東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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火星隕石が明かす42億年間に渡る火星の内部構造とダイナミクス


1.発表者:
 三河内 岳 (東京大学総合研究博物館 教授)

2.発表のポイント:
◆火星隕石NWA 7533に含まれるジルコンという鉱物の分析から、火星では約42億年に渡って不動蓋型のテクトニクスが続いていたことが明らかになった。
◆NWA 7533から43億年以上前の古いジルコンと15億年〜3億年前の新しいジルコンを発見したことで、42億年に渡る火星内部構造とテクトニクスの解釈が初めて可能となった。
◆ジルコンは火星表面に広く存在している可能性が高く、このような試料を火星表面からサンプルリターンしてくることは火星の歴史を正確に明らかにする上で非常に有用である。

3.発表概要:
東京大学総合研究博物館の三河内 岳(みこうち たかし)教授が参加する国際研究チームは、火星隕石NWA 7533に含まれるジルコンと呼ばれる鉱物に注目して、詳細な年代測定、鉱物分析、化学分析を行うことで、42億年もの長期間に渡る火星の内部構造とダイナミクスを明らかにすることに成功した。
研究チームは、NWA 7533から分離したジルコンやジルコンを含む岩片を鉱物分析・化学分析した後に、鉛とウランを用いた詳しい年代測定を行った。その結果、NWA 7533には約44億〜45億年前に2つの形成年代ピークを持つ古い時代のジルコンと約15.5億年前〜3億年前の幅広い形成年代を持つ新しい時代のジルコンの2種類があることが分かった。これらのジルコンの成因から考えると、火星内部では、対流する始原的なマントルが深部にあり、その上にリソスフェアに相当するマントルと地殻が乗った不動蓋型のテクトニクスが42億年に渡って続いていたことが初めて明らかになった。
ジルコンは火星表面に広く存在していると考えられ、ジルコンを含む試料を火星表面からサンプルリターンすることは火星の地質学的な歴史を解明する上で非常に有用と言える。

4.発表内容:
2012年にアフリカのサハラ砂漠で発見された火星隕石NWA 7533は、44億年以上前に形成された岩片や、その後の様々な時代に形成された岩片、鉱物片などを含む角レキ岩で、これまでに全く見つかっていないタイプの火星隕石である。太古の火星についての情報を得ることのできる唯一の火星隕石であることから、これまでに多くの研究がNWA 7533に行われているが、先行研究では年代測定に用いられるジルコンの分析数が少なく、長期間に渡る火星内部構造の変遷などについてはほとんど議論が行われていなかった。
東京大学総合研究博物館の三河内 岳(みこうち たかし)教授が参加する国際研究チーム(コペンハーゲン大学、東京大学、英国地質調査所、欧州シンクロトロン放射光研究所、パリ大学、ブルターニュ・オキシダンタル-UBO大学、西オーストラリア大学、カーティン大学)は、約15グラムのNWA 7533から50個以上の大きなジルコンを分離し、これらを詳細に年代測定、鉱物分析、化学分析することで、約42億年もの長期間に渡る火星の内部構造とダイナミクスを明らかにすることに成功した。
研究チームは、NWA 7533から分離したジルコンやジルコンを含む岩片を、走査型電子顕微鏡(SEM)、四重極型誘導結合プラズマ質量分析(Q-ICP-MS)、電子マイクロプローブ(EPMA)、放射光X線回折法、マルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析法(MC-ICP-MS)、高分解能誘導結合プラズマ質量分析法(HR-ICP-MS)で鉱物分析・化学分析した後に、表面電離型質量分析法(TIMS)、二次イオン質量分析法(SIMS)により鉛とウランを用いた年代測定を行った。その結果、NWA 7533には約44.7億年前と約44.4億年前の2つの形成年代ピークを持つ古い時代のジルコンが多く含まれており、その他のものは、約15.5億年前〜3億年前の幅広い形成年代を持つ新しい時代のジルコンであることが明らかになった。
約44億〜45億年前にできた古い時代のジルコンは、そのHf同位体などの化学的特徴から、約45.5億年前に始まったマグマオーシャンの固化後にできた最初の地殻を元々の起源としていると考えられる。近年提唱されている43億年前頃までの巨大ガス惑星の移動によって小天体が擾乱され、それらが火星表面に衝突したとされる年代とジルコンの形成年代が一致しており、このような大規模な天体衝突で地殻の再溶融が起こり、そのマグマから結晶化してできた可能性がある。
また、約15.5億年前〜3億年前の幅広い形成年代を持つ新しい時代のジルコンには、ほぼ同じ時代に形成された他の火星隕石には見られない始原的な化学的特徴がHfの同位体組成に見られることが明らかになった。このことは、約45億年前の火星誕生直後から変化を受けていない、これまで未知だった始原的マントルが火星地下に存在しており、対流するマントル深部から地表にもたらされたプリュームがジルコンの起源であることを示している。15.5億年前〜3億年前にこのようなプリュームによる火山活動を行った場所は、タルシス・エリシウムの火星北半球にある2つの巨大火山地域しかない。若い形成年代を持つジルコンは丸みを帯びたような形状のものが多いため、元々、マントルからのプリュームを起源とするこれらの地域の火山活動によってできたマグマからジルコンは結晶化してできたが、その後、岩石が風化により削られた後にダストとして火星南半球まで輸送され、最終的に古い岩石などとともに、3億年前より最近の隕石衝突によってNWA 7533の元となる岩石が形成されたと考えるのが適当である。
以上のことから、NWA 7533に含まれる42億年に渡る形成年代を持つジルコンから、火星の内部では火星形成当時から変化していない始原的な化学的特徴を持った対流するマントルが深部に存在しており、その上にリソスフェアに相当するマントルと地殻が乗った構造となる不動蓋型のテクトニクスが42億年に渡って続いていたことが初めて明らかになった。
火星表面には、幅広い形成年代を持つジルコンが広く存在している可能性が高く、このような試料を近い将来に計画されているサンプルリターン探査によって地球に持ち帰って詳細に分析することができると、火星の地質学的な歴史を正確に明らかにすることが可能になるはずである。

5.発表雑誌:
雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS) 
(11月16日オンライン版)
論文タイトル:The internal structure and geodynamics of Mars inferred from a 4.2 Gyr zircon record
(邦訳: 42億年間の記録を持つジルコンから推測される火星の内部構造とジオダイナミクス)
著者:Maria Mafalda Costa, Ninna K. Jensen, Laura C. Bouvier, James N. Connelly, Takashi Mikouchi, Matthew S.A Horstwood, Jussi-Petteri Suuronen, Frédéric Moynier, Zhengbin Deng, Arnaud Agranier, Laure A.J. Martin, Tim E. Johnson, Alexander Nemchin, Martin Bizzarro
DOI番号:doi.org/10.1073/pnas.2016326117
アブストラクトURL:https://doi.org/10.1073/pnas.2016326117

6.問い合わせ先:
東京大学総合研究博物館
教授 三河内 岳 (みこうち たかし)
E-mail:mikouchi(a)um.u-tokyo.ac.jp  ※(a)を@にしてください

7.添付資料:


図1:研究に用いられた約50グラムのNWA 7533火星隕石。右のサイコロは1辺が1センチメートル。

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