学問の継承 ─地学系コレクション
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    古生物収蔵標本の代表例(撮影:山田昭順)

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    明治~昭和前期の東大の古生物・地質学者。A. 小藤文次郎、B. 横山又次郎、C. 神保小虎、D. 矢部長克、E. 小澤儀明、F. 小林貞一

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学問の継承 ─地学系コレクション

大学博物館の重要な機能の一つは学内外の研究活動で生産される学術資料を収集し、体系化し、保存することである。新しい研究成果が次々に発表され、それらが積み重なりながら学問が発展してゆく。学術資料は絶え間なく生産され続け、残されるべきものは多いが、それらは特別な注意を払わなければ失われやすい。

東京大学総合研究博物館の特色の一つは、日本の学問の歴史を保存していることである。1877年に東京大学が創設された時、日本には唯一の大学であった。従って、東大の歴史は日本の学問の歴史そのものでもある。そして現在まで途切れず学問は続いている。そのような歴史を踏まえた上で、世界の最先端を目指して日々新しい研究が行われている。

古生物学は東大が長い歴史を誇る分野のひとつである。初代教授のナウマンが1881年に最初の論文を出版して以来、1000編以上の出版物が作成され、その出版物中で図示あるいは引用された標本の数は3万点以上に及ぶ。タイプ標本の数も国内の古生物コレクションでは最大であり、担名タイプは約4900点、パラタイプは約3700点存在している。従って、本館のコレクションは古生物学の発展史を記録するアーカイブの役割を担っている。

本館の古生物コレクションの特徴は、歴史的に古いだけでなく、それらが全てデータベース化されている点にある。記載標本は、原記載論文の著者、出版年、タイトル、雑誌名等に加えて、図示標本の図番号、引用ページの情報が入力されている。標本、ラベルの画像は現時点で1万点以上を掲載している。さらに、出版物のPDFを利用できるものはデータベースからダウンロードできるようになっており、外部の機関が公開している資料についてはリンクが入力されている。このように130年間以上にわたって生産された出版物と標本の情報が網羅されている古生物データベースは国内では他に例を見ない。

長期にわたる標本とデータの蓄積は一朝一夕にできるものではない。古生物のコレクションは戦前に既に膨大な量に達しており、戦時中は山形県に疎開し、その維持には大変な苦労があったと言い伝えられている。標本登録自体は戦前から行われていたが、現在と同じシステムで標本の登録が始まったのは終戦3年後の1948年である。その当時は教員と学生が総出でボランティアで作業にあたり、貴重なコレクションが守られてきた。そして、総合研究資料館の設立後には資料館に移管され、1998年からデジタル化のプロジェクトが開始された。

欧米の博物館にはさらに古い歴史と良好な管理体制を持つコレクションがあり、当館もそれらを超えることを目標に努力し続けている。歴史は新しく作り変えることはできず、一方古いものを守るだけでは新しい研究はできない。伝統的な資料を確実に保存しつつ、それらを活用して新しい研究教育活動を行うことが大学博物館に求められる使命である。

佐々木 猛智・伊藤 泰弘


参考文献 References

佐々木猛智・伊藤泰弘(編)(2012)『東大古生物学—化石からみる生命史』東海大学出版会。