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    小笠原の固有蝶類2種。左上:オガサワラシジミ♂、母島、右上:仝♀、母島、左下:オガサワラセセリ♂、平島、右下:同♀、平島

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    オガサワラシジミを捕食するグリーンアノール、母島(撮影:忠地良夫)

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    蝶の外来種と近縁な在来種2種。左上:アカボシゴマダラ♂(夏型)、埼玉、左下:アカボシゴマダラ♂(春型)、神奈川、右上:オオムラサキ♂、山梨、右下:ゴマダラチョウ♀、神奈川

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蝶における外来生物問題

東京から約1,000km南に位置する小笠原諸島は、独自の進化を成し遂げた多くの固有生物が生息することから「東洋のガラパゴス」とも呼ばれ、2011年には世界自然遺産にも登録されている。蝶類ではオガサワラシジミとオガサワラセセリという固有種が生息するが、それぞれ環境省レッドリストに絶滅危惧1A類および絶滅危惧II類として掲載されている。特にオガサワラシジミは国の天然記念物に指定されていることに加え、2008年には環境省「種の保存法」の希少野生動植物種にも指定されている。近年、グアム経由で侵入した北米原産の外来トカゲ・グリーンアノールの捕食圧や、アカギ、ギンネム、モクマオウのような外来植物の繁茂による食餌植物の衰退などにより、両種とも激減して絶滅の危機に瀕していることによる。このため、国、地方自治体、動物園、研究者、NPO、ボランティアなど、様々な公的機関や民間組織が参画して、行政・島民・研究者の協働による保全計画が進められている。

一方、中国大陸原産の外来蝶アカボシゴマダラ(名義タイプ亜種)が神奈川県の藤沢市で1998年に確認されて以来、関東地方を中心に分布を拡大させ、現在では東北、北陸、中部、東海、関西の各地方にまで分布が及んでいる。本種の成虫は樹液や腐果、獣糞などを好み、幼虫はエノキ(アサ科)を食餌植物とする。このような食性や利用する生活空間に関する生態的ニッチが、在来の近縁種ゴマダラチョウや国蝶オオムラサキとほぼ一致するため、外来種と在来種との種間競争や繁殖干渉が強く懸念されている。また、奄美諸島には日本固有亜種となっている在来のアカボシゴマダラ(奄美亜種)が生息するが、気候要因および寄主植物に基づく潜在的生息適地解析によるシュミレーションでは、奄美諸島はこの外来亜種の良好な潜在的生息適地であるため、もしこのまま分布拡大を続けて奄美諸島に侵入した場合、日本固有亜種の存続を脅かす危険性も十分に考えられる。 (矢後勝也)

参考文献 References

斎藤昌幸・矢後勝也・神保宇嗣・倉島 治・伊藤元己 (2014) 「外来蝶アカボシゴマダラの潜在的生息適地:原産地の標本情報と寄主植物の分布情報を用いた推定」Lepidoptera Science 65 (2): 79–87。

矢後勝也・中村康弘 (2007) 「オガサワラシジミの食性と保全」Journal of the Butterfly Society of Japan, Butterflies (46): 35–45.

矢後勝也 (2011)「チョウにおける外来種問題の現状」『昆虫と自然』47 (1): 12–15。

矢後勝也 (2014) 「小笠原の絶滅危惧種オガサワラシジミの現状と保全体制」『昆虫と自然』49 (9): 4–7。