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    ポリコチルス科の胃内容物。北海道小平町産出、白亜紀後期、13.1×6cm (UMUT MV19965)

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    標本中の頭足類の顎器の位置

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    共産した胃石

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B18
ポリコチルス科長頸竜類の胃内容物
太古の被食捕食関係の直接的な証拠

絶滅脊椎動物の食性を推定することには大きな困難が伴う。主な食性の推定方法としては、歯の概形、炭素同位体や窒素同位体、歯に残る顕微鏡レベルの微細な傷、化石の腹部に残された胃内容物等を用いる手法がある。しかし、中生代の脊椎動物では、同位体は続成作用により生息時とは変化している可能性が高く、歯の微細な傷の解析も比較可能な現生脊椎動物が少なく解釈に困難が伴う。また、歯の概形による推定では、肉食、草食等の大きなカテゴリーでしか食性を判別できない。このため、胃内容物の化石は現在のところでは中生代脊椎動物の食性復元において最も説得力のある証拠である。

本標本は、前項で紹介した北海道小平町のポリコチルス科長頸竜類の胃内容物化石で、イカ、タコ、オウムガイやアンモナイトを含む分類群である頭足綱の複数の顎器が長頸竜の腹肋骨と共に含まれる。これらの顎器は形態から頭足類の中でもアンモナイト亜綱のものとされ、長頸竜類がアンモナイト亜綱を摂食した証拠と考えられている。この化石以外にも長頸竜類の胃内容物としては、魚の骨を含むものが数多く発見されている。首の長い長頸竜類であるエラスモサウルス科の胃内容物としては、二枚貝や巻貝、甲殻類が発見された例がある。また、大型で首が短いタイプの長頸竜であるプリオサウルスの化石が恐竜の化石と共産した例があり、胃内容物とは断定できないものの、流れてきた恐竜の死体をあさった可能性が指摘されている。

このポリコチルス科の標本からは胃石も見つかっている。胃石はエラスモサウルス科など首の長い長頸竜類ではよく見つかるが、ポリコチルス科などの首の短いタイプの長頸竜類でみつかることは少ない。長頸竜類では、推定される体重に対して胃石の重量が小さいことから、胃石は浮力の調節ではなく、食べ物の消化を助けるために使われたと考えられている。胃石の概形から胃石の採集地を推定する研究も行われており、多くの場合、河川あるいは沿岸域で胃石を飲み込んでいたという結果が得られている。実際、河川の堆積物からも長頸竜類の化石が産出し、一部の種は河川でも生息していたことが明らかになっている。 (久保 泰)

参考文献 References

Sato, T. & Tanabe, K. (1998) Cretaceous plesiosaurs ate ammonites. Nature 394: 629–630.