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    デデリエ2号の頭骨。2000年。頭骨最大長15.8cm

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    デデリエ1号の全身骨格。1992年。推定身長:約80cm(提供:赤澤 威)

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    デデリエ洞窟出土の中期旧石器。最上段が石核、その他はルヴァロワ剥片、石刃、削器など。長さ9.4cm(右下)(DED05-J27-35ほか)

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G11
デデリエ
ネアンデルタール人の拠点洞窟

東京大学のチームが発掘した4つめの更新世洞窟遺跡がシリア北部にあるデデリエである。調査の主体は総合研究博物館(資料館)から国際日本文化研究センター、高知工科大学などを経たが、現在、全ての関連資料は総合研究博物館が保管している。

この洞窟の最大の発見は一連のネアンデルタール人幼児化石である。少なくとも3個体見つかっているが、よく記載されているのは2体である。1号、2号ともおよそ2歳であるが、歯の萌出程度から考えると、1号幼児がより若い(約1.5才)。幼児個体のため性別は不明である。

1号は、全身の骨格が非常によく保存されており、それらを用いた立位復元による推定身長は82cmである。2号人骨は頭蓋と顔面がよく保存されている。両者とも幼児ながらすでにいくつかのネアンデルタール的特徴を備えている。脳頭蓋は大きく、後面観が丸く、後頭部に特徴的な凹み(イニオン上窩)を持つ。乳様突起は小さく、内側に稜状の膨らみを伴う。顔面は中顔部が前突し、前歯が相対的に大きい。下顎は頤がなく正中が後退し、下顎体は分厚く頑丈である。一方で、四肢骨の大きさや頑丈さには2個体間で差があり、歯の萌出程度に反し、1号人骨は頑丈でより大きく、2号人骨は華奢かつより小さい。これは、ネアンデルタール幼児骨の変異幅を示すと考えられる。

デデリエ1号、2号ネアンデルタール幼児の発見は、これと前後して発展したCT撮影による3次元形態計測といった化石人骨研究の新手法により、ネアンデルタール人の成長研究に資することとなった。形は異なるが大きな脳を持つネアンデルタール人は、現生人類と同様に生後急速に脳を拡大成長させた。ネアンデルタール人の両親(あるいは家族)は子育てにかなりの労力を割く必要があったかもしれない。そのような仮説をデデリエ洞窟の標本をもとに導くことができた。

デデリエでは幼児骨格以外にも断片的ながら成人骨も見つかっている。約7万〜5万年前にかけての複数の地層から出土していることから、ネアンデルタール人の拠点洞窟の一つだったと考えられる。野外調査はシリアの政情不安をうけて2011年春に中断してはいるが、共伴した石器、動植物化石などの標本研究は鋭意、継続している。 (西秋良宏・近藤 修)

参考文献 References

Akazawa, T. & Muhesen, S. (eds.) (2002). The Neanderthal Burials: Excavations of the Dederiyeh Cave, Afrin, Syria. Kyoto: International Research Center for Japanese Studies.

de Leon, M. S. P, et al. (2008) Neanderthal brain size at birth provides insights into the evolution of human life history. Proceedings of the National Academy of Sciences 105(37): 13764-13768.

Nishiaki, Y. et al. (2011). Recent progress in Lower and Middle Palaeolithic research at Dederiyeh Cave, Northwest Syria. In: Le Tensorer, J.-M. et al. (eds.) The Lower and Middle Palaeolithic in the Middle East and Neighbouring Regions, pp. 67–76. Liège: Université de Liège.