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    パラオオウムガイ(Nautilus belauensis Saunders)。Tanabe et al. (1990: 297, fig. 1B)による図示標本。パラオ、コロール島、現生(UMUT RM18708-9)

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    Nanaimoteuthis yokoyai Tanabe & Hikida, 2010. 下顎、ホロタイプ。北海道達布地域、白亜紀(UMUT MM30337)

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    Aristoceras sp. (PM 18799a) & Vidrioceras sp. (PM 18799b)。Tanabe, K. et al. (1993: 217, fig. 1A)による図示標本。アメリカ合衆国カンザス州、石炭紀。下の写真中の黒い点が胚殻

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頭足類の生物学的古生物学

頭足類は軟体動物門頭足綱に属する大きな分類群で、オウムガイ類、アンモナイト類、ベレムナイト類、イカ類、タコ類などを含む。現生種は個体数は多く食料資源として重要であるが、種数は800種程度で少ない。一方、化石種は種多様性が高く、アンモナイト類のみで1万種以上が記載されている。

東大における頭足類の研究は、矢部博士、横山博士による種の記載から始まり、松本達郎博士によって白亜系のアンモナイト層序学へと発展してきた。一方、生物学的古生物学の視点からの研究は棚部一成博士によって推進され、その伝統は現在まで続いている。

生物学的古生物学の基本は現在生きている生物を研究し、そこで得られた法則性を化石に適用して化石種が生きている時の姿を推定するという方法である。頭足類の場合、その比較対象として最も適しているのは現生のオウムガイ類である。

オウムガイ類は祖先は古生代にまで遡り、螺旋状の殻を獲得した後にもほとんど形を変えずに生きてきた。かつては世界各地で繁栄した時期もあるが、現在は熱帯西太平洋のやや深い海(100~600m)に5種が生息しており、かつて繁栄したグループが深海で姿を変えずひっそりと生き残っている典型的な「生きている化石」の例である。

アンモナイトは絶滅しているため、アンモナイト類のみを研究していてもその生物学的な側面は理解できない。例えば、アンモナイトの殻の内部には隔壁という仕切り上の構造とそれを横切るようにつながる連室細管という管があるが、それらの機能的な意味はオウムガイとの比較によってのみ理解できる。

棚部博士の研究では、アンモナイト類の胚殻を含む卵塊の化石、口器の内部にある顎の化石、餌をかじり取るための歯舌の化石、連室細管の内部に残る血管の化石など、化石頭足類の生時の復元に重要な化石を多数報告された。その証拠標本は全て総合研究博物館に登録され、貴重なコレクションとなっている。 (佐々木猛智・伊藤泰弘)

参考文献 References

Klug, C. et al. (eds.) (2015) Ammonoid Paleobiology: From macroevolution to paleogeography. Rotterdam: Springer.