東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
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東京大学総合研究博物館ニュース ウロボロスVolime16Number3




真壁伝承館・歴史資料館の展示

松本文夫 (本館特任准教授/建築設計・情報デザイン)

 茨城県桜川市は筑波山の北側に位置し、桜川の流域に展開する人口45000人の市である。市内の真壁町には中世の城跡と近世の在郷町の町並みが残っており、城跡は国の史跡(1994年)に、町並みは国の重要伝統的建造物群保存地区(2010年)に指定されている。その真壁町の中心部に「真壁伝承館」という桜川市の文化施設がつくられ、2011年9月に開館した。ホール、歴史資料館、図書館、集会施設などを擁する多目的複合施設で、設計組織ADH(渡辺真理+木下庸子+山口智久)によって設計された。歴史的町並みの要素を抽出して再構成する「サンプリング&アッセンブリ」という計画手法によるデザインに特徴がある。
 真壁伝承館の中に設けられる「歴史資料館」の展示計画を、東京大学総合研究博物館が桜川市からの受託研究として行った。歴史資料館は、桜川市に関わるさまざまな歴史資料を収集保存し展示公開する施設である。旧歴史民俗資料館に蓄積された保存資料および最新の発掘成果を基盤として、新しい時代の要請に応えるミュージアムをつくることが求められた。真壁地区の歴史的町並み全体が、いわば「領域型ミュージアム」としての可能性をもっている。歴史資料館は都市域と連携した情報発信のセンターとして機能することが期待される。
 歴史資料館の展示においては、桜川市の歴史文化の全体像をわかりやすく展示するために、地域に関わる「時間」=歴史、「空間」=まち、「モノ」=たから、という3つの基本テーマを設定した。「時間」については、展示室1の「タイムライン」という絵巻状の展示によって桜川の歴史的変遷を示している。旧石器時代から現代までの時間軸の中で地域に生きた人々とさまざまな生産物が紹介される。「空間」については、展示室2で真壁地区の町の成り立ちを紹介し、町並、城跡、建物、陣屋等を展示している。真壁伝承館は江戸時代の藩の政庁が置かれた「真壁陣屋」の跡地に建っており、その最新の発掘成果も示されている。「モノ」については、展示室3に「たからケース」という展示什器を配して真壁の貴重資料を展示する。企画展示のテーマに関連する資料を配置するとともに、その名の通り、町に眠る「たから」をここでお披露目することも検討する。以上のように、時間、空間、モノという3つの切り口を通して、桜川の博物誌を多面的に描くことを企図している。
 展示空間はダークグレーの壁・天井と白いケース内装を基調としつつ、第3室ではそれを反転している。展示ケースには0.7×2.1mの定形ガラスを使用し、これを組み合わせることで全ての壁面ケースや展示什器を構成している。なかでも、「たからケース」は、立体積層展示の実験的な試みである。大小14の展示区画があり、これを単独のケースとして並べれば相当の床面積を必要とするが、立体パズルのように組み合わせることで1辺2.1mのキューブ形に集約している。限られた空間内で多様な展示表現を可能にするとともに、全体を「たから」としてパッケージ化することを意図している。これは総合研究博物館の「モバイルミュージアム」における展示コンパクト化に関わる新たな試行展開である。
 施設外の都市空間の中で展示を行う可能性も検討されている。真壁では毎年2〜3月に 「真壁のひなまつり」というイベントが開催される。100軒以上の家や店にさまざまな雛人形が飾られ、まさに町全体が雛のミュージアムと化した状態である。このような特別な機会でなくても、真壁の町を歩き、建物やモノを見て回り、地域の人々とふれ合うことは予想外の驚きに満ちた体験である。都市の日常空間の中に発見や共感の場を組み入れ、「領域型ミュージアム」としての可能性を探ることが構想の次のステップとして考えられる。

真壁伝承館・歴史資料館
・所在地:茨城県桜川市真壁町真壁198
・開館時間:9:00〜16:30
・入館料:無料
・休館日:毎週月曜日、月曜日が祝日の場合は火曜日、年末年始
・アクセス:常磐自動車道/谷田部IC、桜土浦ICから車で約40分。
 JR水戸線「岩瀬」駅より車で約15分。(公共交通機関での来館はできません)


図1 真壁伝承館の中に設けられた「歴史資料館」の展示 計画図

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図2 「たからケース」の概念図。多数の展示ケースを
立体的に集約する



図3 真壁伝承館の外観。外部展示は桜川之図と土器類


図4 展示室1の「タイムライン」の展示


図5 展示室2の真壁陣屋と発掘成果の展示


図6 展示室3の「たからケース」の展示