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    チョローラピテクスの歯。臼歯の大きさはゴリラなみ、上顎の臼歯(最左の列)は前後に長く(他の類人猿では頬舌径のほうが大きい)、下顎の臼歯(右から3列目)は稜線が強い

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    チョローラの化石の下限年代を決める。兵庫県立博物館の加藤茂弘が火山岩を採取

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    チョローラ層の景観(エチオピアの古人類学者B. Asfaw氏が見下ろしている)。谷下に900万年前より古い火山岩の平面が露出している

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チョローラピテクスの歯
ゴリラの祖先系統の候補

近年までの目覚ましい化石発見により、人類の系統は600から700万年前ごろまで辿れるようになった。一方、ヒトと最も近縁な類人猿である現生のアフリカの類人猿、チンパンジーとゴリラ側の化石は皆無に近い。2005年には、数点のチンパンジーの歯の化石が報告されたが、わずか50万年前のものであり、現生のチンパンジーと似た集団が当時はケニアまで分布していたことを物語っている。しかし、人類と類人猿が共通祖先からどう分岐していったのか、そうした類人猿と人類史の核心に触れる化石候補はほとんど知られていない。

そうした中、チョローラピテクスは、筆者らがエチオピアで2000年代後半に発見した大型類人猿の化石である。臼歯の歯冠形態が現生のゴリラの特殊化を萌芽的に示しているため、ゴリラの系統の初期に相当すると考え、2007年に新属新種として発表した。出土地のアファール地溝帯の西南端には、チョローラ層と名付けられた中新世後期の地層が100キロほどにわたり断続的に露出することが、1970年代以来知られていた。ただ、化石はほとんど無く、哺乳動物化石はわずか1地点から報告されていたに過ぎなかった。その化石も断片的で、類人猿も他の霊長類化石も知られていなかった。ただし、地層の推定年代は1000万年前ごろ、極めて貴重な年代であった。何故ならば、人類出現の地と思われるアフリカ、取り分けサハラ以南のアフリカでは、1200万から700万年前の間の脊椎動物化石記録が非常に乏しいからである。この範囲の年代の化石を少しでも増やす必要がある。

そこで、エチオピア人研究者との長年の共同体制のもと、2000年代中ごろから当地のサーベー調査を開始した。1970年代以来の先行研究の結果を鑑み、我々の調査でも特段の成果はないだろう、そうした現実感をもってサーベーを開始した。ただし、類人猿化石とは言わず、動物化石を産出する有望地点を一つでも新たに発見できれば、中長期の調査目標を掲げることができる。そうした思いでサーベー調査を実施する中、類人猿の歯の化石9本を、思いかけず発見することとなった。これが、展示のチョローラピテクス化石である。

その後、チョローラの調査を継続し、系統だって地質調査、サーベー調査、それと発掘調査を実施してきた。化石は依然と断片的ながら、新たな化石産出地点を複数発見することができた。霊長類化石も相当数回収している。地質調査でも重要な成果を挙げ、2016年にNature誌に発表した。それは、先行研究による層序年代学的枠組みには大きな誤りがあり、チョローラ層の動物化石は900万から700万年前の間にわたるとの結論である。中でも、チョローラピテクスの化石は800万年前ごろと目下推定している。人類と類人猿が分岐しただろう、まさにその時代に相当する年代である。チョローラピテクスとその生息環境について、目下、さらに調査中である。 (諏訪 元)

参考文献 References

Suwa, G. et al. (2007) A new species of great ape from the late Miocene epoch in Ethiopia. Nature 448: 921–924.

Katoh, S. et al. (2016) New geological and paleontological age constraint for the gorilla-human lineage split. Nature 530: 215–218.