東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime12Number2

宇宙創生 ―異星の踏査展のデザイン

洪 恒夫 (本館客員教授/展示デザイン)


 「宇宙を創った。」などというと神の仕業のようだが、今回私は宇宙をデザインした。
 宮本准教授が総合研究博物館に着任されて初の展覧会となる「異星の踏査―「アポロ」から「はやぶさ」へ」展は固体惑星科学がテーマである。現在、探査機器類の機能・性能が向上し、膨大な量の宇宙世界の写真データ、情報、資料の収集がなされ、研究が進んでいる。宇宙博物学などという言い方もされていたが、本展はそのなかから宮本准教授の研究テーマを中心に月や火星に関する展示を行っている。
 前回の展示計画の最中に今回の企画に着手していたため、その準備中の展示室において、本展の空間イメージを描き始めた。何度もこの空間を使った展示を考え続けてきたが、今回はだだっ広い宇宙を扱うのだから、ワンボックスの展示空間を強調して、この場所を「広く」感じられる使い方をしたいと考えた。
 総合研究博物館の新館展示ホールは、入り口に立つと真四角な空間に見えるが、中に入ると建築柱が林立し、奥の壁はR曲線の複雑な形をしている。様々なアングルで空間を眺め、おおよそ目星をつけたのは、入り口を入って右の隅から対角線で主導線の大通りを作る構成だった。展示室を大胆に「たすき掛け」してしまうのである。展示室の形状に対して素直に考えると、時計回りになる配置となり、実際、今までの殆どの展示に時計回りの導線を採用してきた。今回、あえて逆周りを設定することにより、この大通りを実現させることを考えた。そのために、まずは打ち合わせの話のメモを全て斜めの対角線の方向に取っていった。くだらないように思われるかもしれないが、作り手としての気持ちを徹底させる上で有効な手段なのだ。
 デザイナーの癖だろうが、展示の与件、狙い、表現されるべき内容やストーリーを聞き、それらが頭の中を駆け抜けていくと、自分勝手な解釈でイマジネーションがむくむくと浮かび上がってくる。それは瞬時に起こることが多く、その後、その形が大きく崩れることは少ない。その浮かんだ形を軸に、与件を照らし直しながら、冷静に整合性をチェックする作業を重ね、納得できるまで方向性を固めていく。企画やイメージに確信を持つためには、それらに臨むうえでの自分の立ち位置を固めることが最も重要だと考えている。そうでないと企画の方向性がいいのか悪いのか、自らの評価基準が定まらず、あっているのか間違っているのかの判断ができないからである。
 今回の展示を展開する上での立脚点が、「宇宙の研究はもはや、望遠鏡をのぞいて創造している時代ではなく、地球にいながらにして宇宙の情報や資料を手中にすることを可能とする技術環境は思いもよらないほど進化している」ことなのだとわかってきた。そして展示空間としては、「地球にいながら宇宙のものや情報を入手、それらを調査し、実態を解明する。」このような研究現場の世界感を体現化させる空間を実現させることとした。この時点でほぼ空間コンセプトが出来上がった。シンプルに地球と宇宙が対峙する空間、この2つのコントラストが明快にイメージできる空間を描き出すのである。地球はいつも自分たちがいる場所。そして宇宙はそれと対峙させる位置で無限の広がりを感じさせるもの。こうしたイメージを「たすき掛け」の主導線と重ね合わせて表現しようと考えた。
 今回の展示の要素となるのは月、火星、小惑星イトカワ、そして、スターダストが主たるものである。そこで、展示構成でもこれらの項目を明快に伝えられる、「宇宙と向き合う」という空間コンセプトが形づくれるデザインを講じた。宇宙に向けてロケットを打ち上げ有形無形の資料を収集する。そんな視点で見れば、地球は宇宙へ旅するための「桟橋」というのがイメージとして合致する。その桟橋の発想を展示項目のそれぞれのテーマを表現する上でわかりやすく使った。各々のテーマをそれぞれの桟橋に宛がうかたちとすることした。それは、テーマの順番に従い「PIER 1 = 月」、「PIER 2= 火星」、「PIER 3 =ITOKAWA」、「PIER 4 = スターダスト」という具合で配置するのである。
 桟橋(PIER)に置かれたもの、桟橋で展開されるものは、地球外のものであっても今地球に存在する物であり、地球で繰り広げられているコトである。一方、桟橋から眺めるそれを囲う周囲の壁面は宇宙での出来事、宇宙の光景である。イメージと形、内容がそろいデザインを固め、ファーストドローイングを描き上げた。そして模型を作り、空間検証を行いながらデザインをつめていった。先に「自分の立ち位置を固めることが最も重要」と書いたが、実現すべき形や姿を描いておかなければ、空間の要素として必要なもの不要なものの判断をすることが出来ない。今回の宇宙はこうやってデザインされた。
 私たちはこれまで地上から「星」を眺めてきたが、星の様々な姿を(本展でも)目の前に見ることができる。そして、星に近づいたことによって、さらに未知の世界が広がった。本展により、宇宙へ新たな好奇心の旅に出る方々が生まれるとうれしい。

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図1. 斜め書きのメモ.


図2. 初期段階の全体イメージスケッチ(2007.06)


図3. 桟橋のコーナーイメージ(2007.06)


図4. 思案中の平面プラン(2007.07)


図5. 実施計画平面プラン(2007.08)


図6. スタディ用マケット(2007.09)