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    ヒメアカガイ(Scapharca troscheli (Dunker))。三重県英虞湾、明治38年(UMUT RM28404)

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    ハイガイ(Tegillarca granosa (Linnaeus))。岡山県児島湾、 大正14年(UMUT RM28405)

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    イセシラガイ(Anodonta stearnsiana Oyama)。熊本県天草郡早浦海岸、明治34年5月(UMUT RM28406)

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海産貝類の絶滅危惧種

絶滅危惧生物の保全の重要性は個体数の減少が顕著になった段階で認識される。大型生物や陸上の生物は、小型種や水中の生物よりも個体数を数えやすく、そのため定量的な評価が行いやすい。一方、海中に生息する多くの小型の無脊椎動物ではそのようなデータは利用できないものが多い。

貝類は陸産や淡水産の種では早くから生息状況の調査が行われ、保全の重要性の評価が行われてきた。しかし、海産の種は評価が遅れがちであり、最近になってレッドデータブック、レッドリストに取り上げられるようになってきた。

一般に内湾に生息する貝類は環境悪化の影響を受けやすい。その理由は、(1)内湾は外洋に比べて水の循環が悪く、汚染、富栄養化、酸素濃度の低下などが起こりやすい。(2)内湾に生息する種は、外洋域は生息に適していないため、外洋を通じて分布を広げることが困難である。日本では、内湾域は東京湾、伊勢湾、瀬戸内海、有明海のように離れて存在する場所が多い。従って、分散が起こりにくく、一旦地域的に減少すると容易に回復しないものが多い。

本館のコレクションには明治初期からの標本があり、現在では失われた産地の標本が含まれている。また採集年の記録のある標本からはそれらが実際に生息していた年代を知ることができる。

展示標本であるハイガイ、イセシラガイ、ヒメアカガイはかつては内湾域に普通に生息していたものであるが、現在では環境省レッドデータブック(2014年版)に掲載されている(ヒメアカガイ、イセシラガイ:絶滅危惧I類、ハイガイ絶滅危惧II類)。これらの種が絶滅寸前に追い込まれていることは、多産する種であっても環境悪化に伴い急速に減少し得ることを示している。(佐々木猛智)

参考文献 References

佐々木猛智 (2002) 『貝の博物誌』東京大学総合研究博物館。

環境省(編) (2014) 『日本の絶滅のおそれのある野生生物、Red Data Book 6 貝類レッドデータブック』株式会社ぎょうせい