、その一部は彼の『かわら版物語』によって多くの研究者の間で知られてきました。また新聞錦絵も、明治初期の新聞メディアと民衆の日常意識のかかわりを浮かび上がらせるような多種の貴重なものが含まれています。

 本展では、これらを一挙に展示すると同時に、全コレクションについての詳細な画像データベースをデジタル・ミュージアム方式で提供し、さらにそれらのかわら版や新聞錦絵がかつて売られていたときの状況に迫るべく、義太夫などの声による呼び売りの再現も試みています。

「ニュースの誕生」と名づけられたこの展覧会は、わが国における「新聞=ニュース」の概念そのものの根底を問い直そうという、いささか野心的な狙いも持っています。

 もともと萬朝報や東京日日新聞の記者だった小野秀雄は、アカデミズムに転じて日本で初めて新聞史の本格的な研究をまとめ、昭和4年に東京帝国大学の新聞研究室を設立させるなど、戦前から日本の新聞学をリードしてきました。そして戦後は、東大新聞研究所の初代所長や日本新聞学会の初代会長を歴任し、日本のジャーナリズム研究の中心に立ち続けます。しかし他方で、小野は宮武外骨や石井研堂などとともに大正末に設立された明治文化研究会の中心的メンバーであり、かわら版や新聞錦絵の収集も早くから始めていました。そして戦後はそうした収集を本格化させ、『かわら版物語』をまとめていくのです。

 これまでわが国の通説的な新聞史やジャーナリズム史では、かわら版や新聞錦絵は、いわば「新聞以前の未熟なメディア」として片づけられてきました。災害や奇談や殺人など市井の事件を伝えることが多く、その主観的な報道姿勢ゆえに、現代の客観報道とは対極にあると見なされがちだからです。

 しかし、小野秀雄のこれらのメディアへの強いこだわりは、それらが近代的なニュース概念が確立してしまった後の時代からでは見えにくいもう一つの「新聞=ニュース」観への回路を指し示していることに、どこかで気づいていたからなのかもしれません。

 この展覧会で、私たちは、当時のニュースがどのような需要に応えて、どのように社会を流通したかを多角的に探り、かわら版と錦絵新聞とが独自の情報空間を作り出していたことを明らかにします。そして小野秀雄のコレクションが、「新聞」や「ニュース」についての私たちの常識、そして小野自身が打ち立てた日本の新聞研究のパラダイムを根底から問い直す射程を含んでいることを示そうとしています。

 こうして、この展覧会では、たとえば近代新聞が叢生しつつあった明治の日本にあっても、新聞錦絵にはいわゆるニュースの語りに包摂しきれない、むしろ戯作的でも浮世絵的でもある様々な語りが複合していたし、逆に幕末のかわら版にはある種のニュースの語りを見出すこともできたこと、ところがその一方で、新聞錦絵はあからさまに近代の「新聞=ニュース」の形式を利用していたし、かわら版の方は、そうした新聞的な世界とは別の時空で、ニュースの語りと魔除けや祭文、番付や見立ての語りを結合させてもいたことが示されていきます。

 また、私たちは、阪神淡路大震災の報道と安政大地震のかわら版を、あるいは現代のメディアに登場する犯罪とかつての新聞錦絵に描かれていた犯罪を二重映しにしながら、現代におけるニュースの消費自体のなかに、通説的な「ニュース」概念には還元しきれない語りの次元が存在することを示そうとしています。

 そんなわけで、この展覧会は、まずどなたでも視覚的、聴覚的にかわら版や新聞錦絵に描かれてきた世界を楽しく味わってもらえるように心がけ、研究者には小野コレクションについての詳細な情報を提供し、さらに私たち自身の「新聞」や「ニュース」についての常識を問い直すという、何重もの仕掛けを含み込んでいます。どうぞ、東京大学の博物館に足をお運びください。

 

図録

ウロボロス記事 「二つの震災報道をめぐって〜神戸と江戸〜」

・ウロボロス記事 「小野秀雄コレクションから〈ニュース〉を読む」